ワールド・カスタマイズ・クリエーター

ヘロー天気

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カルパディア編

第十章:すり替わりと帰国準備

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 大捕り物も一段落して少し落ち着いたカルツィオ聖堂内の会議室にて。本国への連絡や他の国の代表達とのやり取りは、闇神隊のメンバーやカルツィオ代表のヒヴォディル達がやってくれている。
 悠介はカスタマイズメニューから聖堂の状態を確かめ、未だに砲撃が続いている事を確認しつつ、合流したコウ少年と朔耶の会話に耳を傾けた。

「聖堂のどこかには居るかもしれないって事よね?」
「たぶん」

 聞くところによると、コウはカルツィオ聖堂にやって来て直ぐ、移動中の道すがら敵味方の判別を行っていたのだが、その時に確認した敵対者の人数と、後から魔力の花を付与した人数が合わないのだと言う。

「ふーむ……もしかしたら砲撃がまだ続いてるのも、潜伏組が手引きしてるのかもな」

 聖堂への出入りは封じたものの、この状態ではこちらも身動き出来ない。外に停めてある動力車や各国代表の馬車は無事だろうかと気にする。
 悠介達はシフトムーブ網を使って主要な街まで瞬間移動出来るが、『栄耀同盟』がその事を知らなかった場合、ターゲットをここに足止めする為に、移動手段を潰そうとする筈。

 アユウカスやポルヴァーティア大使等が乗って来た汎用戦闘機は、襲撃者達栄耀同盟にとっても手に入れたい貴重な足になるであろう事を考えると、砲撃対象からは外されるのではないかと悠介は推察する。

「とりあえず建物内こっちの安全が確保出来たら砲撃元あっちにはあたしが飛ぶわ」
「重ね重ねお世話になります」

 朔耶のなんとも頼りになる提案を受け、悠介は頭を下げる。そんなやりとりをしているところへ、アユウカスが声を掛けて来た。

「ユースケや、ここからどうすべきか、考えておるかえ?」
「うーん、大使の振り分け済ませてさっさと帰国するのが妥当かなと」

 今回の使節団報告会で予定していた、ポルヴァーティア側との会談結果の報告と確認はほぼ形式的なもので、既に重要な内容は各国の王に届いている。
 代表同士で話し合うのは、ポルヴァーティア側との細かい取り決めなどに関する認識のすり合わせをしておく事と、ポルヴァーティア大使の受け入れが主な目的だった。
 現在進行形で襲撃を受けている今の状況では、ノンビリ交流を図る訳にもいかない。

 そんな中、拘束した捕虜――栄耀同盟の工作員とガゼッタの覇権主義勢力過激派メンバーの取り調べを行っていた警備兵達から、奇妙な報告があがった。
 ポルヴァーティアの大使が二人ほど行方不明だという。

「そう言えば、大使の中にも栄耀同盟の関係者が居たってコウ君が言ってたような」

 朔耶の呟きに、悠介は疑問を浮かべる。

「んん? でも、騒ぎの前に全員居ましたよね?」

 敵の作戦決行前に仕掛けた今回の捕り物騒ぎだが、仕掛ける直前『これから報告会を始めよう』とした時に大使達が全員席についていた事は確認している。
 その後直ぐ、コウが魔力の花の色を変化させて敵味方を判別し、悠介が聖堂を封鎖したので、逃げ出せる時間は無かった筈だ。
 すると、報告を届けた警備兵が戸惑いがちに答えた。

「い、いえその、大使達によれば、別人にすり替わっているとの事でして……」
「「別人?」」

 思わず顔を見合わせた悠介と朔耶の声が重なった。


 改めてポルヴァーティアの大使達からも話を聞いてみたところ、どうやら全員で席についた時、自分達と一緒にやって来た仲間では無い者が交じっていたので、違和感を覚えていたらしい。
 その二人は栄耀同盟の工作員等と共に拘束してあるが、尋問には黙秘している。

「これはコウ君の出番だな」

 そう呟いた悠介が会議室内を見渡すと、同じ結論に至った朔耶も周囲を見回し――

「あれ? コウ君は?」
「って、また居ないし」

 またもやコウの姿が見えない事に二人して頭を掻く。ふと、思いついた悠介は、試しにイフョカに訊ねてみた。

「イフョカ、コウ君見なかったか?」
「あ、えと……さっきお二人と、アユウカス様が、お話している時に……あそこから」

 そう言って会議室の出口を指さす。やはりイフョカは気付いていたようだ。
 朔耶を見ると、意識を集中している様子。やがて、ピクリと反応を見せた朔耶が天井を見上げた。悠介もつられて天井に視線を向ける。

(上……? 展望テラスか?)

 しばらくそのままの姿勢でいた朔耶はふいに集中を解き、コウが展望テラスに居る事を告げた。

「何か、森の中から砲撃してるグループと、その森に走り去る三人組を見つけたらしいわ」
「って事は、その三人組が数の合わない分か……」

 追跡はせず、一度戻って来るよう伝えたのでもうすぐ帰って来るだろうとの事だった。


 しばらくしてコウが戻って来たので、さっそく件の偽大使二人を視て貰う。

「この二人なんだけど」
「じぃ~」
「っ……!」

 相手の心を読み取ると公言され、頭を撃ち抜かれても何事も無かったかのように起き上がって来た謎の少年に「じぃーっ」と見詰められて、居心地悪そうにしている偽大使二人。
 悠介達カルツィオの各国代表を始め、ポルヴァーティアの正式な大使達も見守る中、コウの読心能力によって偽大使の行動が暴き出される。

「えっとねー――」

 どうやらこの二人は、大使達が駐車場から会議室に案内されて来る途中で入れ替わっていたらしい。大使役としてやって来た栄耀同盟の同志であり、魔導兵器に詳しい技術者でもある二人を、確実にガゼッタに潜伏中の同志と合流させる為の偽装工作だったようだ。

「なんじゃ、それなら小細工なぞせずとも、ワシがその二人をガゼッタに連れ帰っておったかもしれんという事か」

 アユウカスがそう言いながら「裏目に出ておるのう」と肩を竦めて見せる。
 栄耀同盟が魔導兵器の技術者をガゼッタに送り込みたかった理由も、大体のところが判明した。彼等は覇権主義勢力にクーデターを起こさせてガゼッタの乗っ取りを画策しており、その為の切り札に魔導兵器の投入を企んでいたのだ。

 既にガゼッタ国内には魔導兵器の部品が持ち込まれており、あとはそれらを組み立てられる技術者を待つばかりという状態らしい。
 ここへきて、ますますガゼッタの危うい内情が浮き彫りになった。

「ちなみに、他の大使さん達の中で魔導技術に詳しい人は……」

 悠介が訊ねてみると、技術者とまではいかないが、多少の知識を有しているという人が三人ほど居た。ブルガーデンの代表からその三人に向けられる視線が熱くなった気がする。
 ともあれ、これで聖堂内の安全はひとまず確保出来たので、朔耶が砲撃を止めるべく現場に飛ぶ事になった。砲撃に使われている『対空光撃連弓・改』を回収する為に、コウも同行する。

「じゃあちょっと行って来るわ」
「よろしくお願いします」
「わーい」

 悠介がカスタマイズメニューをちょいと弄って天井に臨時直通路を開くと、漆黒の翼を発現した朔耶がコウを抱えて飛び出して行った。

「さて、砲撃グループも回収するとして、この人達の処遇をどうしようかね」

 朔耶とコウを見送り、天井の直通路を閉じた悠介は、拘束された栄耀同盟の工作員と覇権主義勢力のメンバーを見渡して呟く。
 すると、アユウカスが申し出た。

「ワシに任せてくれんか? 栄耀同盟の工作員共々、ガゼッタが預かる」
「ふむ……」

 唸る悠介は、ヴォーマルやシャイードに目配せして意見を募る。

「まあ妥当だと思いやすけどね。ヒヴォディル殿にも意見を聞いてみては?」
「隊長の判断でも十分だと思いますが、彼の賛同も得ておけば、宮殿での報告で面倒が無いかと」

 二人の提案に頷いた悠介が、ヒヴォディルに訊ねる。

「つーわけなんだけど、どうよ?」
「え? あ、ああ、良いと思うよ。僕はフォンクランク代表筆頭として君の判断を支持しよう」

 先程から稲妻は走るわ光弾は飛ぶわ、頭を撃たれたコウ少年は復活するわ、翼を生やした朔耶は飛んで行くわと、見慣れている者でも驚きを禁じ得ないような衝撃的光景の連続で少し呆けていたヒヴォディルは、急に話を振られて動揺するも、直ぐに何時もの調子を取り戻してそう答えた。

 栄耀同盟はポルヴァーティアの地下組織の中では結構力のある組織のようだが、『真聖光徒機関』やアルシアの『暁の風』とも敵対しているらしい。捕虜としてフォンクランクに連れ帰っても、有益な情報が得られるかも分からない。

 覇権主義勢力のメンバーはガゼッタとの関係を考えると、連れ帰るべきではない。ヒヴォディルの支持も取り付けた悠介の現場判断により、今回の襲撃者達の身柄はガゼッタが預かる事になった。

 朔耶とコウが戻り次第、カルツィオの各国代表達は自国に受け入れるポルヴァーティアの大使を連れて、それぞれ帰国の途に就く方針で纏まった。。

「貴方方は是非、我がブルガーデン国へお招きしたい! 歓迎致します!」
「これは決定事項」

 さっそく、ブルガーデンの女官姉妹が先程の魔導技術に詳しい大使三人を勧誘していた。



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