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カルパディア編
第二章:四大国会談
しおりを挟む収穫祭も半ばとなった祭り三日目。ルフク村に迎えの衛士隊馬車がやって来たので、悠介はスンを連れて一度サンクアディエットに戻る。
「それじゃあ、後の事はお願いします」
「うむ。気を付けてな」
「帰ったら詳細を聞かせてくれ」
「行ってらっしゃいませ、お二人ともお気をつけて」
「スンちゃんもユースケもお勤め頑張ってね」
ゼシャールドの屋敷前で皆に見送られながら、悠介とスンは衛士隊馬車に乗り込む。ちなみに、馬車を持って来たのは今回もフョンケである。
スンを座席に座らせ、悠介はフョンケと並んで御者台に座った。
「ゼシャールドの爺さん以外全員女とか、隊長やっぱスゲーッすね」
「開口一番それかい」
まあ予想してたけど、と肩を竦めて見せる悠介なのであった。
サンクアディエットまで一本道の街道を行く悠介達。以前はここを通る人や馬車を見掛ける事は滅多になかったが、ルフク村の規模の拡大に伴い、街と行き来する人をよく見るようになった。
本格的に店を開こうとしている商人もちらほら居るようだ。
「隊長が前に言ってた列車って乗り物、やっぱり最初はここに敷くんすか?」
「そうだなぁ。ルフク村が予想以上に膨らんでいってるから、それが妥当かなぁ」
交通機関の強化に関しては、現在サンクアディエットの街中を走らせている『乗り合い動力車』のシステムをそのまま流用して、街の外を走らせるという手もある。
だが、今後の輸送量増加を考えると、積載量やコストの面からも列車の方が有利に思えた。
「障害物も危険も無い地域だから、最初に導入するテスト区間としては最適なんだよな」
レール上を走らせるという性質上、ギミック機能と上手く組み合わせれば、自動運転も可能かもしれない。いずれはカルツィオ中の主要な街を繋ぐ『カルツィオ鉄道』の構想も計画しているが、今はソルザックと試案を出し合っている段階だ。
「それって、ポルヴァーティアに対抗するって意味合いが強いんしょ?」
「まあな。静かな今の内に輸送量の底上げだけでもやっておきたいんだけどなぁ」
嵐の前の静けさのような、不穏な空気は一部に漂っているものの、一応は平穏な現状。大規模な作業を進める環境としては悪くない。
「長距離輸送が楽になれば、色々効率良さそうですもんね~」
「そういうこった」
そんな話をしている内に、悠介達を乗せた馬車はサンクアディエットの一般区大通りを駆け抜け、貴族街を通って王宮区内に入った。上の区画では、以前にも増して自家用動力車を多く見掛けるようになった。今後、中層以下の住人が自家用動力車を持つようになれば、街中での交通網の整理も考えなくてはならなくなるだろう。
(利便性の対価だよな~)
ヴォルアンス宮殿に到着した悠介達は、馬車を降りるとさっそく上層階を目指す。
まずは宮殿の一室で会談に出席するメンバーが集まり、準備が整い次第、カルツィオ聖堂に向けて出発する。
「ちゃーす」
「お、来たねユースケ」
「隊長、お疲れ様です」
上層階の衛士隊控え室に入ると、フォンクランク代表予定のヒヴォディルが、護衛役の炎神隊員達と軽く実酒など口にしながら寛いでいた。闇神隊のメンバーも揃っており、皆で悠介を出迎えてくれる。部屋の隅にはレイフョルドの姿もある。
「みんな揃ってるな。準備出来てるなら直ぐに出るけど、大丈夫か?」
「全員、出発準備は出来てやすぜ」
「僕も問題無いよ」
悠介の問いにヴォーマルが答えると、他の闇神隊メンバーも頷く。ヒヴォディルも実酒のグラスを控え室付き使用人に返しつつ、椅子から立ち上がる。レイフョルドは相変わらず、掴みどころのない微笑を浮かべたまま軽く手を振った。
「よし、じゃあ行こうか」
全員で宮殿の動力車乗り場まで下りると、そこから宮殿衛士隊向けに造られた輸送用動力車で街の外周にある、とある地点まで移動する。
バスのような外観をした動力車に皆でぞろぞろと乗り込んでいるところへ、赤いツインテールをなびかせた王女ヴォレットが、パタパタと足音を鳴らして駆けて来た。
「うおー間に合った!」
「ヴォレット? どうしたんだ?」
今の時間はお稽古事じゃなかったか、と訊ねる悠介に、ヴォレットは少し時間をもらって外して来たと、軽く息を切らしながら答える。
「此度の会談、形式的なもの過ぎぬと言っても、このカルツィオに栄える国々の大事な集いじゃからな。ちゃんとお前達の見送りをしておきたかったのじゃ」
「マメだなー」
等と感心している悠介の後ろでは、ヒヴォディル達炎神隊員や、各闇神隊メンバーが連れている部下の衛士達が、ヴォレット姫の心遣いに感激している。
(まあ、将来女王様になる身としては、部下想いの姫君って印象も広がって良い傾向かもな)
ほんの一年ほど前までは、宮殿官僚や衛士達の間でも『変わり者の我が侭姫』として通っていたヴォレット姫だったが、今では随分と評判も上がってきている。
「皆の者、気を付けて行ってこーい!」
炎の姫君による元気な激励の送り出しを受けて、悠介達フォンクランクの代表団はヴォルアンス宮殿を出発した。
カルツィオ聖堂は、フォンクランクの南にある港街から西に半日ほど進んだ場所にある。普通に移動した場合、サンクアディエットからはおよそ三日程度掛かる距離である。しかし今回、悠介達は『シフトムーブ網』を使って移動するので、一分と掛からない。
ガゼッタの兵達が地道に角石を繋いで、カルツィオ中の主要な街や施設を繋いだカスタマイズ・クリエート専用の道。
ポルヴァーティアとの戦いでは大いに役立ったシフトムーブ網は、実は未だに一部の街や施設と繋がったまま利用されている。
悠介としては、他国の兵士(自分)が何時でも他所の国の街を改変出来るような状態にしておくのは、色々と問題があるのではないかと考え、ポルヴァーティアとの戦いが一段落した後は、各国の首都や街との接続は自主的に切断しておいた。
だが、フォンクランク国内に限っての利用なら問題無いとして、あまり乱用はしないがここぞという時に使えるよう整備してある。国内での移動場所も若干増えていた。
街の外周付近にある目的の場所にやって来ると、目印としてそこだけ切り取られたように石畳が敷かれている。シフトムーブ網と繋がっている移動用の台座であった。
その台座の上に動力車を停めた悠介は、おもむろにカスタマイズメニューを開いて操作を始めた。カルツィオ聖堂の近くに設けられた台座部分と入れ替える事で、その上に載っている物体ごと瞬時に移動出来る。カスタマイズ・クリエート能力の仕様上の反則技だ。
「それじゃあ移動するぞー。実行~」
闇神隊のメンバーはすっかり聞き慣れた、悠介のいつもの気の抜けた号令と共に決め台詞が発せられると、石の台座から光のエフェクトが発生。
光の粒が舞い消えた時には、前方に巨大なカルツィオ聖堂が聳えていた。
湖畔の森を切り開いて作られた砦のような建造物。すり鉢状に掘り下げられた土台の中心に建つ、六角形をした石造りのピラミッド型で、天辺部分は周囲を一望出来る展望テラスになっている。
カルツィオ聖堂の駐車場に当たる馬車乗り場まで動力車を走らせ、既に並んでいる他国の馬車の隣に駐車する。
「ありゃ、他はもう来てるのか」
「まあ、他所様はあっしらと違って、数日掛けて来るわけですからな」
不測の事態も想定して早めに出発しているのでしょうと、ヴォーマルが解説する。出発ギリギリまで祭りを楽しんでいる悠介達が特殊なのである。
ちなみに、並んでいる他国の馬車の中には、ガゼッタの動力車もあった。
この動力車は以前、調整魔獣の被害に対処すべく討伐隊を派遣するガゼッタに貸与した、兵員輸送車両をベースに造り直したものだ。軍用の特殊な機能を省き、廉価版仕様にダウングレードして譲渡した車両である。
悠介達が動力車に積んで来た滞在用の荷物を降ろしていると、声を掛けて来る者がいた。
「来たかユースケ」
「お、アユウカスさん、こんちゃーす」
ガゼッタからは里巫女アユウカスと、護衛の戦士三人が出席している。この護衛の三人は、魔獣施設の封鎖に出向いた時にも同行していた、腕利きの白族戦士である。
「あれ? シンハは来てないんすか?」
「うむ。今回は留守番じゃ」
珍しくシンハが顔を出していない事を指摘する悠介に、アユウカスは頷くと、少し真剣な表情を見せながら言った。
覇権主義勢力の暗躍が囁かれている現状、流石にこの状況下で国王がパトルティアノーストを空ける訳にはいかなかったという。
「やっぱり芳しくないみたいですね」
それだけ深刻な状況にあるのだろうと察する悠介。ちらりと脇を見やると、レイフョルドがしっかり聞き耳を立てている。
「まあその話も後でするとして、まずは各国の大使達と顔合わせをしておくとよいぞ」
此度の会談には色々と因縁のある者が集まっておるぞと、アユウカスは少々楽しそうに言った。その言葉の意味は直ぐに分かった。
「お久しぶりです」
「やあ、君だったか」
ブルガーデンからは女王の側近である双子の女官、サーシャとマーシャ。護衛には水鏡で幹部を務めていた神民兵と、精鋭団の水の団からプラウシャが派遣されていた。
いずれも、イザップナー前指導官の体制下にあったブルガーデンにて、スカウトされる形で単身乗り込んだゼシャールドが、女王復権の裏工作を行っていた時に絡んだ者達だ。
特にプラウシャはゼシャールドの教え子として近くに居た事や、彼女の姉が悠介の闇神隊初任務での事件、ギアホーク砦の虐殺に関わっていたりした事で、色々と陰謀に巻き込まれるなどした。
「その節は、お世話になりました」
「いえいえ、お元気そうで何よりです」
どうもどうもと互いに頭を下げ合っている悠介とプラウシャを見ていたフョンケが、得心したようにポンと手を打ちながら一言。
「ああ、パウラの長城で内戦明け早々隊長が引っ掛けてたブルガーデンっ娘か」
「ちゃうわっ」
「違いますっ」
そう言えばそんな事もあったなぁと、当時の様子を思い出しながらツッコむ悠介とプラウシャ。ブルガーデンの代表と親睦を深めたりしつつ、次に挨拶を交わしたのはトレントリエッタの代表達なのだが――
「久しいな、ユースケ殿」
「あんたの女癖が悪いって噂、部下にまで広がってんだね……」
豊満な肢体が強調されるビキニアーマーな装備に、ボリュームのある緑髪が特徴的な女性が挨拶をすると、その隣で前髪の一部にメッシュのような緑が交じった赤髪のスレンダーなお嬢様が気の毒そうに声を掛ける。
トレントリエッタからは、何故か元武装組織『風の刃』の軍務官だったベネフョストと、彼女の部下である精鋭数人を護衛に、組織一族の長であるヴォーレイエ、付き人ウェルシャにリフョナ、奴隷のオドが派遣されていた。
「いや、なんでやねん」
思わず素でツッコむ悠介。彼等の属していた『風の刃』は、実質的に組織を牛耳っていた総務官と財務官が共謀してトレントリエッタの転覆を計り、カルツィオに調整魔獣という驚異を拡散させるなどの災厄を引き起こした。
フォンクランクの介入と悠介達闇神隊の活躍により、トレントリエッタの動乱は直ぐに鎮められたが、拡散した調整魔獣の被害はその後も増して行った。
結局、闇神隊の協力の下にガゼッタが本格的な討伐隊を投入した事で、ようやく終息したのだ。
ヴォーレイエ達は動乱の後、トレントリエッタの首都リーンヴァールでほぼ軟禁生活を送っていたのだが、ガゼッタの討伐隊が派遣されるまでの間に彼女達を観察したクリフザッハ王が、危険性無しと判断したらしい。
そして、トレントリエッタの軍人の中で一番見栄えがして、実力があって、兵士達からの信望も非常に厚いベネフョストは、ポルヴァーティア来襲の混乱の中、なあなあで国の軍属に就かされたらしい。
「いやまあ、トレントリエッタらしいっちゃらしいけど」
「あはは、あたしらも本来ここにいて良いのか自信ないんだけどね」
クリフザッハ王の采配に呆れるやら感心するやらな悠介に、ヴォーレイエもなぜ自分達がトレントリエッタの代表をやってるのか分からんと苦笑を返す。
「ほんとに、政争とかとは無縁な国だよなー、トレントリエッタは」
「まあね。最近はちょっと『玉座』の奪い合いが起きてるみたいだけど」
彼の国の平和っぷりに言及する悠介だったが、ヴォーレイエから不穏な言葉が飛び出した。
「何か今、さらっと聞き捨てならない事を聞いた気がするんだが」
「ああ、奪い合いって言っても『王座』じゃないよ? 『玉座』だからね。それもあんたの贈り物が原因だし」
「俺の? って、まさか……」
件のクリフザッハ王には以前、悠介から個人的にある贈り物をしていた。
調整魔獣の一件が片付き、ガゼッタの正式な参加表明によって五族共和制度が各国間で成立した事を受け、その大々的な布告の為に、四大国の王と民がこの聖堂に集う大規模な祭典が行われた。
そこに至るまで、トレントリエッタは四大国の中でもほとんど蚊帳の外状態だったのだが、祭典の為に呼び出されて、カルツィオ聖堂からもっとも距離のあるリーンヴァールより遥々やって来た『深緑の仁王』クリフザッハ王に、悠介が労いの意味を込めて健康器具を贈ったのだ。
気苦労の絶え無さそうなクリフザッハ王の為に作った『ギミック按摩機能付き装着型背凭れ』。いわゆるマッサージチュアの按摩機能の部分を、既存のソファなどに装着出来る仕様にした物。
「え、あれ玉座に付けてんの?」
クリフザッハ王は、仕事で長時間座っていなくてはならないので、どうせなら毎日ずっと座っている椅子に付けちゃえと、玉座に装着したらしい。実はカスタマイズ能力の特殊効果付与によって、安静効果も付いているギミック按摩機能は側近達にも人気で、夜中にこっそり大臣が座って寛いでいたり、昼間でも王が席を外している間に席取り合戦が巻き起こるなど、今トレントリエッタ王宮では、玉座の奪い合いがトレンドなのだとか。
「何という平和な争い……」
トレントリエッタ王宮の詳しい内情を聞いた悠介は、脱力しながら呟いた。傍で会話を聞いていた他のメンバーや他国の大使達も、軒並み同じような反応を示していたのだった。
そんなこんなと予想外の再会にひとしきり騒いだりしつつも、四大国の代表達が顔を揃えたので、皆で会談が行われる部屋へと移動する。
全員が席に着いたところで、ポルヴァーティア勢力との交渉を行うカルツィオの代表使節団の選定を行うべく、四大国会談の開催が宣言された。
「カルツィオ使節団の人選はワシらガゼッタとフォンクランクの代表でよいな?」
「開始二秒で終わらせないでくださいよっ」
早々に結論から入るアユウカスに、いくら四大国間であらかじめ示し合わせていたとはいえ、わざわざ集まった意味が無くなってしまうじゃないですかとツッコむ悠介。
「みんな五日くらい掛けて話し合う予定で来てるんですから、何か会談らしい事しましょーよ」
等と促す悠介だったが――
「んなもん、適当に喋って飯食って帰ればよかろう」
「国民の貴重な税金が偉い人達の飲み食い費にっ!」
そもそもが、カルツィオの民草に四大国の結束を示して、安心感を与える目的の演出的な意味合いが強い会談なのだから、無駄に気負う事は無いとぶっちゃけまくるアユウカス。ブルガーデンやトレントリエッタの代表達も、流石にここまで格式を放り投げて来るとは思わなかったらしく、苦笑している。
「締めるべきところをきちんとしておれば、他は適当で良いのじゃ。疲れるからのぉ」
「……都築さんが居たらどんな反応されるやら……」
十割同意されるであろうとは思ってもみない悠介であった。
カルツィオ聖堂で四大国会談――という名のお喋り会が開かれていた頃。ポルヴァーティア大陸の旧カーストパレス、密集囲郭都市群から少し離れた海岸の片隅にて。
ポルヴァーティア人自治区で暗躍する『栄耀同盟』の構成員が、海辺の散歩を装いながら、件の計画について話し合っていた。
「向こうの主要な国に関する情報はこれで問題無いな」
「ああ、地域の特徴や習慣に対する注意事項も把握済みだ」
トレントリエッタは潜むには良い環境だが、組織の旗揚げには向かない。ブルガーデンは女王の権威が強過ぎて付け入る隙が無い。例の『勇者』が居るフォンクランクは論外。
「やはり、カルツィオの覇権を燻らせた勢力を抱える、ガゼッタが狙い目か」
「連中の気を惹けそうな武器の確保も出来ているからな。手を組む相手としては妥当だろう」
環境が整えば、簡単な物なら向こうでの製造も可能になる。現地人にとって、ポルヴァーティア製の魔導技術武器は、かなり魅力的な取り引き材料になるはずだ。
「まだ確認中だが、ガゼッタの覇権主義勢力は、例の『勇者』の暗殺を計画しているらしい」
「付け入る隙としては十分だな。上手く内乱に持ち込めれば、向こうの大国を手中に出来るぞ」
覇権主義勢力の後ろ盾となり、厄介なカルツィオ側の『勇者』を現地人の手によって葬らせる。カルツィオで最大勢力となった覇権主義者達の組織には、栄耀同盟の思想浸透を計り、最終的にガゼッタを乗っ取れば、それを足掛かりにポルヴァーティアの各組織を取り込んでいく計画。
ポルヴァーティアにとって、先の戦いの敗因は、大部分がカルツィオ側の『勇者』の力によるものと考えられていた。
浄伏大攻勢に向けて出撃した神聖水軍艦隊を丸ごと海に沈めたり、聖都カーストパレスを一晩で囲郭都市群に改変するなど、あまりにも非常識な力を持つ『勇者』が、複数人も存在していた。
そんな常識外れの『勇者』さえ居なければ、ポルヴァーティアに比べて遥かに技術レベルの劣るカルツィオには、万に一つも勝ち目など無かったはずなのだ。
「ガゼッタの政府中枢には、アルシアと同タイプの強化人間系勇者も居るようだし、まずはそちらを始末させる方向で様子を見て、それからあの黒い奴の処理だな」
「黒いと言えば、艦隊を沈めた空を飛ぶ奴の方は、アルシアに接触しているらしいな」
「ああ、そっちも何を目的にしているのか探りを入れている最中だ」
信徒達への宣伝と、一般兵向けの戦意高揚の駒でしかなかった勇者アルシアには、これといって重要な情報は与えられていない。彼女からポルヴァーティアに関する機密などはまず得られない。その事は、彼女と少し話せば分かるはずだ。
「アルシアが後ろ盾をやっている組織の籠絡が目的か?」
「どうだろうな。カルツィオ側の勇者達もそれぞれ所属が違っているようだし、一枚岩では無いという事かもしれん」
それならば尚の事、ガゼッタの覇権主義勢力を煽って攪乱してやれば、勇者間での対立も招けるかもしれない。
「非常識な力を持つ者には、同じ非常識な力をぶつければいい」
どんなに強大な力を持っていても、疑心から来る不安には抗えないものだ。その不安がまた疑心を呼ぶ悪循環。カルツィオ側の勇者達が相互不信に陥れば、やり易い。彼等の能力の詳細も、ほぼ明らかになっている。
勇者に与えられる能力は、基本的に一系統。ガゼッタに所属する勇者はアルシアと同じ強化系。フォンクランクに所属する勇者は、あらゆる物体を改変する干渉系。
どこに所属しているのか不明だが、黒い翼の勇者は飛行と絶対防御の障壁と雷撃――
「……まあ、あれは恐らく、一系統の能力を使いこなして応用しているのだろう」
強固な障壁を生み出す能力を使いこなす事で、空間に摩擦を生じさせて雷を発生させているとか、障壁を使って自身を浮かせているといった仕組みが考えられる。
「相手の内心を読み取ったりする能力でもない限り、我らの計画が露見する事は無い」
栄耀同盟の構成員は、実行間近となった計画について、対勇者策も交えながら語り合うのだった。
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