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第2部:御披露目の前
亡者と国守②
しおりを挟む月光の言葉に角から現れたのは3人の女性だった。
祥啓が3人に助けを求めて這い出すが、3人は彼をよけてわらわらと逃げた。
「お前たち、何故僕を助けない!? 」
「何故ですって、私達あなたをずっと憎んでいるからですわ」
「な、なんだと……!?」
第2夫人が険しい目を彼に向け祥啓は驚きに目をみはっている。
彼はこの瞬間まで己が嫌われているとは露ほどにも思っていなかった。
そう、気付きもしなかったのだ。
そんな中、彼の衣服を掴み引く手があった。
それは、ぼろを纏った腕だ。
その腕の持ち主が衣服から腕に持ち替えて、彼を引きずり第2夫人から引き離した。
『その子から手をお放し。あんたは私達と一緒に来るんだよ』
老女なのに、引きずり倒す力は並では無い。
それは偏に、彼女が霊体だからなのか。
第2夫人は思わず目をしばたたせた。
何故か。
彼女には老女は見えない。
ただ、祥啓が不恰好に右腕を上げて、あらぬ方向に身体を捻り、引きずられてゆくそんな光景が見えているだけだった。
勿論、老女の声も聞こえない。
老女の反対側で、老人が祥啓の左腕を捉えた。
『これからはもうお前を悩ませる者も無くなる。だから幸せにおなり。私の愛娘よ…… 』
老人は最愛の妻と共に祥啓を引きずる。
彼の声も夫人は聞く事が出来なかった。
首の落ちた男が、己の首を同大会に乗せるとむんずと祥啓の両足を掴んだ。
するととうとう祥啓は、妻達にとって宙に浮かんだ状態に見え、彼女達を驚愕させた。
「君達、会って行かないのですか? 」
祥啓を連れて去り行こうとする死霊達を呼び止めたのは月光。
何と言う訳では無いのだ。
強いて言えばそう、ほんの小さな気まぐれ。
最後の最期にもう一度、話をさせてやろうと言う仏心が芽生えた訳だが。
『寛大なお心、痛み入ります。会って話がしたいのは山々ですが、止めておこうと、我々は話し合って決めました』
あろう事か、祥啓の脚を持つ男が落ち着き払った声音で月光にそう言ったのだ。
彼の言葉に老夫婦が同時に頷く。
そんな様子に、月光はフッと笑ってみせた。
「潔いですねぇ…… 」
『我等は随分と昔にこの世を去りました。今を生きるあの子達の心を、今更騒がせたく無いのですよ……。こんなナリですし…… 』
優しい、慈しむ老人の声音には、いたわりが滲む。
脚を持つ男も、嘗て愛を誓った女を優しい眼差しで認め、
『幸せになれ…… 』
そう呟いた。
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