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私が見つけたもの
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陽だまりのように穏やかだった夏の日々にも、少しずつ夕暮れの影が差し始めていた。あれほどけたたましく鳴り響いていた蝉の声は、いつしか涼やかな音色を奏でるひぐらしの声へと変わり、朝夕の風には、秋の気配が混じっている。
都会へ帰る日が、すぐそこまで近づいていた。
その日、叔父さんの家の前に、一台の黒いセダンが静かに停まった。丹念に磨かれたその車体は、この緑深い景色の中ではひどく浮いて見える。運転席から降りてきたのは、父だった。助手席からは、心配そうな顔をした母が続く。
「美晴」
母が、私の名前を呼びながら駆け寄ってくる。私の顔を覗き込み、以前より少し日焼けして血色の良くなった頬に触れては、ほっとしたように目を細めた。
父は、そんな私達から少し離れた場所に立ったまま、腕を組んでいる。その表情は硬く、何を考えているのか読み取れない。けれど、以前のような私を問いただす鋭さはなく、どこか戸惑いが滲んでいるように見えた。
母の丁寧な挨拶に、叔父さんは短く応える。父と叔父、実の兄弟であるはずの二人の間には、どこかぎこちない空気が流れていた。
「さあ、美晴。荷物をまとめなさい」
母の言葉に、私は黙って頷いた。だが、その前に、どうしても伝えなくてはならないことがある。
「お父さん、お母さん。見てもらいたいものがあるの」
私は、固く閉ざされていた心の扉を、自らの手でゆっくりと開けるように言った。そして、二人の返事を待たずに、仕事小屋へと向かう。両親は顔を見合わせた後、無言で私の後をついてきた。
ぎぃ、と音を立てて扉を開けると、油絵の具の濃密な匂いが、二人を包み込む。
そして、目の前に広がる光景に、両親、特に父が息を呑むのが分かった。
仕事小屋の壁という壁に、この夏、私が描いた月読のスケッチが隙間なく貼られていた。様々な角度から捉えた、モノクロのデッサン。そして、部屋の中央に置かれたイーゼルには、まだ描きかけではあるものの、叔父から譲り受けた絵の具で彩色を始めた、一枚のキャンバスが立てかけられている。
その視線の先、一番高い止まり木の上で、本物の月読が、大きな琥珀色の瞳で静かに侵入者たちを見下ろしていた。
父は、何も言えずに立ち尽くしていた。娘がただ傷心旅行に来て、時間を無為に過ごしているだけだと思っていたのかもしれない。しかし、この部屋に満ちた創作の熱気と、娘がこれほどまでに何かに打ち込んでいたという事実は、彼の想定を遥かに超えていたのだろう。その横顔には、怒りや失望ではなく、純粋な驚きと動揺が浮かんでいた。
私は、父のそんな表情を、生まれて初めて見た気がした。
小屋の濃密な空気の中で、長い、長い沈黙が続いた。父は壁に貼られた無数のスケッチと、イーゼルに置かれたキャンバスを、何度も往復するように見つめ、何かを懸命に理解しようとしているようだった。
私は、説得や反論の言葉を探すのをやめた。今の私にできるのは、この夏に見つけた宝物を、ただありのままに見せることだけだ。
静かにイーゼルに近づき、この夏の私のすべてを注ぎ込んだ一枚の絵を、両親の方へとそっと向けた。
「見て」
私の声は、自分でも驚くほど穏やかに、澄んで響いた。
「これが、この夏、私が見つけたものなの」
キャンバスの中の月読は、まるで生きているかのようだった。夜の森の深淵を宿した羽、その一枚一枚の柔らかな質感。そして、何よりも見る者を射抜くのは、あの琥珀色の瞳。ただ美しいだけでなく、その奥に揺るぎない知性と、悠久の時を生きてきた賢者のような静けさが宿っている。それは、私が月読と過ごす中で感じた、畏敬と親しみの全てだった。
私は、両親の目をまっすぐに見つめて微笑む。それは、作り笑いでも、強がりでもない、心の底からの笑顔だった。
「絵を描くのが、こんなに楽しかったんだって思い出したの。誰かに評価されるためじゃなくて、ただ、私が描きたいから描く。その気持ちを、月読が思い出させてくれた」
父は、もう一度、キャンバスに目を落とした。食い入るように絵を見つめるその瞳が、ほんの少し、潤んでいるように見えたのは、きっと気のせいではない。
長い沈黙の後、父は、絞り出すような、それでいて深い感慨のこもった声で呟いた。
「……いい目を、してるな」
その言葉が、絵の中の月読に向けられたものなのか、それとも、晴れやかな顔で自分の前に立つ娘に向けられたものなのか。私には分からなかった。けれど、その一言に、父の全ての想いが込められていることだけは、はっきりと伝わってきた。
隣で、母がそっとハンカチで目元を押さえている。その肩は、小さく震えていた。
もう、言葉は必要なかった。
一枚の絵が、不器用な家族の心を、言葉以上に固く、そして温かく結びつけてくれたのだ。
仕事小屋の開け放たれた扉の向こうで、叔父さんが、その全てを静かな目で見守っていた。その口元に、いつものような、ぶっきらぼうで優しい笑みが浮かんでいるのを、私は見逃さなかった。
---
夏の終わりを告げる、どこまでも澄んだ青空が広がっている。荷物をまとめたスーツケースは、ここへ来た時と同じ重さのはずなのに、不思議と軽く感じられた。
父のセダンの前に立つと、意を決したように口を開いた。
「美晴。お前の好きにしなさい」
その声は、もう以前のような高圧的な響きを持っていない。
「ただし、自分で選んだ道だ。責任だけは、持て」
それは、父なりの不器用なエールだった。ただ反対するのではなく、私を一人の人間として認め、その覚悟を問うてくれている。私は「うん」と力強く頷き、隣で優しく微笑む母の顔を見た。家族の間にあった厚い氷は、すっかり溶けてなくなっていた。
玄関先まで見送りに来てくれた叔父さんに、私は深く頭を下げる。
「叔父さん、本当にお世話になりました」
「……ああ。いつでも帰ってこい。あいつも、待ってるだろうからな」
叔父さんはそう言って、仕事小屋の方をちらりと見やった。
車に乗る前に、私は最後にもう一度だけ、小屋へと向かった。扉を開けると、月読がいつもの止まり木の上で、静かに私を見下ろしている。私は彼の足元まで近づき、その大きな琥珀色の瞳を見上げた。
「ありがとう、月読」
声が、少し震える。
「あなたのおかげで、私はまた、絵が描けるようになったよ。本当に、ありがとう」
感謝の気持ちが、涙と一緒に溢れそうになるのを必死でこらえた。
月読が、ふわりと音もなく止まり木から飛び降り、私のすぐ目の前に、静かに舞い降りたのだ。そして、まるで私の言葉に応えるかのように、その大きな眼差しでこちらをまっすぐに見つめている。私はそっとその頭を撫でた。
羽毛の柔らかな感触と、確かな生命の温もり。ほんの数秒の、けれど永遠のようにも感じられる時間。言葉を交わさない相棒がくれた、最大級のはなむけだった。
小屋から出てくると、叔父さんが何も言わずに、手のひらを差し出してきた。その上に乗っていたのは、一枚の美しい羽。月読の体から、自然に抜け落ちたものだろう。
「お守りだ」
叔父さんは短くそう言って、私の手にそっと握らせてくれた。森の夜の色をした、軽くて、温かい羽。この夏の全てが凝縮されたような、小さな、けれどずしりと重いお守りだった。
私は車に乗り込み、窓を開けて大きく手を振る。遠ざかっていく景色の中、家の前で静かに佇む叔父さんと、小屋の入り口からこちらをじっと見つめている月読の小さなシルエットが、いつまでも見えていた。
「またね」と、声にならない声で呟きながら、私は手の中の温かい羽を、強く、強く握りしめていた。
---
都会の自分の部屋に戻ると、窓から見える景色は何も変わっていなかった。遠くで車の走る音が聞こえ、隣のマンションの窓には、同じように明かりが灯っている。けれど、私の目には、そのありふれた風景さえもが、以前とは全く違って見えていた。
机の上に、あの夏のお守りをそっと置く。月読の、一枚の美しい羽。それがあるだけで、この無機質な部屋にも、あの森の静かで深い空気が流れ込んでくるようだった。
私は、部屋の隅に立てかけてあった、新しいキャンバスをイーゼルにセットした。
真っ白な、何も描かれていない四角い世界。
かつては、私の無力さをあざ笑う巨大な壁にしか見えなかったこの白さが、今は、少しも怖くない。むしろ、これからどんな世界でも描くことのできる、無限の可能性を秘めた空のように見えた。
パレットの上に、新しい絵の具を絞り出していく。赤、青、黄色。叔父が譲ってくれた古い絵の具箱から受け継いだ色と、新しく自分で買い揃えた色。それらが混じり合い、私のパレットは、まるで夜明け前の空のように、希望に満ちた色彩で輝いていた。
筆を手に取る。
その指はもう、石のように重くはなかった。
心には、あの夏の温かい記憶が灯っている。
言葉少ない叔父さんの不器用な優しさ。私を信じようと決めてくれた、両親の愛。そして、音もなく空を飛び、まるで世界の全てを見つめているような、あの静かな相棒の琥珀色の瞳。
月読が教えてくれた、心を静かに澄ますこと。
一つの見方に囚われず、視野を広く持つこと。
そして、自分自身の心を、何よりも信じること。
その全てが、今、この手の中にあった。
私は、すっと息を吸い込むと、迷いなく、キャンバスに最初の一筆を下ろした。
どんな絵が生まれるのか、まだ分からない。
けれど、もう大丈夫。
私の心には、あの忘れられない夏が灯してくれた、決して消えることのない、温かくて確かな光があるのだから。
その光を道しるべに、私はこれから、私だけの色で、私だけの明日を描いていく。
都会へ帰る日が、すぐそこまで近づいていた。
その日、叔父さんの家の前に、一台の黒いセダンが静かに停まった。丹念に磨かれたその車体は、この緑深い景色の中ではひどく浮いて見える。運転席から降りてきたのは、父だった。助手席からは、心配そうな顔をした母が続く。
「美晴」
母が、私の名前を呼びながら駆け寄ってくる。私の顔を覗き込み、以前より少し日焼けして血色の良くなった頬に触れては、ほっとしたように目を細めた。
父は、そんな私達から少し離れた場所に立ったまま、腕を組んでいる。その表情は硬く、何を考えているのか読み取れない。けれど、以前のような私を問いただす鋭さはなく、どこか戸惑いが滲んでいるように見えた。
母の丁寧な挨拶に、叔父さんは短く応える。父と叔父、実の兄弟であるはずの二人の間には、どこかぎこちない空気が流れていた。
「さあ、美晴。荷物をまとめなさい」
母の言葉に、私は黙って頷いた。だが、その前に、どうしても伝えなくてはならないことがある。
「お父さん、お母さん。見てもらいたいものがあるの」
私は、固く閉ざされていた心の扉を、自らの手でゆっくりと開けるように言った。そして、二人の返事を待たずに、仕事小屋へと向かう。両親は顔を見合わせた後、無言で私の後をついてきた。
ぎぃ、と音を立てて扉を開けると、油絵の具の濃密な匂いが、二人を包み込む。
そして、目の前に広がる光景に、両親、特に父が息を呑むのが分かった。
仕事小屋の壁という壁に、この夏、私が描いた月読のスケッチが隙間なく貼られていた。様々な角度から捉えた、モノクロのデッサン。そして、部屋の中央に置かれたイーゼルには、まだ描きかけではあるものの、叔父から譲り受けた絵の具で彩色を始めた、一枚のキャンバスが立てかけられている。
その視線の先、一番高い止まり木の上で、本物の月読が、大きな琥珀色の瞳で静かに侵入者たちを見下ろしていた。
父は、何も言えずに立ち尽くしていた。娘がただ傷心旅行に来て、時間を無為に過ごしているだけだと思っていたのかもしれない。しかし、この部屋に満ちた創作の熱気と、娘がこれほどまでに何かに打ち込んでいたという事実は、彼の想定を遥かに超えていたのだろう。その横顔には、怒りや失望ではなく、純粋な驚きと動揺が浮かんでいた。
私は、父のそんな表情を、生まれて初めて見た気がした。
小屋の濃密な空気の中で、長い、長い沈黙が続いた。父は壁に貼られた無数のスケッチと、イーゼルに置かれたキャンバスを、何度も往復するように見つめ、何かを懸命に理解しようとしているようだった。
私は、説得や反論の言葉を探すのをやめた。今の私にできるのは、この夏に見つけた宝物を、ただありのままに見せることだけだ。
静かにイーゼルに近づき、この夏の私のすべてを注ぎ込んだ一枚の絵を、両親の方へとそっと向けた。
「見て」
私の声は、自分でも驚くほど穏やかに、澄んで響いた。
「これが、この夏、私が見つけたものなの」
キャンバスの中の月読は、まるで生きているかのようだった。夜の森の深淵を宿した羽、その一枚一枚の柔らかな質感。そして、何よりも見る者を射抜くのは、あの琥珀色の瞳。ただ美しいだけでなく、その奥に揺るぎない知性と、悠久の時を生きてきた賢者のような静けさが宿っている。それは、私が月読と過ごす中で感じた、畏敬と親しみの全てだった。
私は、両親の目をまっすぐに見つめて微笑む。それは、作り笑いでも、強がりでもない、心の底からの笑顔だった。
「絵を描くのが、こんなに楽しかったんだって思い出したの。誰かに評価されるためじゃなくて、ただ、私が描きたいから描く。その気持ちを、月読が思い出させてくれた」
父は、もう一度、キャンバスに目を落とした。食い入るように絵を見つめるその瞳が、ほんの少し、潤んでいるように見えたのは、きっと気のせいではない。
長い沈黙の後、父は、絞り出すような、それでいて深い感慨のこもった声で呟いた。
「……いい目を、してるな」
その言葉が、絵の中の月読に向けられたものなのか、それとも、晴れやかな顔で自分の前に立つ娘に向けられたものなのか。私には分からなかった。けれど、その一言に、父の全ての想いが込められていることだけは、はっきりと伝わってきた。
隣で、母がそっとハンカチで目元を押さえている。その肩は、小さく震えていた。
もう、言葉は必要なかった。
一枚の絵が、不器用な家族の心を、言葉以上に固く、そして温かく結びつけてくれたのだ。
仕事小屋の開け放たれた扉の向こうで、叔父さんが、その全てを静かな目で見守っていた。その口元に、いつものような、ぶっきらぼうで優しい笑みが浮かんでいるのを、私は見逃さなかった。
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夏の終わりを告げる、どこまでも澄んだ青空が広がっている。荷物をまとめたスーツケースは、ここへ来た時と同じ重さのはずなのに、不思議と軽く感じられた。
父のセダンの前に立つと、意を決したように口を開いた。
「美晴。お前の好きにしなさい」
その声は、もう以前のような高圧的な響きを持っていない。
「ただし、自分で選んだ道だ。責任だけは、持て」
それは、父なりの不器用なエールだった。ただ反対するのではなく、私を一人の人間として認め、その覚悟を問うてくれている。私は「うん」と力強く頷き、隣で優しく微笑む母の顔を見た。家族の間にあった厚い氷は、すっかり溶けてなくなっていた。
玄関先まで見送りに来てくれた叔父さんに、私は深く頭を下げる。
「叔父さん、本当にお世話になりました」
「……ああ。いつでも帰ってこい。あいつも、待ってるだろうからな」
叔父さんはそう言って、仕事小屋の方をちらりと見やった。
車に乗る前に、私は最後にもう一度だけ、小屋へと向かった。扉を開けると、月読がいつもの止まり木の上で、静かに私を見下ろしている。私は彼の足元まで近づき、その大きな琥珀色の瞳を見上げた。
「ありがとう、月読」
声が、少し震える。
「あなたのおかげで、私はまた、絵が描けるようになったよ。本当に、ありがとう」
感謝の気持ちが、涙と一緒に溢れそうになるのを必死でこらえた。
月読が、ふわりと音もなく止まり木から飛び降り、私のすぐ目の前に、静かに舞い降りたのだ。そして、まるで私の言葉に応えるかのように、その大きな眼差しでこちらをまっすぐに見つめている。私はそっとその頭を撫でた。
羽毛の柔らかな感触と、確かな生命の温もり。ほんの数秒の、けれど永遠のようにも感じられる時間。言葉を交わさない相棒がくれた、最大級のはなむけだった。
小屋から出てくると、叔父さんが何も言わずに、手のひらを差し出してきた。その上に乗っていたのは、一枚の美しい羽。月読の体から、自然に抜け落ちたものだろう。
「お守りだ」
叔父さんは短くそう言って、私の手にそっと握らせてくれた。森の夜の色をした、軽くて、温かい羽。この夏の全てが凝縮されたような、小さな、けれどずしりと重いお守りだった。
私は車に乗り込み、窓を開けて大きく手を振る。遠ざかっていく景色の中、家の前で静かに佇む叔父さんと、小屋の入り口からこちらをじっと見つめている月読の小さなシルエットが、いつまでも見えていた。
「またね」と、声にならない声で呟きながら、私は手の中の温かい羽を、強く、強く握りしめていた。
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都会の自分の部屋に戻ると、窓から見える景色は何も変わっていなかった。遠くで車の走る音が聞こえ、隣のマンションの窓には、同じように明かりが灯っている。けれど、私の目には、そのありふれた風景さえもが、以前とは全く違って見えていた。
机の上に、あの夏のお守りをそっと置く。月読の、一枚の美しい羽。それがあるだけで、この無機質な部屋にも、あの森の静かで深い空気が流れ込んでくるようだった。
私は、部屋の隅に立てかけてあった、新しいキャンバスをイーゼルにセットした。
真っ白な、何も描かれていない四角い世界。
かつては、私の無力さをあざ笑う巨大な壁にしか見えなかったこの白さが、今は、少しも怖くない。むしろ、これからどんな世界でも描くことのできる、無限の可能性を秘めた空のように見えた。
パレットの上に、新しい絵の具を絞り出していく。赤、青、黄色。叔父が譲ってくれた古い絵の具箱から受け継いだ色と、新しく自分で買い揃えた色。それらが混じり合い、私のパレットは、まるで夜明け前の空のように、希望に満ちた色彩で輝いていた。
筆を手に取る。
その指はもう、石のように重くはなかった。
心には、あの夏の温かい記憶が灯っている。
言葉少ない叔父さんの不器用な優しさ。私を信じようと決めてくれた、両親の愛。そして、音もなく空を飛び、まるで世界の全てを見つめているような、あの静かな相棒の琥珀色の瞳。
月読が教えてくれた、心を静かに澄ますこと。
一つの見方に囚われず、視野を広く持つこと。
そして、自分自身の心を、何よりも信じること。
その全てが、今、この手の中にあった。
私は、すっと息を吸い込むと、迷いなく、キャンバスに最初の一筆を下ろした。
どんな絵が生まれるのか、まだ分からない。
けれど、もう大丈夫。
私の心には、あの忘れられない夏が灯してくれた、決して消えることのない、温かくて確かな光があるのだから。
その光を道しるべに、私はこれから、私だけの色で、私だけの明日を描いていく。
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