箱庭を視るモノ

市ノ瀬

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第一話

2.「(ジト目で)・・・遊んでいたんでしょう?」

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 エリクシルに限った話ではないが、街は人の身長の五倍以上はある高く厚い塀で囲まれている。塀は二重になっており、内側に人が住む街、外塀と内塀の間が農耕地等となっている。極稀にモンスターによる襲撃が発生することがあり、二重の塀となっていった。
 街道に面した外塀の門の前に列ができている。街への検問みたいなもののようだ。

 陽が夕日と呼べそうな頃にようやく、連なる列の最後尾まで歩き、待つこと十数分、自分たちの番となった。

「身分証を見せろ。」

「はい」「ほい」

 ツカサとライトが商人組合から発行された、傭兵であることを示す身分証を示すと衛兵は、
「街の南にある砂漠沿いの街道に大型のモンスターが出没するため討伐隊が編成されると聞いている。商人組合に顔を出してみるといい。」
告げてきた。

 基本的にこの世界には国という概念は存在しておらず、街は単体で成立、自治を行っている。近隣に村がある場合があるが、村は街に属する。村を含む街が一つの国のようなものだ。
 街のトップは領主と呼ばれ、他の街との外交や内政を行っている。外塀に覆われているとはいえ、モンスターが街を攻撃してくることは稀にあるため、領軍を保持している。基本それで賄うが、人員に不足があるときなど、商人組合で管理している傭兵を雇うことがある。
 護衛やモンスターの討伐などの様々な依頼は、商人組合で一手に受け付けられており、依頼を管理している。依頼を達成するための手足として傭兵を雇っており、街固有の傭兵や複数の街をまたぐ傭兵が存在している。ツカサやライトがそれにあたる。
 領主による外交で街の繋がりはあるにはあるが、商人組合のほうが取り扱うモノの流通のために幅広く交流を持っており、街道が整備されているのも商人組合のためと言っても過言ではない。

 内塀の門は通常時閉じておらずまた衛兵もいないため、外門を通過した二人は内門を通り、街中に入ることができた。そしてエリクシルの商人組合に、街道の野盗の退治の報告と衛兵から告げられた新しい飯のタネを確認に来た。
 商人組合の館は領主の館などと同様に石組みでできており、内装もしっかりと整えられた建物だ。中は受付窓口が数個と傭兵用依頼掲示板、幾つかのテーブルがある待合エリア、奥にはただの傭兵が利用することはないが商人が打ち合わせなどで利用する応接室が複数ある。大体どこの街の商人組合の館は同じ作りだ。意図してこうしたとしか思えない。ちなみに待合エリアは商人組合の従業員により提供される軽食ができるようになっている。

「・・・というわけでサテラスとここエリクシル間の街道に現れた野盗は退治いたしました。亡骸等は街道わきに埋めましたので、確認いただけると思います。」
「畏まりました。確認の手配を行います。確認が取れ次第、常設依頼【街道保全】の報酬をお渡しします。半日程度の距離とのことですので、一両日中にはお渡しできると思います。明日の同じくらいの時間にでもまたこちらにいらしてください。」

 受付にてツカサが野盗に関する報告を行っている横で、ライトが別の受付のヒューマンとモンスター討伐の話をしていた。

「衛兵から近くモンスター討伐があると聞いた。詳細を知りたい。・・・あと、キミのこと知りたい。今夜キミのベッドの中でなんかどう?。」
「南のアプリルとの砂漠沿いの街道で大型のタイルワームが確認されています。アプリルとの交易を主とする商人から討伐依頼がありましたので現在傭兵を募集しているところです。開始は明後日の朝となります。・・・十八時で交代なので、もうすぐ上がりです。まずは夕食を。」

 ツカサは冷たい目で、

(私のことは早速棚に上げて・・・今日は成功みたいね。)
「今夜と明日は自由行動ね。明後日朝にここで。じゃ。」

と伝え、今夜の宿をとるために自分の相手をしてくれていた受付に宿があるエリアを確認し、商人組合を後にした。
 ツカサはライトと暫く行動を共にしているため大体わかってきていたが、街に着くと適当(と思われる)女性に声をかけ、うまく行くと一人でさっさと消えるのだ。ほぼ毎日のようにツカサを求めるようなことを言っておきながら。別段ライトは嫌いではないが、だからと言って求めに応じるつもりはない。だから別の女性にコナをかけても怒る筋合いはないのだが、何となくムッとしてしまうツカサなのであった。
 ライトは待合スペースで椅子に腰かけ時間を潰していたが、受付の娘が出てきたのを見つけると声をかけ、約束通り食事をするために夜の街に消えて行くのであった。

 そしてツカサは、その足でまず宿を探しに教えてもらったエリアへ向かった。宿にも金額により上・中・下のランクがあり、まず間違いなく部屋に風呂があるであろう上級の宿で部屋を確保した。上級ともなると食堂での夕食がつくが先に風呂を済ませたかったため、夕食が提供される時間を尋ね、まだ時間に余裕があることを確認してから部屋へと向かった。
 今回泊まる上級の宿の部屋には風呂・トイレ・作業部屋・寝室があり、作業部屋に風呂・トイレが面している。作業部屋にはテーブルと椅子が二脚あり、装備の手入れなどができたりする。ツカサは早速着ているものを椅子に掛け、さっそく風呂に入る。ちゃんと浴槽も洗い場も完備されていたが、お湯を張るのを待つまでは我慢できなかったようでシャワーであったが。

(ふぅ。サテラスからここまで徒歩で三日、途中に村もなかったから結局野宿。やっと汗を流せたわ。)

 街と街の街道を歩くとき、中ほどに村があることがある。その際は野宿をしないで、村に逗留することができた。しかしサテラス-エリクシル間には村はなく、野宿を余儀なくされたのだ。

 シャワーを浴びさっぱりしたのち食堂で夕食をとり、部屋に戻ったところでベッドに腰かけ、心の中で会話を始めた。

(カレン、この街にヤツらの形跡は?)
(『全くありません。』)
(そう。引き続き監視を。今日はこれで寝るから、何かあったら連絡して。)
(『畏まりました。ではごゆっくりお休みください。』)
(ありがとう。じゃ。)

話を終えると旅の疲れを癒すべくベッドで横になり、心地よい睡魔に身を任せたのだった。


 翌日ツカサは討伐に向けた準備のため、商人組合の受付で聞いておいたマテリアライザー互助会の店に向かった。マテリアを補充するためだ。
 マテリアライズで利用されるマテリアは鉱物である。メジャーなものならば、割とそこらに転がっていたりする。炎が濃縮された火のマテリアならば溶岩石のある所に、水が濃縮された水のマテリアならば河原といった具合だ。ただ簡単に手に入らないマテリアもある。例えば光や闇のマテリアだ。それぞれ光と闇が濃縮されたものだが、それらが産出される鉱山にて採掘する必要がある。マテリアライザー互助会はマテリアの確保のため、商人組合にマテリアの収集を依頼し、マテリアの販売を行っているのだ。
 利用し不足した分と、討伐に必要と思われるいくつかのマテリアを購入し、店を出たところで次に何をしようか考える。

(そろそろ私の武器を武具屋に出して診てもらったほうがいいかしら?)

 店内に引き返し、対応してくれた店員に武具屋の場所を確認し向かったのだった。
 武具屋につくと、愛想のよくなさそうなドワーフがカウンターいるのを見つけ、

「最後に整備に出してからずいぶん経つから、診てもらいたいんだけど。」

と、懐から自分の武器である少し小ぶりな短刀グラディウスを出しながら話しかける。

「んん? グラディウスとは珍しいな、どれ・・・」

 カウンターのドワーフは受け取り、様々な角度から眺め、

「長く使っているようだが特にゆがみもない。研ぐだけでいいだろう。夕方にでもまた来い、それまでに終わらせておく。」
「お願いするわ。」

と、愛用の武器を預けたのだった。
 ツカサはマテリアライザーだが、他のマテリアライザーのように武器を一切持たないわけではない。ライトほどではないが、多少なら近接戦闘も可能なように鍛えている。自分で使う獲物はと武具屋で様々な武器を前に考えたとき、目についたのがグラディウスだった。女であり剣士ではなく力もそれほどない。無難なところなら短刀に落ち着くところだが、その店にたまたま仕入れてあったソレにピンときたのだった。武器にマテリアライズをまとわせ攻撃するといった自己流の技法を試すのにちょうど良さそうに感じたのだ。早速購入し次の戦闘で試してみて、想定通りの効果が発揮され、それ以来ずっと愛用している。

 店を出たツカサは、陽を見てすでに昼を過ぎていることを知る。朝からマテリアライザー互助会の店、武具屋と回ったのだから無理もない。通りがかった際に美味しそうな匂いを漂わせていたカフェでランチをとった。

 食事を済ませ、夕方、商人組合と武具屋に行かなくてはいけないため、それまで何をしていようかと考えていたツカサの間に、ライトが現れた。ちょうど通りがかったようだ。

「よぉツカサ、買い物は終わったのか?」
「ええ。」
「そうか、俺はこれからだ。」
「そっ、じゃっ。」
「なんか冷たいな、ははぁ、さては昨夜の件でヤキモチだな!」
「違うっ!」
「ただ遊んでいたわけじゃないんだぞ?」
「(ジト目で)・・・遊んでいたんでしょう?」
「(目をそらしながら)・・・まぁ、否定はしないが、そのあとちゃんと仕事も仕入れてきたんだ。」
「どういうことよ?」
「夕べ商人組合で聞いたタイルワームの件、あの受付の姉ちゃんから依頼人を聞き出して、さっき行ってきたんだよ。直接依頼を受けてきた。」

 そう言いながらライトは懐から依頼の契約書を取り出し、ツカサに見せた。通常の商人組合経由で受けるより高額な金額で、ライトとツカサの二名分で契約をしてきたようだった。

「良いの? 商人組合に顔が立たないんじゃ?」
「まだ明確に受けたわけじゃないんだから大丈夫だよ。気の良いオジサンでな、直受けしたうえ、メシもご馳走になってきたんだぜ。」
「商人組合を敵に回すようなことがあったら、容赦なく見捨てるわよ!」
「はっはっはっ、大丈夫だろ、多分・・・? ま、何とかなるさ。んじゃこの後また受付の姉ちゃんと会う約束なんで、明日商人組合の館でな。」
と言ってライトは去っていった。

(はぁ・・・)

 ツカサはため息を一つつくと、夕方まで旅に必要なものを雑貨屋で買うなどし時間をつぶし、陽が傾きかけたころ再度武具屋に来てグラディウスを受け取った。本来ならこの後商人組合の館に赴き、野党退治の対価をもらいに行くところだが、明日の朝どうせ行くこともあり今日は止めて早めに宿に入ったのだった。

 宿にて夕食も終え部屋に戻った後、浴槽に湯を張りちゃんと風呂に入り、心と身体をリフレッシュしたツカサは、寝る前にカレンに話しかける。

(カレン、南の街道のタイルワームについての情報を頂戴。)
(『個体種名【タイルワーム】、その名の通り、硬い外殻がタイル状になっている巨大なミミズのようなモンスターです。二体存在を確認、更に巨大なモンスターも確認されています。個体種名【シールドワーム】、外殻がさらに硬くタイルワームより一回り大きいモノです。ソレら三体が群れを形成し砂漠に住み着いている模様。』)
(・・・今日はよくしゃべるわね。)
(『お求めに応じて回答した次第ですが、何か?』)
(・・・いえ、何でもないです・・・。弱点などのトピックスは?)
(『硬い外殻を持つため、物理的攻撃よりもマテリアライズにて攻撃したほうが良いと考えられます。利用するマテリアライズで与えるダメージに差はないようです。』)
電磁砲レールキャノンでは?)
(『タイルワームはともかく、シールドワームの外殻は突き破れないでしょう。打撃によるダメージは通るでしょうが。』)
(むっ? 良いわ、明日試してみるから。じゃ。)

 会話を終えたツカサは、明日のモンスター討伐よりも”外殻vs電磁砲レールキャノン”で自らの攻撃が突き破ることを夢見て、早めの就寝をしたのだった。
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