無実の罪で断罪される私を救ってくれたのは番だと言う異世界の神様でした

黄色いひよこ

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秘密

誰にも触れられない甘い記憶⑦

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 其処で薬師は目が覚めた。

 とても懐かしくて、甘くて、ついぞ忘れていた過去だ。

 と、言うのは少し語弊が有るか。

 正確には、思い出せば悲しくなる過去だ。

 彼女を失った悲しみは、明るくて、小さくて、けれどしっかりしていてぐいぐい来るもう一人の凪が癒やしてくれた。

 そんな彼女まで急に無くして、薬師は悲しむ事すら出来なかった。


 最初の奥さんの凪と、最期に抱き合っていた夢を見て、勿論、最後まで致して、何度も彼女のほとに精を放った夢を見たのだから、起きた時にはどうなるか。

 いくらな薬師でも解らない訳では無い。

 良い大人になっているのに。


 「くっそっ……、ガキかよ俺は。こんな歳に成って夢精なんてありえねぇ…… 」


 と、悪態を付きながら慌てて寝室の風呂場へと進んでいく。

 寝室から風呂場までの導線でタートルネックのシャツを脱ぎ捨て、インナーシャツを剥ぐ。

 ブーツのジッパーを下げて乱暴に脱ぎ捨て、ジーンズのベルトのバックルをガチャガチャと外し、靴下とボクサーパンツを脱ぐと、思わず逸れをどうしようかと思案する。

 見事に、夢の後先に出来た結果に脱力して、薬師はナディアの掛けていたクリーンの魔法を思い出す。


 「こうだったけかな? 」


 見様見真似で「クリーン」と呟いてみると、洗濯乾燥のイメージを脳内で描き見事に綺麗にして見せた。

 やはり、出鱈目薬師様はこんな時でも出鱈目である。

 洗濯魔法に満足した薬師はシャワーを捻り熱いお湯を出す。

 それにめい一杯打たれながら、薬師は瞑目した。

 思い出すのは先程の甘い甘い逢瀬の夢。

 熱いお湯がどんどん頭に降り注ぎ、身体の上を、髪の毛から落ちた雫が伝う。

 不謹慎だがこの男、この姿だけでもかなり色っぽい。

 絵になるのだ。

 きっと、世の乙女が『尊い』と呟く程の『シャワーシーン』。

 そんな姿も残念ながら、誰にも見せる事無くつい最近は終わっている。

 まぁ、己の魂の番にしか欲が湧かない人なので、裸体を晒すのはたまに脇士二人と温泉に浸かる時位だった。

 つい最近までは。

 でも今は、番であるナディアが居る。

 薬師は彼女を番と認め、愛情も少なからず抱いている。

 ナディアとは出会ってまだ二日目。

 二日しか経っていない事に、薬師は苦悩していた。


 ── このままでは、時間が無い ──


 「凪、お前ならきっと怒り狂うんだろうね。俺が考えている事を知ったら……。その為にナディアを抱いて、神の子を妊娠させようとしているんだから…… 」


 ははっ……。


 薬師が、顔を両手で覆って力無く嗤う。


 「凪……。お前に会いたい。何故、俺を置いて行った…… 」


 薬師は覆っていた手を退けると、当たるがままに熱い湯をそのまま被った。


 とある事に気付き、その行いに賛同するしか今の所道は無いと知った薬師は、運命に対し、しゃがみ込んで慟哭するしか無かった。

 優しすぎる神が故に、彼の苦しみを一番気付き知るのは、初代の凪しか居なかった。

 それだけ、彼女は彼の傍らに居たのだった。


 ── 今だけ、怖がるのも、泣くのも、感情を露わにするのも、今だけだから ──


 そうしたら、元の『薬師』に戻るから。

 櫂は、番を恋焦がれながら今だけだと呟いた。
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