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箱庭世界『ヴィシュヌ』
弥勒のお願い
しおりを挟む「何処の誰だよ、そんなぶっ飛んだ事をしようとした奴は……… 」
「知りたい? 知りたい? 」
薬師の言葉に、間髪入れずに聞き返す弥勒。
いかにもと言う感じで面白がっている。
「知りたくはないが、知らねばなるまい。事と次第によってはお灸を据えねば成らんだろうしな。我が番に手を出せばどうなるか身を持って知って貰わなければね。それに、私は凪以外興味はない。ましてやそっちの趣味も無い。それ以前に私は如来だ」
総ての修行を終えた身だと言いたい薬師は、暗に悟りを開いた者に欲はないと言いたいのだ。
番に対しての欲は、別物だけれども。
とも、居い加えた。
「だから、凪さんを狙ったんでしょうが。貴方に色欲が無いから。凪さん以外は」
「あぁ、なる程。そう言う事か、って、納得してる場合じゃ無いよな。で、私に色欲を仕掛けようとして頓挫した馬鹿は、どこのどいつだ? 」
流石薬師。
顔はにっこりと笑んではいるが、目が笑っていない。
そして、こてんと首だけ傾ぐ仕草が怖い。
そのご尊顔が、類い希なる美貌を持つだけに、その迫力半端無い。
── うわぁぁぁ…… マジで怖い。こわいいっ。本気でこの神敵に回さなくて良かったあぁぁ…… ──
必死のパッチの心の叫び……… 、な~んてこんなものか。
普段、余り怒らない薬師が怒ったら頗る付きで怖いと言う事実、弥勒はつくづく思い知った。
そして、『この際だから思った事を総て打ち明けよう』と決心した弥勒は、もう一つ考えていた事を薬師に告げた。
「もしかしたら、なのですが。凪さんを匿って転生させた事を彼等に気付かれたのかも知れません。凪さんの身体と心の中に潜む事は、彼等の悲願でもあり苦肉の作ですからね。彼等自身、凪さんを取り合ってますから、箱庭で悪さをしているのは彼等かも知れません」
「ふ~ん。辻褄は合うな」
「ええ。ですから薬師、箱庭の人達を助けて上げて下さい。私にも、少なからず彼等に愛着が有るのです。四体の神獣を解放していただけるだけで結構ですから、どうか宜しくお願いします」
弥勒は、薬師にペコリと頭を下げた。
彼にしては大変珍しい事だ。
逸れを知っていた薬師は、思わず目をすがめた。
「獣達を自由にするだけで良いんだな。その後は、ナディアが死ぬまでスローライフと決め込むからな。で、彼等ってのは誰だ」
「そっか、ナディアちゃん置いて帰る訳にも行きませんもんね」
そう言って弥勒はうんうんと頷いてみせると、
「彼等とは、『愛染明王』と、『哪吒太子』ですよ」
「ちょっと待て、寄りによって、あいつらか!? 」
薬師の声が、大きくなるのは致し方ない。
因みに、哪吒太子は道教の神だと普通では考えるが、元来仏教の神である。
道教ではナタクと良はれるが、仏教ではナタと呼ばれているのであえてそれで行っております。
薬師が、頭を抱えて溜め息を吐いた。
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