100 / 128
カルパディア編
第三章:暗躍事情
しおりを挟む第三章:暗躍事情
四大国会談でカルツィオ聖堂に滞在中の悠介達闇神隊と、各国代表達。
会談の目的は初日にアユウカスが二秒で終わらせたので、残りの日程は雑談と交流に費やされる。それはそれで、四大国が友好を深めていくのに役立つ。
そこで話題になったのは、ポルヴァーティアのいくつかの勢力がカルツィオに入り込んでおり、国家間で暗躍しているらしいという内容だった
これに関しては各国でも対応を図っているらしく、それぞれの代表達が自国の立場や方針などの情報の中でも、明かしても良い部分までを語り合った。
ブルガーデンの代表で女王の側近姉妹の片方が、静かに告げる。
「私達ブルガーデンは、ポルヴァーティアの魔導技術を取り入れたいと考えている」
「ちょっとサーシャ、それ話しちゃっていいのっ?」
姉のマーシャが慌てるが、サーシャは「問題無い」と答えて、自国の立場やある出来事について語った。
現在のブルガーデンは、リシャレウス女王が第一首都である山頂の街、コフタの神殿から全てを取り仕切っている。だが最近、女王との謁見を避けて麓の第二首都パウラで、直接官僚に接触を図ろうとしたポルヴァーティア人らしき集団を確認しているのだという。
その話を聞いたトレントリエッタの代表、ヴォーレイエ達が顔を見合わせ、ベネフョストがおもむろに話し出した。
「実は、トレントリエッタでもポルヴァーティア人らしきグループの存在が確認されている」
「何かリーンヴァールの街中で情報収集しながら遊んでるみたいだけどね」
ヴォーレイエの補足に、悠介が訊ねる。
「遊んでる振りしながら工作活動とかじゃなく?」
この質問には、ウェルシャが答えた。
「報告によれば、戸惑いながらも本当に楽しんでいる様子だったそうです」
「ふーむ、色々な娯楽に初めて触れてカルチャーショックを受けているようなもんか」
悠介はポルヴァーティアの聖都カーストパレスに潜入した数日間を思い出すと、確かに大衆向けの娯楽施設などは見なかったなと得心する。
以前、朔耶から聞いた向こうのエリート層ならば多少違っていそうだが、ポルヴァーティア人の大半は娯楽に耐性がなさそうだ。
朔耶がよくアルシアのところへ顔を出しているので、向こうの人々の事情もちょくちょく聞ける。悠介がその事に言及すると、各国の代表達から「流石、闇神隊の情報網は凄い」と感心された。
「うちの情報網というか、大体の話は都築さんから聞いてるんだけどね」
「ツヅキ?」
「サクヤ嬢の事じゃな」
聞きなれない名前に小首を傾げたヴォーレイエに、アユウカスがフォローを入れる。朔耶に関しては、各国とも情報を掴みきれておらず『闇神隊長の関係者で謎の人物』となっていた。
強大な力でポルヴァーティアの侵攻に対抗し、カルツィオに味方した黒い翼を持つ少女(20歳)。
「まあ、砂浜海岸で一戦やらかした当日にアルシアの部屋まで突撃して、友人関係結んでくるような無茶苦茶な機動力持ってる人だからなぁ」
悠介から語られた朔耶の人物像に、各国代表達からは概ね「なんだそれは……」という反応が見られた。
四大国会談という名の雑談会が続けられる中、朔耶に関する情報もある程度共有されたところで、アユウカスからガゼッタの深刻な内情が語られる。
「さて、各国の状況も分かったところでワシらの話になるが……正直、一番問題を抱えておる」
ポルヴァーティアとの戦いが一段落した直後から、アユウカスとシンハ王が懸念していた問題で、覇権主義勢力の暗躍について。
「彼奴ら、既にポルヴァーティア側の工作員と接触しておるようでな、保管しておいた諸々の兵器と共に地下に潜りおった」
悠介のカスタマイズによる解体処理から逃れた対空砲や、ポルヴァーティア軍の拠点から回収した魔導兵器を持ち出して旧ガゼッタ領山岳地帯の何処かに潜伏しているらしく、目下捜索中との事。
「やっぱ解体前に取り外した対空砲あったんすね」
「お主の想定内程度じゃよ」
ジトっと半目を向けた悠介に、しれっと答えるアユウカス。ポルヴァーティア軍の爆撃機に対抗するべく大量複製生産された『対空光撃連弓・改』は、カーストパレスの改変で戦争を棚上げ式に終結させた悠介が帰国後、片っ端から解体して資材に戻した。
だが、解体前にカスタマイズ能力の干渉範囲であるシフトムーブ網から切り離してしまえば、悠介の管理から逃れられる。
そんな、強力な魔導兵器を有したガゼッタの覇権主義勢力が、ポルヴァーティアの工作員と共に潜伏しているという現状。
実際に行方を眩ませているのは十数人規模だが、彼等と繋がりのある者達も相当数パトルティアノースト内に残っていると思われる。
もしクーデターでも起こされた場合、甚大な被害は免れない。
「あー、それでシンハも国を離れられなかったと」
「そういう事じゃ」
統率者不在の隙を狙われれば、中枢塔の陥落もあり得ると憂慮するアユウカスに、悠介は続けて訊ねた。
「でも、そんな状態でポルヴァーティア行きの使節団に参加して大丈夫なんですか?」
カルツィオの代表としてガゼッタから赴くのは、アユウカス当人だと聞いている。彼女もガゼッタの中枢で王族を支える里巫女として、重要な立場にあるはずだ。そこを問う悠介に、アユウカスはニヤリとした表情を返しながら答えた。
「そこはそれ、牽制の意味合いもある」
覇権主義勢力に接触を図っているのが、ポルヴァーティア勢力の中でもどの組織なのかは不明。なのでとりあえず、最大勢力の動きを抑えておけば迂闊な動きは出来まい、という事らしい。
「ポルヴァーティアの最高権力者だった大神官とやらは、永遠の命に興味があるようじゃしなぁ」
「それって、どういう……」
アユウカスの、含みを持たせた言葉を訝しむ悠介だったが――
「古の勇者パルサは、よく求められておったそうじゃな」
「……」
その一言で、彼女の狙いを理解した。
「ふっふっふっ、どう攻めてやろうかのう」
(誘惑する気満々だこの人……)
カーストパレスを改変した夜、大聖堂の総指令室で大神官と直接対峙した悠介から見て、相手はかなり老獪なやり手の爺さんという、ゼシャールドにも通ずる印象だった。
が、不老不死で悠久の時を生きるアユウカスからすれば、どんな海千山千の年寄りでも尻の青い若者と変わらないのかもしれない。
ちなみに、ここに集う各国代表達の中でも、悠介とアユウカスの今のやり取りの意味を即座に理解出来たのは半数ほど。
一部の『意味が分からなかった組』が仲間から説明を受けて、赤面したり驚いたりといった光景がしばらく繰り広げられたのだった。
その後の晩餐の席では、豪華な料理に実酒も振る舞われて、先程までの重苦しさを感じる不穏な雰囲気から一転、酒と料理に舌鼓を打つ穏やかな交流会となった。そこへ、門番の兵士達に案内されて朔耶がやって来た。
「お、都築さんちぃーっす!」
「何か酒盛りしてるんだけど……」
国家間の厳粛な会談を想像していた朔耶は、会議室の宴会状態に困惑していた。
カルツィオ聖堂で四大国会談の晩餐会に朔耶が合流していた頃。
旧ガゼッタ領の山岳地帯にある廃坑にて、潜伏中のガゼッタ覇権主義勢力とポルヴァーティアの栄耀同盟工作員が、来る決起の時に向けて作戦の段取りを確認していた。
「この作戦はタイミングが重要だ。人材交流で派遣されて来た我々の仲間が、パトルティアノーストに入ってからが勝負になる」
「しかし……やはり里巫女様を俺達が手に掛けるというのは……」
栄耀同盟の先行組工作員による作戦の説明に、覇権主義勢力のメンバーはガゼッタをその建国の時から見守って来たと謂われる里巫女アユウカスの暗殺には、否定的な見解を示した。
この反応は折り込み済みであった栄耀同盟の工作員は、言葉巧みに覇権主義勢力の若者達を鼓舞して煽り、扇動する。
「象徴を倒さねば、革命は成功しない。自分達が全同胞の先頭に立つ覚悟を持たなければ!」
「ガゼッタのような長い歴史を持つ国には、時代の節目に新しい風を吹き込む必要がある」
「護られて来た古い体制を保護する事も大事だが、それに拘り過ぎれば、君達の宿敵だったノスセンテスという滅んだ国の二の舞になってしまう」
「今一度、自身の胸に問うべきだ。君達が護りたいのは、誇りある白族の同胞全てなのか、彼等の統治を任されて来た、一部の指導者達なのかを」
元々ポルヴァーティアで無垢な信徒達や元他大陸民族の思想教育に携わっていた工作員は、純朴で血気盛んな若き白族戦士達の心の動きが、手に取るように分かった。
ガゼッタはごく最近まで、神技人が中心の世界に融合しようとする融和派と、白族帝国の復活を最終目標に掲げる回帰派との対立を内部に抱えていた。
カルツィオでガゼッタが台頭する為の鍵と見做されていた邪神・田神悠介の働き掛けによって、ガゼッタは新たな時代の中で四大国の一角に納まる事になった。
だが、大国としての安定は回帰派、融和派の双方に覇権主義派を生み出した。
平穏になってしまった世界。今まで戦いに備えて鍛えて来た己が力を振るう機会を失い、闘志を燻らせる若者達。彼等の深層心理に感じ取れる欲求。それはカルツィオの覇権云々ではなく、自分達の活躍の場を求める心であった。
栄耀同盟の工作員は、そこに付け込んで彼等の思考を誘導する。
「君達の王は、常に最前線で戦って来たそうじゃないか」
「ガゼッタの王は今後、国と民を護らなければならない。では誰が代わりに戦うのか」
「――そうだ、シンハ様はもう自由に動けない立場にある。俺達がやらないと」
その為には、永きに渡ってガゼッタの王族を支配して来た、影の存在を排除しなければならない。
「苦難を乗り越え、共に勝利を!」
こうして、暗躍する栄耀同盟の工作活動も着々と進められていった。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異界の錬金術士
ヘロー天気
ファンタジー
働きながら大学に通う、貧乏学生のキミカ。ある日突然、異世界トリップしてしまった彼女は、それと同時に、ちょっと変わった能力をゲットする。なんと念じるだけで、地面から金銀財宝が湧き出てくるのだ! その力は、キミカの周囲に富をもたらしていく。結果、なんと王様に興味を持たれてしまった! 王都に呼び出されたキミカは、丁重にもてなされ、三人のイケメン護衛までつけられる。けれど彼らを含め、貴族たちには色々思惑があるようで……。この能力が引き寄せるのは、金銀財宝だけじゃない!? トラブル満載、貧乏女子のおかしな異世界ファンタジー!
異界の魔術士
ヘロー天気
ファンタジー
精霊によって異世界に召喚されてから、既に二年以上の月日が流れた。沢山の出会いと別れ。様々な経験と紆余曲折を経て成長していった朔耶は、精霊の力を宿した異界の魔術士『戦女神サクヤ』と呼ばれ、今もオルドリアの地にその名を轟かせ続けていた。
戦場からお持ち帰りなんですか?
satomi
恋愛
幼馴染だったけど結婚してすぐの新婚!ってときに彼・ベンは徴兵されて戦場に行ってしまいました。戦争が終わったと聞いたので、毎日ご馳走を作って私エミーは彼を待っていました。
1週間が経ち、彼は帰ってきました。彼の隣に女性を連れて…。曰く、困っている所を拾って連れてきた です。
私の結婚生活はうまくいくのかな?
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。