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第2部:御披露目の前
亡者と国守⑤
しおりを挟む「紅嵐…… 」
茫然自失。
妻がこんな事を考えていたとは、露ともおもわなかった愚鈍な男、祥啓。
「貴男様が私利私欲で殺めた方々は此処におられる方々だけではございませんでしょう? その方々に懺悔なさりつつ、お勤めなさっていらっしゃいな。貴男様が変われると良いのですが……、如何なものでしょうね。きっと貴男の事です、わたくしが生きている内にその性根が変わり、再会……するのは不可能でしょうね、きっと……」
全く持って、彼女の言う通りだ。
この期に及んで、まだ紅嵐にわめき散らす祥啓に、誰もが深く溜め息を吐く。
「もう良いよ。連れてって」
感情の一つさえ籠もらない因達羅の声音が、ゾクリと祥啓の背中を這い、彼の喚く声がビタリと止む。
それに合わせたように祥啓の身体が浮き上がり、ゆさゆさと揺れ出した。
言わずもがな、亡者達の仕業だ。
誰が見ても、コレが祥啓の最後と言える出来事だ。
その途端に祥啓が、叫ぶように言った。
「たっ、助けろっ!! いや、助けてくれぇっ!! 紅嵐っ! 蓮鳳ぉ!! 繚憐っっ!! 」
が、彼は誰にも助けられる事無く亡者達に連れられてゆく。
今更。
祥啓が助けを求めても手が伸びる事はない。
それは己がして来ていた事に、見事に比例していたと言う簡単な事象に彼は気付かない。
気に入らないから、そんな理由で命乞いをする者、許しを乞う者を、彼はどれだけ罰して来たか。
その報いを、彼は今から受けるのだ。
今此処で、祥啓が天罰を食らうのは偶然か、それとも必然か?
薬師如来の片割れが、この男に拐かされたから受ける報いと言うのは、真実なのか。
真実は、もっと違う所に在るのか。
それは……。
亡者に連れて行かれる祥啓を、目を逸らす事無く紅嵐達は見詰めている。
各々何を考え憂うのか。
彼女達は、祥啓の周りに霧が立ちこめ始めるのをじっと見据え、それに巻かれるようにして姿を消して逝くのを無言の儘見送った。
悲しむ者など誰独りとして居ない。
自業自得としか言えないが、呆気ない人生の幕引きであった。
コレが神の仕業、所謂、『神隠し』であった。
「色々、御迷惑をお掛け致しました。この西河領を代表してお詫び申し上げます」
深々と首部を垂れる紅嵐に、答える月光。
「その文言は、我が主である薬師様にお願いします。我らはあのお方の意向に添ったまで。後は地獄の官史にお任せしましょう。さあて、あれが六道のどこに行き着くか見物ですねぇ…… 」
そうふっと口元に笑みを刻むと、月光は何事も無かったかのように、皆を連れてその場を立ち去ったのだった。
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