箱庭を視るモノ

市ノ瀬

文字の大きさ
1 / 21
第一話

1.「一緒じゃないっ!」

しおりを挟む
 森の中を通る街道で、男達の一団と一組の男女が相対あいたいしていた。

 男達はぼろぼろの皮鎧や胸当てを身に着け、錆の乗った片手剣などを持ち、男女に向かって武器を突き出し威嚇するように囲んでいたが、当の男女はというと、特にどうということもなく自然体のまま立っているだけだった。

 男達の一人が

「ここを通りがかったのが運の尽きだ。男は殺し、女は攫って楽しませてもらうぜ!」

と言うと、男はフフンと笑い、背に負う両手剣に手をかける。女は男にだけ聞こえる程度の小さな声で、

「確定ね、処理しましょう。」

と告げながら腰のポーチから小指の先ほどの鉄鉱石を取り出し、外套のスリットから両腕を前に出し、目の前で手を合わせ挟み込む。

「マテリアライゼーション!」

 これから放つマテリアライズを決定し利用するマテリアを頭の中で数え、

「アセンブリー」

意識下において数式・方程式の組み立てを行い、

「コンバージョン」

外套の内ポケットにしまっている幾つかのマテリアが反応、結果への変換工程を経て、合わせた手のひらの中に現れ始めた現象を確認し、手のひらを少し離しながら術式を解き放つ。

電磁砲レールキャノン!」

 両掌から一メートルほどの火花を伴った光の筒が伸び、手と手の間で浮いている鉄鋼石が紫電をまとい急加速、目にもとまらぬ速さで打ち出された。数十メートル先に展開している、この辺りを根城にしていると思われる野盗の一団の一角の足元に着弾する。地面が大きく抉れ、抉り出された土砂が放射状に野盗たちを襲う。

「ぎゃっ!」「ぐわっ!」

 ヒトの命を奪う者らに遠慮することはないが、直接当ててしまうとマテリアライズの影響範囲、電磁砲レールキャノンの砲火線上のみが殺傷範囲となってしまうため、奴らの被害を大きくするようあえて手前の地面に当てたのだ。

「ちっ、マテリアライザーか! 次のマテリアライズを発動させる前に接近して殺せ!」

 女のマテリアライズで半数近くが倒れたが、生き残った野盗の中にリーダーがいたらしく、指示が飛んだ。
 脇にいた男が肉厚幅広の大型の両手剣を構えながら女の前に出る。

「近寄らせはしない。」

 こちらに向かってくる野盗たちの、向かって左前の敵へと進み両手剣を一閃。対応が間に合わなかった者や剣で受けようとした者をそれごとぶった切り、剣の勢いのまま正面の敵を蹴散らす。そのまま右前の敵の横合いに突き進み剣を振るい、野盗で残っているものはリーダーと思しき者とその周りの数人のみとなっていた。

「街まで連れて行って衛兵に突き出すなんて面倒なことはしないわ。ここで倒されなさい。」

 女は次のマテリアライズの決め、放ち、・・・そして野盗はいなくなった。


 女の名は『ツカサ』。肩までストレートの美人だが冷たい顔立ちで近寄りがたい雰囲気を醸し出しているヒューマンである。両腕を出しやすくするためであろう二つのスリットのある外套を身に着けている、マテリアライザーである。
 男の名は『ライト』。ぼさぼさ髪の獣人であり髪の中から少し獣の耳が頭を出している。モンスターの表皮を利用したジャケットに、これまた同様のズボンを身に着けている。それほど筋骨隆々には見えないが、身長ほどもある肉厚幅広の大型の両手剣を用いる剣士である。
 今現在二人はペアを組んで行動を共にしているが、まだ二週間程度である。ライトがツカサにくっついて行動していたのだった。
 二人が初めて出会ったのはライトが一人で非常に硬い毛皮を持つモンスターと対峙していた時であり、攻めあぐんでいた一瞬のスキを突かれ命の危険にさらされていたときに、通りがかったツカサがマテリアライズで気を引くことで窮地を脱したことをきっかけに、「命の借りは命で返す」と一緒に行動するようになったのである。・・・と格好良いことを言っているが、要は一目惚れをしたらしく、毎日のようにツカサを口説いて回っているのである。

 ツカサが使ったのは「具象化マテリアライゼーション」。様々な種類の鉱物マテリアを用いて結果の即時適用を行うモノであり、単一もしくは複数のマテリアを組み合わせ、数式・方程式の組み立て変換工程を踏むことで、火や水を生成したりさまざまな技術を結果として利用するものだ。マテリアを利用し結果を出す行為をマテリアライズと呼び、マテリアライズを行使する者をマテリアライザーと呼ぶ。

 二人は共に”目的はあるが行き先がない”という状態であった。もちろん別々の目的ではあるがそれがどこであるかを知らず、とりあえず街から街へと渡り歩いているのだ。次の街に向かっているところで、先の野盗に出会ったのであった。

 野盗のなれの果てを街道脇に穴を掘って埋め先に進み始めたが、二人分の野営道具や食料などを抱えるライトが、

「次の街までまだかかるのか?」
「もう少しのはずよ。多分今日中に着けると思うわ。頑張りなさい。」
「早く街に着いて、宿で一緒のベッドで寝たい。」
「一緒じゃないっ!」
「えー、そろそろいいだろー?」
「あまいっ!」

ツカサから頭にチョップをもらっていた。

 名前の通り軽い口調も、はじめのころはイラッとしていたが、毎日のように聞いていると慣れてきたようだ。

 そんな掛け合いをしながら歩き続け森を抜けると、遠目にエリクシルが見えてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...