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第2部:御披露目の前
亡者と国守③
しおりを挟むそうしてこの場から、祥啓諸共消え去ろうとしていた亡者共に、待ったをかける者がいた。
「もし、お願いでございます。一時その者と話をさせて頂きませんか? 」
そう言って亡者共を呼び止めたのは、第一夫人の紅嵐であった。
勿論、夫人には亡者は見えていない。
宙に浮いている祥啓と、薬師が連れて来た神々の会話を見ての判断で、夫人は祥啓を連れて行こうとしているのが、死者であると判断した。
そして彼女の心情としては、『死者は丁寧に敬うもの』としてあった為に、丁寧な口調で彼等にお願いしたのだった。
それなのに祥啓ときたら、良い歳をして子供のように夫人に助けを乞うた。
但し、尊大に。
「紅嵐! 早く僕を助けろ! この、グズが! 」
やはりこの男、察しが悪い。
こんな態度で、此処にいる皆にドン引きされるとは、思わないのか。
脳味噌が湧いている。
「言うに事欠いて『クズ』が夫人の事グズって言ってる~。ほんっっと、非道いよねぇ。自分はクズなのに。ねぇ、そう思わない安底羅? 」
そう問われて、天女に化けていた安底羅が因達羅に近付きながら変化を解いた。
「なっ、なっっ、おっ、おまえぇぇ~~ 」
そう叫んだのは祥啓である。
目の前で絶世の美女が男に変わったのだ。
祥啓が、地団駄を踏んで騙されたと悔しがるのはこの場にいた一同にとっては、想定内であった。
「はいは~い、安底羅が男だったって事はこの際どうでも良いんだよね~、それより君は第一夫人の話を聞かなきゃならない。最後なんだから、それくらいしなきゃね~」
と、因達羅は祥啓の側で屈み込むと覗き込むような体制で言ったのだった。
「き、貴様っ! 」
少年の姿をした因達羅の事を、祥啓は見た目で判断したのだろう、怒声を浴びせようとした所、
「態度がデカいよ。お口チャック」
と、因達羅に言われ、彼が己の口元をファスナーで閉じるような動作をすると、なぜか祥啓の口がムギュッっと閉じて怒声が口の中に吸い込まれてしまった。
「ん~んん、ん~!? 」と、声無き声になるばかりであった。
勿論、この世界でお口チャックと言ってみても、ファスナーの概念が無いので通じない。
あればそれはそれは画期的な発明になるであろう。
そんな中、因達羅は立ち上がるとにっこりと微笑んで第一夫人を見た。
安底羅や日光までもが彼女を見やる。
月光が彼女の隣に進み出て、
「さぁ思う損分話すが良い」
と、夫人に言いつけた。
そう言われて紅嵐は、洗練された所作で音もなく祥啓の前に進み出ると、祥啓を見下ろした。
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