箱庭を視るモノ

市ノ瀬

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第一話

4.「どうよっ!?」

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 十人ほどの一団で歩き始めて二時間ほどたった頃、遠目に岩山が入ってきた。砂漠の中に急に岩山が存在しているのであり、至極不自然な感じではある。よく見ると【C】のアルファベットのように中央がくぼみ、岩がそれを囲むように成り立っている。

(なぜここだけ岩山なのかしら・・・?)

と考えていたところ、

「ここが巣のハズだ。ここらあたりで探し物がある。俺とザクで探す。お前たちは近隣の警戒をしていろ。」
「手伝わなくていいの?」
「なに、簡単な仕事だ。『魔女』様のお手を煩わせるほどのことでもない。」

とグフが伝えてきた。討伐時に領兵&傭兵連中が勝手に呼び始めた二つ名でからかいつつ、伝わるのは否定の意思だ。
 そのまま進み、岩山に辿りついたとき、くぼみの中に動くものを発見した。討伐時に現れなかったシールドワームである。まだ気づかれてはいないようだ。十名ほどの少人数でもあり、このままやり過ごして何らかの探索を進めるのかとグフを見ると

「ちっ、まだ居やがったのか。しかも上位種がよりによってこんなところに居座りやがって。しょうがない燻り出すいぶりだすか。」

とボソッというや否や、周りに確認も取らずマテリアライズを放った。

プラズマ収束砲プラズマキャノン

 目の前にかざした右手の前に赤い光が宿り、光の帯がシールドワームに向かう。外殻が一瞬で熱せられ、蒸発、体内へと突き進む。そして貫通し光の帯は消えていった。

『GUGYAAAAOOOOOOH!』

 シールドワームは雄たけびを上げ、自分に危害を与えたモノを確認すると、体液をまき散らしながら復讐するため襲い掛かってきた。

「あとは任せる。」

 グフはザクを連れ、シールドワームの死角に移動し、岩山のくぼみへと消えていった。

 シールドワームはこちらに向かってきており、ライトや私兵たちは武器を構えていたが、距離があるため暫くは時間に余裕があり、ツカサはグフが放ったマテリアライズのことを考えていた。

(詠唱スキップなんてそれなりの練度じゃない。さっきも五個並列処理してたからできるヤツではあるのか。プラズマ・・・ね。どうせなら熱も遮断するマテリアライズ組みなさいよ。)

 マテリアライズには複数の流派があり、マテリアライズのマテリアのレシピは門外不出となっている。ザクの放ったマテリアライズは、ツカサが知らないモノであった。

(でも残念ね、アウト・・・よ。カレン、ヤツを討伐が終わり次第処分して。)
(『畏まりました。』)
(でもなんであんなの使えるのよ。)
(『情報統制時、記憶、記録共に破棄しています。ですが何らかの行為をきっかけに記憶を取り戻した個体が存在する可能性は否定できません。その記憶からマテリアライズとを掛け合わせ、彼の者の属する流派が産み出したのでしょう。賞賛に値します。』)
(じゃあ、協力者にする?)
(『手足は不足しておりませんが・・・、お望みとあらば。』)
(止めとくわ。頭硬そうだから。)

 カレンとのやり取りをしていると、ライトが声をかけてきた。シールドワームが眼前にまで近づいてきており、私兵と共に囲んでいた。

「ツカサ、始めるぞ。」
「あ、ごめんごめん、考え事してたわ。そうね、ちょっと大きいので動きを止めるから、それから始めて?」

と言うが否や攻撃のためのマテリアライズを開始した。目の前で手を重ね合わせ

「マテリアライゼーション!」
「アセンブリー」
「コンバージョン」

徐々に両手を広げていくと、稲光が行きかい

「外は硬いんでしょう? でも中はどうかしら? 焼け焦げなさい! 轟雷ロアボルト!!!」

術式名と共に、眩い数十もの稲妻がシールドワームに襲い掛かる。

『GAAAAH!』

 叫び声をあげ硬直している。稲妻で焼かれたシールドワームは、ところどころ表皮が内側からはじけ飛んでおり、ライトたちの装備でもダメージを与えることができるようになっていた。ライトと私兵たちが攻撃を開始し、昨日のタイルワームより人数が少なく、より厳しい戦いが始まった。


 そのころグフとザクは、岩山のくぼみの岩と岩の間にある深い切れ目に身を躍らせていた。
 そこは洞窟のようになっており、暫く進んでいくと明らかに金属の壁と思われるものを見つけた。

「当たり・・・のようだな。」

 グフは独り言ち、中に入るための隙間を探す。金属の壁は岩に埋もれていたが、裂けたようになっておりすぐに途切れていた。

「ここから入れそうだ、行くぞ。」

とザクに声をかけ、中に入るグフ。中は上下左右を金属で囲まれており、後ろは岩石でつぶされていたが、前に廊下のような空間が続いていた。
 一歩一歩警戒しながらも前に進み、扉のようなものを見つけた。手前に開く扉らしく、取っ手がある。取っ手を握ると鍵はかかっておらず動かすことができた。開けられることを確認すると、ザクに目線を送り、一気に開き双剣を構えたザクが突入、次いでグフも滑り込んだ。
 そこは真っ暗な部屋だった。備え付けの机と椅子だけがある小さな部屋で、構えを解いたザクは身をひるがえし部屋の入り口で警戒しつつ、グフは部屋中に目線を送り探し物を始めた。と言ってもモノがありそうな場所は机の引き出しくらいしかなく、順に開けていくと、中に目的のものを見つけたようだ。

「あったぞ。」

 グフはソレを懐にしまい、ザクと共に元来た道を引き返すのだった。


 岩山のくぼみに出たグフとザクは、未だ戦っているツカサたちを見ると、

「まだやっていたのか、フン、『魔女』様も大したことないな。お得意の電磁砲レールキャノンで倒せばいいじゃないか、んん?」

と鼻で笑った。

「硬すぎるとのデカすぎるので弾丸タイプのはダメージが抜けるのよ! 探し物とやらが終わったんなら、ちょっとは手伝いなさい!」
「任せるといったハズだが?」
「・・・こっの、言わせておけば・・・。マテリアを馬鹿食いするから控えてたけど、この後何か出ても貴方が対処しなさいよっ! じゃあお望み通り電磁砲レールキャノンの発展形でケリつけてあげるわっ!!!」

 ツカサはシールドワームを倒す術を持たない訳ではない。より高威力のマテリアライズが使えないわけではないのだ。マテリアの節約、今後の他のモンスターの対処、物理攻撃を主とするライトらの力を利用するため、に控えていただけである。が、グフとのやり取りで怒ったツカサは、制約をカットすることに決めたらしく左手を添えた右腕をシールドワームに向けて全力のマテリアライズを放つ。

「マテリアライゼーション!」
「アセンブリー」
「コンバージョン」

 突き出された腕の前に電磁砲レールキャノンと同様の光の筒が現れた。ちょうど手のひらのあたりから中に紫がかった光が伸びると、光の筒全体が青白く輝きを持ち始める。

「皆ソレから離れて! 熱さはブロックするけど、目を閉じて! いくわよ、自由電子光線束フェレク・レイ!」

 慌てて離れるライトと私兵たち。一瞬の後、桁違いに強い光がシールドワームに伸びる。シールドワームの強固な外装も一瞬も耐えることを許されず光が突き抜ける。
 このマテリアライズは電磁砲レールキャノンのように弾丸タイプではなく一定時間放出するタイプであり、ツカサは

「刻まれなさい!」

突き出した右腕を左右に動かしながらシールドワームをぶった切っていく。光の帯が消えると、持ち上げていたシールドワームの身体が、切り刻まれたパーツとなって地に落ちていたのだった。

「どうよっ!?」

 鼻息も荒くツカサはグフに問う。

「我が流派でも知らんな、その技は。さすが『魔女』様だ。よくやった、引き揚げるぞ!」

 グフは多少驚いた顔をしたものの、すぐに周りに引き上げの合図を送るのだった。
 暖簾に腕押しのごとく流されたツカサは、ぶつけることのできない怒りをライトに八つ当たりすることで解消を図るのであった。哀れライト。。。

 再び砂漠を歩き、街道に出て馬車のところに戻った一団は、全員で乗って帰るかと思われたが、グフとザクは自分たちが乗ってきた馬車の御者と話し、馬を二頭切り離すと乗って先に行ってしまった。どうやら四頭立ての場合、二頭いなくても馬車の挙動には影響を及ぼすことはないらしく、ツカサとライトは豪華な馬車に、私兵は大型の幌馬車に乗り街への帰路を急いだのだった。


 数時間後、ツカサたちの馬車がようやく半分ほど進んだ頃、グフとザクの乗る馬はエリクシルに着いていた。外門、内門と通り、街中を早足で馬を駆けさせ、依頼主であるガレラデの逗留する屋敷へ足を進めていた。
 屋敷に着いた二人は、ここまで休むことなくほぼ全速力で駆けてきた馬に声をかけることもなく、屋敷の者に預けると中に入りガレラデの部屋へと向かう。部屋の前に来たところで、ノックをし

「グフです。ただいま戻りました。」

と中に向け声をかける。すると中から

「待ち焦がれたぞ、入れ!」

返答があり、扉を開け二人が入室する。すると中にいたガレラデは待ちきれないかのように勢い込んで話しかけた。

「首尾は? どうなのだ? あったのか!?」

 グフはフードを後ろに落とすと口角を上げ、懐から回収した依頼の品を取り出しガレラデに差し出した。
 ガレラデはまるで壊れ物にでも触れるかの如く、震える手でそれをつかむ。

「おお、遂に、遂に手に入れたぞ!!!」

 ガレラデに差し出されたものは『指輪リング』だった。


(『ツカサ様、たった今外部からのアクセスがありました。』)
(なっ、ヤツらなの!? 何故今更・・・)
(『落ち着いてください、アレらではありません。小型携帯端末からのアクセスで、場所は・・・』)
(あぁ・・・ごめんなさい。で、場所は?)
(『場所は、エリクシル。利用者はガレラデのようです。』)
「エリクシル!? ガレラデですって!!!」

 馬車の中で向かい合わせで座っていたライトがツカサの声に驚き

「どうした? 街が、ガレラデがどうかしたのか?」

と問いかけてくる。それどころではないツカサは、少しでも早くエリクシルに向かうよう、御者に声をかけるのであった。
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