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第二部:事の始まり
魔王様降臨す
しおりを挟む朱雀の神殿から数キロ離れた林の中、十人近い男共が呻き声を上げていた。
否、正確には悲鳴だ。
そしてその場の隅っこには、青龍と朱雀が抱きしめ合って小刻みに震えて、阿鼻叫喚な目前中央を見ていた。
其処には婉然と微笑む妖艶な魔王。
もとい、魔王さながらの薬師様。
通常、彼のリミッター役を引き受けている脇侍二人が不在な為、留め役が居ない。
それが功を奏したのかそうでないのか、ナディア捜索はサクサクと進んでいた。
聖獣二人がプルプルと震え、薬師を敵に回さなくて良かった~と切実に思う程には、怒らせた薬師は非情であった。
そして、普段以上に尊く美しい神であった。
薬師様の魔王様化。
それは総てを魅了して仕舞える程には、二神にとってセンセーショナルと言えた。
錫杖を賊の頭領の首元に突き刺し、腹を踏みつける薬師に、筋骨隆々の筈の頭領は何故か指一本すら動かせない。
薬師の身体から、沸々と湧き上がる黒い闘気が男を恐怖のどん底に貶める。
その証拠に、男の手下達は薬師の施した術と闘気で『地獄』をさ迷っていた。
本当に『地獄』に落とした訳では無い。
何せ薬師は殺生は嫌いだ。
如来様だから殺しはしないが、その代わり疑似体験をさせる。
脳に働きかけ、本物と変わらぬ夢を見させる。
其れは其れは、ちょっとやそっとでは解けない夢を。
「お前達の事です。僅かな金品と引き換えに彼女を誰に売ったのですか? 」
怒り心頭な割に、見た目通常運転な薬師に、聖獣二人は少しだけ震えが止まる。
少しほっとしたのだろうか。
其処へちょうど男の懇願する声が、二神の耳に飛び込んできた。
「頼むよ、何でも全部話すから、命だけは助けてくれっ!! 」
「ならば言いなさい。彼女を誰に売りましたか? 」
「売ってねぇ! 逃げられたんだよっ!! あの変なちっこいのに邪魔されてよぉっ!! 」
男の供述に、薬師が目を細めた。
「ちっこいの? ですか? 」
「おぅ!! そうだよ! 黄色くてちっこい変な生きてるぬいぐるみだよ!! 」
「ふ~ん、そうですか…… 」
薬師がしばし考え込んだ。
男を踏みつける力と黒い闘気が若干緩む。
逸れを男は見逃さなかった。
そう言う隙を付ける所は、流石、頭領。
その名は伊達では無かったか。
だが、それ以上に彼は運が無かった。
そして、ひたすら相手が悪かった。
頭領は、一瞬動いた腕で足蹴にされていた腹から、薬師の足を払おうと力任せに振り抜いた。
その瞬間に、頭領は思わず薬師の顔を食い入るように見てしまった。
そう、見てはならなかったと言うのに……。
男は、薬師に釘付けになった。
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