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箱庭世界『ヴィシュヌ』
『半跏思惟像』の守護神
しおりを挟む空を見上げ、粒子が消え行くのを見届けていた弥勒は、薬師を見ると再度嬉しそうに微笑みかけた。
「此処までご足労頂いてありがとう御座います。薬師瑠璃光如来様」
丁寧な言葉と口調で礼を取る弥勒に薬師はふっと苦笑いをしてみせると、手を下に向けてひらひらと振った。
「良いよ、何時も通りで。お前に改まれると何か……気持ち悪い」
「ええっ、ちょっと、酷く無いですか」
ジとっと目を眇めてみせる弥勒だが、薬師は一向に気にしないのかどこ吹く風だ。
それどころか、単刀直入に言いたい事を言ってのける始末だ。
「ハッキリ言わせてもらうぞ。二、三聞きたい事もあるしな。お前が夢想した箱庭が、何故人界で小説なんかになってるんだ? 」
「それは、人間の中に勘の鋭い人が居るのでしょうね。私の夢を読み取って見事に本にしましたね」
「簡単に言うなよ。何処までも人事に聞こえるから」
どうも他人事にしか感じない弥勒と、釈然としない薬師。
弥勒は、昔から飄々として掴めない男だった。
「で、何故何の相談も無く凪を攫った? お陰で、凪は記憶を失った。ナディアとして生きてきた十七年の記憶しか無いんだ」
それは暗に、凪が薬師の事を忘れたと言っているようなものだ。
実際ナディアは彼を覚えていないのだ。
その原因が弥勒なのだから薬師の憤りは想像に足る。
弥勒は薬師の言葉に眉を寄せて申し訳無さそうな表情を作った。
何事にも動じない、何時もアルカイックスマイルを表情としている弥勒には珍しく本音を出した表情だった。
「凪さんの記憶を付与しなかった事は謝罪致します。ですが、転生させた事は後悔していません。私の為だけで無く凪さんの為でも有りましたから……… 」
そんな弥勒の言葉に、薬師の表情がピクリと引きつる。
怒っている事が、手に取るように見て取れた。
「事と次第によっては、はり倒させて貰うが、良いか? 」
等々物騒な事を口にした。
「良いですよ。でも私は殴られない自信が有ります」
其処はドヤ顔を見せる弥勒。
表情は変えずに胸をはる。
『えっへん』そんな感じだ。
「薬師、貴方一部の神から大モテなの知ってますか? その為に、貴方の番の凪が貴方の魂で構成された彼女の魂と式神の身体を狙われていたのをご存知でしたか? 」
「は? 」
「やはりご存知有りませんでしたか………。凪さん自体を隠れ蓑にして一度貴方の番として抱かれてみたかったらしいですよ」
「あ? なんだ、それは。冗談「なんかじゃ無いです! 」」
薬師の言葉に畳み掛けるように被せる弥勒。
彼の言葉から、本当だと言う事を薬師は理解した。
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