箱庭を視るモノ

市ノ瀬

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第一話

5.「そこまでよ!」

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 ライトは難しい顔をして考え込んでいるツカサを、心配そうに様子をうかがっていた。
 当のツカサは考えをまとめていたのだった。

(なぜ急にガレラデはアクセスを試みた・・・?)
(これまではしないで、今アクセスをした・・・。これまではできなかった? 今できるようになった?)
(きっかけは何? ・・・グフとザクが・・・探し物・・・先に戻った・・・。)
(あそこで携帯端末を見つけた!? この世界にアクセスできるものなど存在しない。あそこに船が!!!)

(カレン、ミッション開始以降、失われた船は? 確認できていない船は存在する?)
(『かの日、大型のものが複数墜ちました。それらは全て把握・処理が済んでいます。あるとするとそこから脱出しようとした小型艇があった可能性があります。データはリンク・コピー済みですので確認します、しばらくお待ちを。・・・。二艇ありました。現時点での存在は不明です。』)
(墜ちる大型艦艇からの脱出する小型艇までは、あの時あの後では気が回らなかったのね。仕方ないわ。)

 一端カレンとの対話を切り上げ、再度考えに没頭する。

(そのうちの一つが、多分あの砂漠に墜ちたのね。墜落の際、たまたま爆発四散しないで地下の岩盤を砕き、持ち上げ、岩山を形成、地下で眠っていた・・・と。グフたちはそこで携帯端末を持ち出した。船がそこにあることを、携帯端末でアクセスできることを、なぜそれを知り得たの? 誰かが教えた? 誰が? ・・・直接聞くしかないか。)
(あそこに戻って調べて弔ってあげたいけど、時間がないわ。ごめんなさいね・・・。)

 ツカサは気持ちを切り替えカレンに命じる。

(カレン、私のトレースはしていたわね。)
(『はい、滞りなく。』)
(あの岩山の地下には多分、大破した小型艇があるわ・・・。あの辺り一帯を、地下の船ごと、消滅させて。何も残さないで。)
(『畏まりました。直上に衛星を移動後、処置いたします。』)


 数時間後、宵闇を切り裂く眩い光の帯が、天から砂漠の或る場所に降り注いだのが、近隣の村々の住人に確認された。
 後日、それを見たものが恐る恐るその地に行ってみると、巨大な皿のように中央付近が砂がなくなり岩盤がむき出しになるほど抉れており、余程の高熱に晒されたためか溶解し、そのままの姿で固形化したため、壁面がガラスのようになっているのを見つけたという。


 少し時間はさかのぼる。
 ガレラデは興奮した様子で、グフとザクを伴い、屋敷で一番広い広間に来ていた。召使たちを下がらせ、指輪リング使う前に、気の高ぶりを落ち着かせる。

「ふぅー。さあ、始めるぞ!」

 指輪リングを高々と掲げ、ゆっくりと呼びかける。

「世界の窓よ、我が呼びかけに応えよ。コネクト!」

 ガレラデの前に、宙に浮いた半透明のコンソール世界の窓が開かれる。

「こ、これが世界の窓・・・! 願いを伝えるにはこう言うのだったな。アクセス!」

 コンソール世界の窓に見たこともない模様が浮き始める。すると、

『接続完了。認証・・・完了。権限レベル、チェック。量子コンピューターへのアクセスを受け付けました。対話型インターフェース起動。音声によるコマンド実行が可能です。コマンドをどうぞ。』

と、どこからともなく言葉が聞こえてきた。

「やった、やったぞ! これで、私は商人の頂点に立てる! フ、フハハハハ・・・!」

 ガレラデは、歓喜の声を上げる。それが伝播したのか、グフとザクも目を見開いている。
 そしてガレラデは欲にまみれた要求を言い放った。

「さて、まずは、金だ。さぁ世界の窓よ、世界最大の富を授けよ!」
『コマンドを認識できません。』
「んん!? もう一度だ、世界最大の富を授けよ!」
『コマンドを認識できません。より具体的なコマンドを再度入力してください。』
「なんだと・・・? 具体的・・・? そうか、金の単位、量を伝えればよいのだな。」

 戸惑いながらも、金額を言うことにした。

「では、そうだな、大金貨を五万、いや、十万枚授けよ!」
『コマンドを認識しました。大金貨の原材料が不足するため、より小さい単位の硬貨を含むことになりますが、よろしいですか?』
「お、おぉ、構わないぞ。」
『しばらくお待ちください。・・・。大金貨十万枚分の硬貨の準備ができましたので、そちらに転送します。』

 音声がそう伝えるや否や、ガレラデの前に大量の硬貨が現れ、滝のように床に降り注ぎ始めた。

「な、しまった、大小含めた硬貨では、数が多すぎて・・・うわっ!」
「うお!」
「・・・!」

 ガレラデの前には既に硬貨が山のようになっていたが、硬貨の滝はまだ続いており、重みに耐えられなくなった山が崩れ、津波のように全方位に広がる。それはガレラデらも含まれ・・・硬貨の波に襲われていた。

(『ツカサ様には伝えましたが、まだ到着までには時間がかかることが予想されます。とりあえず微妙な嫌がらせはしておきましたが、さて、どうしましょう・・・?』)

 実際ガレラデの要求を満たすためには十万枚分もの大金貨を用意しないといけないのだが、手持ちでは足りず、流通しているものを勝手に取り上げるわけにもいかず、さりとて作るための原材料の金はあるが、製造してしまうと金の価値が下がってしまうというジレンマに陥りかねない。そのため、仕方ないという一面もあった。

 ガレラデはようやく止まった硬貨の波に埋もれながら、同じように埋もれていたグフとザクに声をかける。

「ザク、グフ、今回はよくやってくれた。ここにある金、好きなだけ持って行ってもいいぞ。」
「ありがとうございます。長くフリーの傭兵マテリアライザーをしておりましたが、ここで働くことができ嬉しく思います。」
「・・・感謝します。」
「ザク、部屋にある大き目の革袋を持ってくるのだ。」
「・・・わかった。」

 ザクはすぐに広間を出て自室に向かった。
 ガレラデは次に何を要求しようか考えていたが、その時、コンソール世界の窓が言葉を発した。

『今、【グフ】という単語が会話の中にありましたが、マテリアライザーのグフで間違いありませんか?』
「んん? グフ、お前は有名なのか?」
「い、いえ、世界の窓が私のことなぞ知っているはずが・・・。」
『再度単語を確認。【グフ】と思われる者の音声を確認。現状確認のため、別体エイリアスを派遣します。』

 言うが否やコンソール世界の窓の脇に、”ツカサ”と同じ顔のヒューマンが現れた。顔こそ同じだが服装は全く違っており、身体にフィットしているつなぎのようなものにジャケットを羽織り、ロングブーツを履いている。腰にはガンベルトを着けており、左右に銀色の物体が釣り下がっている。

「なっ、お前は、ライトの相棒のツカサというマテリアライザー!」
「貴様、どうやってここに! まだ移動中のはずでは!?」

 ”ツカサ”が口を開いた。

(『ツカサ様の件は曖昧にしておいたほうが良いかもしれませんね。』)
『私の名はカレン。先ほどから対話していたモノです。この身体は別体エイリアスです。』
「エイリアス? 違うのか? 別人なのか・・・?」

 ガレラデは欺けたようだが、グフはツカサの件はともかく急に現れたことに対し、警戒しているようだった。

『どちらがグフというヒューマンでしょうか?』

 カレンはガレラデとグフを交互に見ながら問いかけた。

「グフは・・・」

とガレラデはグフを見る。カレンはグフを視認すると、

『マテリアライザーであるヒューマン、固有名【グフ】を確認。同職種同人種同性同名の別人の可能性はありますが考慮対象外とします。敵対戦力を鑑み、別体エイリアスを増員、派遣します。』

カレンの脇に、さらに二人のカレンが現れる。三人のカレンは無表情のまま

『先行命令を実行します。』

 三人のカレンは右手で右腰につるされた【L】字型の銀色の金属を持ち、グフに向けた。この世界の住人は存在すら知ることの無い、カートリッジに蓄積されたエネルギーを熱線として発射するブラスターである。ブラスターから熱線がグフに向かう。

「無詠唱だと!?」

 トリガーを引くだけで発射される熱線を見てグフは、マテリアライズを無詠唱で発現したと考えたのである。
 グフは慌てて避ける。続けて熱線が走るがそれも何とか避けることができた。

「何をしている、止めるのだ。そやつは私の部下だ、味方だぞ!」

 カレンを止めようと声を上げるが、カレンのうち一人が、

『先行命令は上位権限命令のため、止めることはできません。』

と答え、またグフへの攻撃に戻ろうとした。

 その時、革袋を持ったザクが入ってきた。二人しかいなかったはずの部屋に、まだ帰ってきていないはずの三人のツカサを見て目を見開くも、グフへ攻撃を仕掛けている三人を敵と認識、荷物を投げ捨て双剣を抜きカレンに駆け寄る。と、その足元に熱線が刺さる。慌てて後ろに飛びのくザク。

『グフ以外のヒューマンの処理は命令されていません。しかし敵対行動を取るのならばその限りではありません。動かないことをお勧めします。』

 カレンは表情を変えることなくザクを威嚇し、身動きの取れないザクは視線のみをグフに向ける。
 グフは逃げながらも、カレンの一人に向けマテリアライズを放つ。

重水素光線束グラン・レイ!」

 しかし、カレンのジャケットに当たったマテリアライズによる光線は、乱反射して消える。

「これを弾くかっ!」

 驚きが一瞬のスキとなったのか、ザクを威嚇していたカレンが熱線を放ちグフの脇に当たる。

「ガァッ!」

 残り二人のカレンが今度は左腰に吊り下げられていた銀色の筒を手に取りグフに駆け寄る。ブラスターと同様にカートリッジ内のエネルギーを一メートルほどの長さの光の帯として固定化する、エネルギーソードである。二人のカレンはそれを剣のようにグフに向かって突き出す。
 グフは両腕をそれぞれ別々のカレンに向け

「マテリアライゼーション!」
「アセンブリー」×2
「コンバージョン」×2
プラズマ収束砲プラズマキャノン

マテリアライズを放ち二人のカレンの上半身を吹き飛ばしたが、ほぼ同時に二人のカレンの持つ光の帯が胸と首に突き刺さった。
 カレン二人の亡骸や装備品などは、淡い光と共に消えていったが、一人残ったカレンは

(『レーザーシールド機構を持つ装備ごと吹き飛ばすとは、考える暇なく用いたようですが室内で使うには高威力過ぎです。一歩間違えば建物が崩壊しかねませんでした。装備である程度相殺できていたから良かったものの、ヒューマンが持つマテリアライズとしては威力・技術共に高すぎます。やはりツカサ様の判断は正しかったようですね。』)

と考えつつも

『処理完了を確認。計算では増員分の別体エイリアスで十分対応できるはずでしたが、相打ちとは・・・。』

と事切れたグフに賞賛を送った。

「グフっ!!!」

 ザクの悲痛な声が響いた。
 ガレラデは何が起こったのか理解できないようにただ立ち尽くし、ザクはグフの亡骸を見て茫然としていた。
 暫くすると、ザクは双剣を硬く握りしめ

「・・・よくも仲間を・・・!」

怒りの眼をカレンに向けた。だが攻撃するため動こうとする直前、

「ザク、止めよ! グフは何かしら世界の窓の怒りを買っていたのであろう。見たであろう、世界の窓を敵に回してはまずい。」

ガレラデがザクを止める。ザクはグフとそれほど長い付き合いというわけでもなく、一緒に行動する以前のことは知らず、そこで世界の窓と呼ばれる者を敵に回していたのかと考え、さらに自分では近づく前に勝負が終わる可能性も考え、何とかこらえた。

 ガレラデは息を整え、いったん気持ちを落ち着かせ、カレンに話しかけた。

「我々には攻撃しないのだな?」
『攻撃を仕掛けてこないのならば何も致しません。』
「わかった。あと、要求はまだ聞いてもらえるのか?」
『応えられモノであれば。』
「暫く時間を置くことは可能か?」
『問題ありません。』

 答えるや否や、カレンと世界の窓は消えた。
 ガレラデとザクは顔を見合わせ、少し休もうと広間を後にした。


 一時間ほど休憩したのちに、再度広間に二人は来た。
 ザクとしてはグフの亡骸を弔ってやりたかったのだが、世界の窓がしたことでもあり、反応が読めない以上手を触れないほうが良いとの判断で、そのままになっていた。
 再びガレラデは

「世界の窓よ、再び我が前に姿を現せ。コネクト! アクセス!」

と呼びかけると、ガレラデの前に、コンソール世界の窓と共にカレンが現れた。

『コマンドをどうぞ。』

 ガレラデは休憩の間に考えていた要求を言葉にする。

「私は商人の頂点に立ちたいのだ。金があればもちろん可能だろうが、せっかく世界の窓という”万能の杖”が手に入ったのだ。ならばそれに見合った要求をしようと思う。世界の窓よ、私に他の商人を操る力を授けよ!」
『・・・』

 カレンの様子を伺うが無表情のまま立っており、

「これはダメか・・・?」

と一瞬の逡巡の後、

「ならば、世界の窓よ、私とザクに世界最強の武器を授けよ。」

と要求した。
 ザクは驚いた顔でガレラデを見る。ガレラデは

「・・・良いのだ、お前には私を守ってもらわなければならないからな。まぁ、望みが叶うかどうかは、まだわからんがな。」

と言い、カレンを見る。

『・・・』

 無反応のまま立ち尽くすカレンに少し苛立ったように話しかける。

「世界の窓よ、どうしたのだ、何か答えろ。」

 カレンはゆっくりとガレラデに顔を向け、無表情だが威圧を伴う言葉を告げた。

『その要求は禁忌に触れます。応えられるものではありません。』

 ガレラデはカレンの言葉・態度に気後れしたものの、

「これでは何も得るモノがないではないか!」

と怒りをあらわにしたその時、

「そこまでよ!」

屋敷の召使たちの制止を振り切りながらツカサとライトが現れた。
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