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諸悪の根源
やり場のない怒り
しおりを挟む心の声と口にする声、本音と建て前を薬師が毘伽羅に突きつけても、どこ吹く風を貫く毘伽羅も結構な性格をしている。
朱雀を挟んで薬師の反対側に陣取る毘伽羅に、薬師は溜め息を付いた。
何を言っても聞かないのだから当然の反応である。
朱雀は、己の両側に人がしゃがみ込む気配を感じてうっすらと目を開けた。
「ヒイッ!! 」
引きつった悲鳴が朱雀から放たれて、薬師は思わず片手で顔を覆った。
薬師の方を見れば良かったのに、運が悪かったのか朱雀は、事もあろうに毘伽羅を見てしまった。
恐ろしく強面の四角い顔に、怒ったような赤ら顔。
俗に言う憤怒の顔の神将を初めて見れば当然の反応かと思われる。
薬師や毘伽羅の、本地仏の如来の顔とは違うのだ。
薬師が顔を覆うのは、致し方の無い反応だった。
「毘伽羅、俺が許可する。本地仏の姿に戻れ…… 」
「ヘ? 良いの? 」
キョトンとした(強面だが)顔を毘伽羅が取っても、判るのは薬師だけに違い無い。
「やったね~! 」
と、毘伽羅は機嫌良く呟くと(見た目と中身のギャップがっ……)早速変身を解いた。
そして、朱雀は己の目を疑うように瞬く羽目に陥ったのだった。
その顔は先程と違って柔和で若い青年の顔だ。
髪は焦げ茶で短髪、瞳は茶色い。
柔和な表情を見せる彼は、如来だけあって装飾品は一切無い。
朱雀は、痛みなど忘れたように目をぱちくりさせた。
「こんにちは、可愛いお嬢さん、僕は悉陀って言います。みんなお釈迦様って呼ぶけど、あれって僕だけを指す訳じゃ無いから、悉陀って呼んでくれると嬉しいな」
と、にこにこと笑って言った。
あぁ、等々名乗ったよこいつと、薬師の呟きを横目で聞きながら。
悉陀はさらににこにこと機嫌良く笑っていた。
「お兄ちゃんの、笑顔見てたら、少し痛みが楽に、なった、みたい。ありがとう…… 」
途切れ途切れに言う言葉が痛々しい。
「シッダールタ、お前ずっと笑ってろ…… 」
「いゃ、薬師、それキツいよ…… 」
そう言いながら笑顔を貼り付ける悉陀は、その表情に癒やし効果が有る事を知っていた。
だからの笑顔なのだ。
それで朱雀の気を紛らわせながら、薬師は、朱雀の診断を開始する。
悪童と対峙する前に、朱雀にはシーツを被せてやっていてその上から軽く触れていく。
険しい表情を見せる薬師に、悉陀は眉を潜め不安げに問うた。
「薬師、大丈夫なの? 」
「重傷、ですね。命には別状有りませんが……。治療の為、白虎の国に連れ帰ります」
最後の一言は朱雀に向けての言葉だった。
「さて、どうやって連れ帰るかだが…… 」
「手足と、肋骨折られてればねぇ……、流石にそのまま動かすのは…ねぇ…… 」
「先ずは仙水で痛みを取って、手足の位置を元に戻して添え木をし、肋骨の位置を戻して身体を固定させる。薬を飲ませて時間経過の術を掛けての応急処置。此処じゃあ、満足のいく治療が出来ませんからね。あの糞童子共がっ…… 」
薬師が、ガンっと床を叩いて怒りを拡散させた。
余りの怪我の酷さに憤りを隠すことが出来ずにいた薬師だった。
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