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諸悪の根源
治療の一貫
しおりを挟む憤りを隠すこと無く現した薬師だったが、ひとつ深呼吸をして気持ちを落ち着けると、亜空間から病人用の小さな吸い飲みを取り出した。
薬師の世界の人界にある医療用具が、亜空間には規則正しく整理整頓されて収まっている。
勿論、ナディアの弟や騎士団を指パッチンで治したやり方も出来るが、朱雀の怪我のように、繊細さが求められる治療は人界の道具や治療法を用いる事もあった。
そんな理由で、この吸い飲みが有るのだが、その中身が普通じゃ無かった。
「薬師、それ…… 」
悉陀が震える声で吸い飲みを指刺す。
それとは対象的に、薬師は何でもないように言い放った。
「甘露を蒸留水で割った奴ですよ。痛み止め代わりにね。1/1000に割った物ですので単なる痛み止めです。不死者には成りませんよ。ご心配無く」
「嫌、そうじゃなくてぇ~!? 」
言いたい事は、解る。
けど、諦めろ悉陀。
それが薬師、この男だ。
総てが規格外、12神将の半数以上が本地仏持ちと言う面々を部下に持つ男なのだ。
甘露の一樽位、亜空間に隠し持っている事は朝飯前であった。
因みに本地仏は、錚々たるメンバーで、弥勒もその一人であると言えば、想像に足であろう。
因みに悉陀は、12神将1番目である。
さて、脱線はこの位にしなければ朱雀が可哀想だと薬師は悉陀にごちて、吸い飲みを朱雀の口元にやって言った。
「痛み止めだ。飲めば直ぐに痛みが取れる。飲めるか? 」
薬師の言葉に朱雀は、ヨロヨロと吸い飲みの先を口に付けるが吸い上げる事が出来なかった。
その力も出ない程衰弱していたのだ。
思った以上に状態は最悪だった。
「やはり無理か…… 」
何となく解ってはいた。
予知通りの状況と言える現状に、溜め息が出そうだ。
と、思わず薬師は思考する。
しょうがないと覚悟を決めて、
「ごめんな朱雀、コレも医療行為の一貫だ。許せ…… 」
そう、呟くように告げると吸い飲みからアムリタを吸って口に含むと、そっと朱雀の唇に自分の唇を重ね、舌先でこじ開けて口移しでアムリタを朱雀の中に移し入れた。
口内のアムリタを総て流し終えて唇を離すと朱雀を一瞥して、
「どうだ、少しは痛みが引いたか? 」
と、何事も無かったように問い掛けた。
あっと言う間だった。
ゴクリと飲み込んだアムリタは、口移しで飲まされても甘くてひんやりとして、美味しかった。
そして、その効果は覿面ですうっと痛みが引いてきた。
数分もしないうちに体中の痛みが無くなって、思わず動けるのではないかと勘違いしそうになる。
そんな訳が有るはずもなく、少し動かそうとすれば、痛みが出る。
「止めろって、動くな。手足が変形して良いのか、位置を戻してしまうまで身動ぎもするな」
と、気を良くした朱雀を薬師は叱りつけた。
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