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箱庭世界『ヴィシュヌ』
薬師、降り立つ
しおりを挟む「今頃、薬師様どうしてるのかなぁ。無事着いたのだろうか……… 」
円卓にべた~っと引っ付きながら、月光がだらんと弛緩している。
「皆様、お茶とお菓子が用意出来ましたわ。休憩なさいませんこと? 」
そう声を掛けて侍女にお茶の用意をさせたのは、此処の女主人、皇妃様だった。
「うわっ、美味そう~」
そう言ってガバッと跳ね起きたのは、言わずと知れた月光である。
「ほわあぁぁ………、俺、朝から何も食べて無かったんだよね~」
「月光…… お前は……… 」
呆れてものも言えない日光に、もぐもぐと焼き菓子を口に入れて行く月光。
「ん~? 何、日光? 」
小首を傾げる月光に、目が据わって行く日光。
「お前と言う奴は………、二、三、後退して、悟りを開く修行やり直して来なさい! 」
と、雷を思いっきり月光に落としたのだった。
────────────────
────────────
───────
さて、その頃薬師はと言うと。
三千世界の内の一界に降り立っていた。
勿論、私達には其処がどこかも解らないのだが。
TPOに合わせたのだろうか、茶系の天衣と言う布を、腰から腕などにぐるぐる巻きにして着用している所は、『ザ、如来』感が出てさながら私達が知る仏像のようだ。
うん。
ハッキリ言って、地味だ。
対して薬師の目の前にいる彼は、同じような天衣を着ているものの修行中の身である『菩薩』である為、装身具を身に付け、天衣の色も水色や黄色で華やかだ。
「おい、早速だがコイツを預ける。お前の方で何とかしろ」
無造作に放り投げるのは、真っ黒になったまるで棺のような物体。
何か、は言わずものがな、だ。
言われた相手は、半眼で瞑想していたまぶたを開いて、薬師を見た。
半跏思惟の形で座す彼は、言わずと知れた『弥勒菩薩』であった。
その形を崩し、ふわりと嬉しそうに笑う弥勒。
「薬師! 漸く来てくれた! 遅いですよ。待ちくたびれました」
「お前は………、少しは悪かったと思わないのか……ったく…… 」
はぁぁ、とわざとらしくも大きな溜め息を吐く薬師。
弥勒は、地位こそ薬師より下だが、ブッダの次にブッダになると約束されている人物(神だが)の為、薬師も自身を呼び捨てする事を許していた。
「ん~んん~……ちょっとだけ? 」
コイツ、蹴って良いかな、何か凄く蹴りたいんですけど………。
と、物騒な事を考え、それでもぐっと我慢出来る所は、流石、大人です。
弥勒は、薬師の足元に転がる長方形の黒い箱をしゃがんでツンツンと突っつきながら、
「この子も、もう駄目だ。こんなになる子じゃなかったんだけどね。あっちの人間だった時の事を思い出すと皆、瘴気に飲まれて仕舞うんだ。悲しい事だよ」
弥勒はそう言うと、掌をエアリアル嬢だった者に向けて優しい口調で真言を唱えた。
キラキラとした光の粒子がエアリアルの闇を包むと、スッと溶け込んで行く。
そしてそれは、グワッと膨張し内部からはじけた。
光の粒子と混じり合ったエアリアルだったものは、空に昇ると溶けるように消えていってしまった。
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