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秘密
誰にも触れられない甘い記憶③
しおりを挟む「凪が……死ぬ? 」
咄嗟には飲み込めなかった現実。
「あぁ、死ぬ」
追い討ちを掛ける晴明の言葉。
晴明にとっても、辛い現実で……。
生前、陰陽師だった晴明は、此方に来て友の魂の一部と、常世の闇を混ぜ合わせ式神を作った。
己が娘として作り上げた式は、とても優秀で、晴明はその式に凪と名を与え、色々な事を教え込んだ。
天界と、人界と、地獄との狭間にあるこの『晴明屋敷』に、たまに酒を酌み交わしに来る友人に経過報告がてら、自慢する程に美しく成長した彼女は、晴明とその友人に慈しまれ、力を発揮していった。
そして、娘の凪が、側にいて可愛がってくれていた友人に懐くのも当たり前の事で、人界に降りると言い出した友人に、番を相談された時、晴明は迷う事無く娘を差し出した。
知っての通り、友人とは薬師。
櫂の事だった。
「櫂、せめて新しく造る式は、凪の魂をベースにしようと思う。凪とは違った式になると思うが、頼む。こらえてくれ」
くっと晴明が息を詰める気配が、櫂こと薬師にも届いた。
晴明とて辛いのだと、薬師も悟。
「今、凪と会えるか? 」
「勿論だとも。一週間だが、悔い無く過ごせよ、櫂」
晴明は、そう言って儚く笑った。
晴明の許可を得て、薬師は愛しい女の下へと急ぐ。
凪との別れを急に告げられて、覚悟なんて出来はしない。
産まれて初めて知る、失うものの大切さと絶望感。
限り有る命を持つ者にしか、計り知れない絶望は、神の侭では知り得なかった。
「なぎっっ!! 」
ガタンと乱暴に開けられる襖。
形こそ平安時代さながらの建物も、間仕切りは御簾では無く、現代風にアレンジされている襖。
凪の部屋に有るものも、現代から持ち込まれた三面鏡やベッドだった。
ノックも何も有ったもんじゃ無い。
いきなり開け放たれた襖に驚いたのは、起き上がっていた凪。
目を丸く見開いて、後に微笑みの形に瞳が瞬いた。
逢えると思っていなかった愛しい男に会えた喜びは以下程のモノだった事か。
「あっ……。櫂様…… 」
いきなり抱き締められた凪は、櫂の様子にしどろもどろだ。
そのぎゅうぎゅうとした力強さに、総てを悟った、聡明な心を持つ女は……。
「櫂様……。お父様にお聞きに成られたのですね」
そう言って寂しい顔で笑った。
「何故だ、凪っ。何故、お前なんだ…… 」
ぎゅっと腕に力が入る。
苦しげな声は怯えにも似て、凪の心を締め付け、自由になる手できゅっと薬師の服の裾を握る。
「櫂様……。ごめんなさい。あらがう事が出来なくて。貴方様を置いて逝く私を、許してなんて言いませんから…… 」
「なぎっ…… 」
今にも泣きそうに、まぶたを振るわせる彼女の姿は、儚げで美しい。
「お願いです、櫂様………。最期に私にお情けを……。私を抱いて下さいませ」
櫂に哀願する彼女は、ドキリトする程艶っぽく、その微笑は印象深かった。
「元よりそのつもりだ………。当たり前だろう。ずっと抱き締めたかった。凪の総てに触れたかった……。お前を抱きたい 」
そう言って薬師は優しく凪に触れた後、ゆっくりと彼女が寝ていたベッドへ押し倒した。
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