悪女で悪魔

６

「何の騒ぎだ！」
「大丈夫！？」

転んだ少女の元に2人の男が駆け寄った。
1人は輝く金色の髪を持った美丈夫。少女と私の間に立ち私を咎めるかのように鋭い視線を投げかけて来た。
もう1人は焦茶色の長い髪を纏め団子にしたこちらも美丈夫。少女の隣へ行き手を貸していた。この男も少女を助けながら私を睨みつけていた。

この2人は2学年の首席と2番目。見た目が良く魔法も強い。さらに親が騎士団長、副団長を務めていることから2学年で騎士団入団候補であると言われ、絶大な人気を誇っていた。

「⋯⋯ユナイデル。彼女を突き飛ばしたというのは本当か」

隣にいた1学年の生徒に事情を聞いた首席が私に事実を確認して来た。
しかし私は右手の痛みが強く、あげく頭痛もしてきたため意識が薄れつつあった。首席が何か言っているのは分かったものの何を言っているのか分からず返答ができなかった。

「ユナイデルいくらお前の家が偉いとて、入学したての少女を突き飛ばし許させるとでも思っているのか」

首席と2番目、その他生徒の視線が刺さる中私は右手の痛みと本能が暴れそうになるのを抑えるのに必死だった。
さっきから男の匂いに敏感になっていた。しかし、首席と2番目が来た途端どうだ。他の男たちよりも遥かに強くさらに甘く今すぐにでも喰らい付きたいという本能が頭の中で暴れていた。
今ここで何を食べたいと思っているのか分からなかったが本能のまま動いたら取り返しのつかないことになる気がしたため必死に耐えた。

「⋯⋯し、つれいします」
「おい！」

1人にならなければ、そう思い私は背を向け逃げ出した。私を呼ぶ声がしたが2人の匂いに耐えられず足早にその場を去った。

そのまま空き教室に体を滑り込ませ私は腰を抜かしてしまった。ナニかを求めている私。〝どこに〟喰らい付きたいか薄々気がつき始め、〝なにを〟食べたいと考えているかわかり始めて来た。
しかし、なぜ突然この本能がぶり返したのかもう何百年もこの能力は抑えられていたのになぜ、私は疼く体を必死に落ち着けようとしながらも頭の中はパニックでまともに考えられなかった。


──私が立ち去った玄関前では少女を立ち上がらせ、2番目と首席で保健室へと連れて行った。
その場に残された2、3年の生徒は悪女に対しさらに嫌悪を深めた。男は少女の可愛さに心を奪われ、女は人気な2人に助けられた少女に対し小さな妬みを覚えた。
1学年の者たちは〝ユナイデル〟と呼ばれた女の怖さ、そしてあまりにも美しすぎる見た目を知った。