無実の罪で断罪される私を救ってくれたのは番だと言う異世界の神様でした

黄色いひよこ

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諸悪の根源

帰還

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 シュンとした朱雀の頭を、薬師はなでなでと優しく撫でると、


 「今から手足の向きと肋骨の位置を元に戻すからね。流石に痛み止めが効いてても衝撃は、有ると思う。コレを噛んで舌を噛まないようにして下さい」


 そう言って朱雀にハンカチをくわえさせた。

 そして、心臓から遠い足から足を引っ張り元の位置に戻した。

 勿論、くぐもった悲鳴が上がったのは言うまでもない。

 薬師が、朱雀の治療に勤しんでいる間、彼女を励ましていたのは悉陀だった。

 優しく彼女を撫で続けて言葉をかけ続ける。

 そして笑いかけ、薬師の言う通り朱雀を励まし続けた。

 総てが終わった時、朱雀と悉陀に不可思議な連帯感と達成感が生まれていた。

 薬師も彼女に微笑みかけ、「良く頑張りましたね」と、労いの声を掛けた。

 骨折の処置を終え、薬壺から一粒薬を取り出すと、例の『金平糖』を朱雀に見せ、舐めさせた。


 「薬師!? それ、金平糖だよね!? 」


 と、言う声を思いっ切り無視しながら。


 「金平糖をベースにはしていますが、れっきとした薬ですので、悪しからず。この薬は、私特製の万能薬で、自然治癒力を三倍に上げる効果が有ります。朱雀、貴女の怪我は複雑骨折ですので、自然治癒に任せる事にします。無理やり治せばその弊害で、骨折し易い身体に成ってしまいますから、我慢して下さい。痛み止めも渡しますので、少しは楽だと思いますよ」


 そう言って薬師は漸く朱雀に晴れやかな笑顔を見せたのだった。


 「さて、後は彼女を運んで治療と看病なのですが……」

 「はいっ、私がしたい」


 機嫌良く手を上げる悉陀。

 彼女を気に入ったのだろう事が、有り有りとしている。

 意外と分かり易い男なんだなと、薬師は改めて思った。

 その証拠に、悉陀が彼女を運ぶと息巻いている。


 「仕方が無いですね。彼女を、決して落としてはなりませんよ」


 薬師はそう念を入れて注意すると、朱雀を腫れ物を扱うように優しく抱き上げた悉陀を一瞥して、徐に帰還の為の空間を切り裂いたのだった。




 空間の出口は薬師とナディアにあてがわれた部屋のリビングだった。

 薬師が空間から出ると、脇侍二人とライオンちゃん白虎が出迎えた。

 出て来た薬師を見て驚いたのが白虎だった。


 「ちょっと待ってよ?! あれれれ? どう言うこと?! 薬師様、今出て行った所ですよね! 」


 と、驚く白虎に答えたのは日光だった。


 「時空間移動を使ったのだと思いますよ。こういう事は迅速さが勝負になりますからね。って、薬師様、朱雀は? 」


 日光はそう言って思わず口を閉じてしまった。

 見なくても薬師の後ろに誰かが居る事が解ってしまったのだ、日光は。

 そしてそれは月光も同じだった。

 
 「うっわ~、めんどくさい人が来た気がするのは、俺だけ? 」

 「大丈夫だ。私も感じている」


 こんな風に言われてしまう悉陀って、如何なものかと、薬師は改めて感じた。

 リビングの空間に現れて横によけた薬師の後を、朱雀を抱えた悉陀が空間から出て来た。

 脱兎の如く飛び出した白虎をすんでて薬師が首根っこを捕まえる。

 月光が出て来た悉陀を見て、げっ、と蛙が潰れるような声を上げた。


 「何で此処に、お釈迦様が居るのかな~? 」


 月光の言いたい事も良く解る。


 知らない者には悉陀が此処に居る意味が解らなくて当然だと思えた。



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