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ルビーとエメラルド

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「おはようございま~す! Yumeさん」

「おはよう、木坂くん。今日1日宜しくね」


マンションまで迎えに来てくれたのは、私の後輩の俳優、『相馬 孝浩』のマネージャーの『木坂 零』くんだ。

今日は真紘さんの代理で私のマネージャーをしてくれる、可愛い系の『男の子』で通りそうな好青年。

私が笑顔を見せると、何故か眩しそうに目を細める木坂くん。




「Yumeさん、何か良い事有りました?」


ヴ、何、この子ってば、鋭い。

木坂くんが、じっと私を見詰める。

何もかも見透かされそうな瞳に、私はぐらりと眩暈を覚えた。


「ねぇ、『Yume』さん。先輩って、洗練された物腰に、あのルックスじゃないですか。女性社員だけで無く、うちのタレントさんにも密かに人気があって、あの人を狙ってる方々が沢山居るって事、知ってます? と、言う訳なんで、『Yume』さん、呉々も女性陣には、気をつけて下さいね。まぁ、先輩もあれでいて筋金入りの硬派なんで、今んとこ、辛辣な言葉で散々、蹴散らしまくってますけども…………ね 」


急に何を言うのかと思ったら……………これ?

私は思わず、どもりながら言葉を返す。


「そ、そうなの…………?」


って。

けど、そんなの…………

初耳だわ。

そりゃあね、モテるだろうなっ、とは、思ってたけど…………。

って、何で木坂くん、急にこんな話、しだしたのかしら?


「木坂君、急すぎて付いていけないんだけど…………。何故、そんな話に? 」


小首を傾げる私に、木坂君がにっこりと(あぁ、これってキラースマイルだわ……クラクラする) 笑った。

この子、何でマネなんかしてるんだろ?

絶対、アイドルに向いてる…………。


『社長ー! アイドルの原石発見しました』って、今度合った時、進言しようと心の中で誓った私です。

 
「だってYumeさん、何か、こう、色々と吹っ切れてるみたいなんですもん。漸く御劔先輩、Yumeさんに告白したのかなって思って……。あれ? もしかして僕、ま違いました? 」


急にオロオロしだす、木坂くん。

ねぇ、真紘さん……。

私達の歪な関係、皆に知られてたみたい、ハラハラさせてた様ですよ……。

隠せてると思っていたのは、どうやら私達だけのようね……。

私は木坂くんに、曖昧な笑顔しか見せることが出来なかった。

だってそうでしょう。

私は、真紘さんから、皆に喜んで言えるような言質を、貰っていないのですもの。

2人だけの内緒の約束だけ…………。


「えっ……と、もしかして、僕の勘違いでした? 」


尚一層、慌てふためく木坂くん。

可哀想なくらい、慌てている真紘さんの後輩。

ごめんなさいね、木坂君。

本当の事は誰にも言えないけれど、私は彼に向けて、意味深な笑顔を見せた。


「Yumeさん、あの、俺、お二人には、幸せになって欲しいっす!!。そりゃね、確かにタレントとマネージャーって立場っすけどね、それでも、好き合ってるのに……何か、俺、見てられないっすよ! 」


木坂くんってば、本当に良い子だね。

他人の事が思いやれる、男なんだよね。

流石、真紘さんが育てた後輩さんだね。

私が心からの笑顔を見せると、木坂くんも笑ってみせてくれた。



よし、今日は、彼の為に頑張ろう。


 
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