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第二部:事の始まり
薬師と白龍
しおりを挟む「如何でしたか? 奥方様の御様子は? 」
パチッと目を開けた薬師の目前に、覗き込む己と同じ顔を目にして、彼は心臓が止まるかと言う思いをして息を飲んだ。
いくら己の顔に無頓着な薬師でも、コレはやはり心臓に悪いと思うらしく、ゆっくりと息を吐く。
自分とは違う所は彼は白いと言う事と、本性は龍だと言う事か。
龍と言えども西洋ドラゴンでは無く、東洋系のドラゴンだ。
竜玉を持つあの龍。
彼は青龍の夫で白龍と言い、薬師の外見を元に造られたクローンのような物だ。
その彼が今、青龍に変わり薬師に付き従っていた。
「顔が近いよ、浩宇」
薬師はそう言って容赦無く白龍の顔を押しやった。
顔を変な風に潰されて唸る白龍を横目に、薬師がははっと笑う。
ナディアが行方不明になってから、笑わなかった薬師が乾いた笑いでも声を上げて笑った事に、白龍は安堵する。
勿論、潰された顔を押さえてだが。
薬師が、表情に笑みを刻んだ儘、言葉を紡ぎ出す。
「不安そうだったけれど、元気そうでは有りましたよ。あの様子では怪我も無さそうですし……。強いて言えば、記憶が少し…… 」
そう言って薬師が苦笑いをしてみせる。
「記憶……ですか? 」
「ええ、此処数年分の記憶が封じられて居るようです。最初、赤の他人を見るような目で見られましたから、間違い有りません。大方忘れ草の谷にでも迷い込んだのでしょうね…… 」
そう言う薬師は呆れ顔で笑う。
好奇心旺盛な妻のする事だ、娘時代に戻っている彼女は、薬師の知る彼女以上にお転婆だった。
もう六年、けれどまだ六年。
しがらみが取り払われた彼女は、有る意味最強だ。
薬師は、出会った頃のナディアを思い出してふっと笑った。
そんな折、場の雰囲気を壊す劈く女の悲鳴が部屋の入り口から聞こえた。
因みに、此処は青龍の神殿に設置されている御屋敷(洞窟内に設置されている)の客間である。
「きゃ~~~❤」
何だか悲鳴の種類が違うような気がする。
「いゃ~っ💕尊いわぁ❤ ダーリンが薬師様を襲ってるぅ」
ぴょんぴょん跳ねる少女のような女。
薬師と同じタイミングで声のする方を見た浩宇は、其処に己の細君を見付け、頭を抱えるのであった。
「尊い……って……何がだ……? 」
そう呟く薬師に、浩宇が溜め息混じりに応えた。
「ちょっと腐り病が再発しただけです。気にしないでやって下さい…… 」
「あ……、腐女子なのか。あ奴…… 」
意外な白龍の言葉に、物知り薬師が半ば呆れたようにものを言った。
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