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カルパディア編
第二十一章:必然の成果
しおりを挟むパトルティアノースト全域を監視しつつ、シフトムーブを使って伝令を直接、要所施設へと送り込む。そうして得た情報を吟味し、状況を見て入れ代わりガゼッタ軍部隊を移動させる。
敵機動甲冑には複合体を駆るコウが対処してくれているので、大柄な機体が入り込めない場所に潜伏する覇権主義派の制圧を主な役割として、カスタマイズ能力を駆使するアユウカス。
「東防壁訓練場より伝達! 現在は膠着状態でやや優勢、援軍の必要無しとの事です!」
「ふむ、ならばそちらは後回しじゃな」
風技の伝達を通じて現場の状況が伝えられる。アユウカスは、兵を送り込むのも撤退させるのも、シフトムーブをフル活用している。
その傍らでは、悠介が中枢塔の全体図をカスタマイズ画面に表示していた。
悠介は中枢塔に侵入した敵勢力の、迎撃に出ているシンハ達をサポートするべく、中枢塔内部の隔壁を下ろしてブロック分けし、シンハ達と連携しながら一つずつ封鎖エリアを制圧していく。
隔壁が無い場所にも新たに隔壁を作ってしまう。以前、魔獣研究施設を封鎖するべく共闘した時に使った戦術だ。
それに加えて、今回は封鎖エリア内そのものを武器にする方法で敵戦力の牽制に貢献していた。
具体的には、封鎖された真っ暗闇の中で、床や壁、天井からも無数の石腕が生えては、無差別に掴んだり殴ったりして来る。
閉じ込められている側は常に足元や壁、頭上等を警戒し続ける事になり、精神的にも肉体的にも疲弊するのだ。
「他に回り込める通路は無いから、後はこのエリアだけだな。シンハ達から連絡は?」
「は、はい……突入準備、出来ている……そうです」
迎撃部隊との連絡役は、イフョカが受け持っている。侵入者達を閉じ込めてある封鎖エリア前で臨戦態勢を整えたシンハ達からの要請を受けて、壁の一部を開く。
もちろん、その瞬間には壁や床から生やしていた石腕は、光の粒を残して消している。
「突入! 蹴散らせ――て、またか……」
シンハの率いる部隊が封鎖エリアに踏み込んだ瞬間、中で足止めされていた侵入者達との激しい戦闘が起きると思いきや、敵は既に疲労困憊で、交戦意思を失っている者までいる始末。
封鎖されている間は、壁の向こうから石の擦れるような奇妙な音と共に、侵入者達の怒号と悲鳴が飛び交う不気味な時間を待つ事になるのだが、一体中で何が起きているのかとシンハは訝しむ。
捕虜として拘束した者達を尋問してみれば『ここは怪物の腹の中だ』とか『暗闇の中で無数の腕が襲って来る』等と呻くばかり。
闇神隊長が何かしているのだろうとは分かるが、何をしているのかはサッパリ分からなかった。
「うーむ。ユースケに御守りも貰った事だし、やはり機動甲冑の処理に向かった方がいいか」
「御自重ください、陛下」
全然暴れ足りないと不満を口にするシンハに、部下の副長は慣れた様子で自制を促すのだった。
現場で不完全燃焼のシンハがぶーぶー言っている頃。中枢塔の空中庭園に陣取る悠介達は、そのシンハの部隊から制圧完了の報せを受けていた。
連絡役のイフョカがおずおずと切り出す。
「あの……戦う前に、敵が折れてるって、苦情がきてますけど……」
「よし、他に怪しい場所はないな」
「た、隊長~」
シンハ達からの苦情をスルーした悠介は、カスタマイズ画面を操作しながら、こちらが把握していない場所に人の痕跡が出ていないかをチェックする。
床や通路の表面の内をわずかに柔らかくするカスタマイズを施す事で、何者かがその場所を歩くと、カスタマイズ画面に足跡が表示されるという、カスタマイズ能力を駆使した特殊な探知法。
中枢塔の外壁に穴などは見当たらないし、地下付近の出入り口は全て封鎖済み。通路や部屋の中を移動する存在の痕跡は、シンハ達迎撃部隊のモノしかない。
「……巡回を、何人か残して……撤収するそうです」
「了解だ。シフトムーブ――は使わずに普通に歩いて帰って来てもらうか」
中枢塔内部の安全はこれで確保出来た。後はパトルティアノーストの街中で暴れている敵勢力の鎮圧と排除だ。
「第二収容施設で負傷者多数! 敵は小型の強力な飛び道具を使用!」
「む、例の魔導拳銃か」
伝達で上がって来る被害状況の中に、アユウカスが懸念していた武器を扱う敵部隊の情報が出て来始めた。
「アユウカスさん、そっち手伝いましょうか?」
「すまぬが頼む。あ奴等、防壁沿いの訓練施設と収容施設に分かれて襲撃しておるようなのじゃが、流石に場所が離れ過ぎて手が足りぬわ」
カスタマイズ画面の大きさは固定なので、広大なマップアイテムの全体像を把握しようとすると、画面内に納まるようにマップアイテムを縮小表示する必要がある。
が、その状態では細部にカスタマイズを施すのは難しい。画面内から読み取れる情報は、基本的に対象区画の現在の状態のみ。
確認出来るのはカスタマイズ能力の範囲内に捉えた建物や、資材化した地形までだ。そこに現場から送られて来る伝達内容を照らし合わせて状況を把握し、対処しなければならない。
アユウカスは主に部隊の瞬間移動配備と活動指示を担当しているが、確かに一人で采配するには問題の起きている場所が多く、それぞれの距離もあった。
その時、新たに届いた現場情報が伝達によって伝えられる。
「北側防壁訓練場、敵勢力鎮圧! 謎のゴーレムから援護を受けたとの事ですが……」
「コウじゃな」
「コウ君だな」
襲撃を受けていた訓練場施設の一ヵ所は、コウが鎮圧したようだ。別の場所を担当する事にした悠介は、コウが居ると思われる訓練場にシフトムーブ用の台座を作りつつ、伝達を送ってもらう。
「コウ君宛てに、シフトムーブで送るから、行けそうなら他の場所の応援を頼むって内容で」
件の訓練場に風技の伝達が送られる。やがて、向こうの伝達担当から了承した旨が返信された。台座の上にはかなり重量のある大きな足跡が表示されている。コウの複合体だろう。
「よし、じゃあコウ君にはこっちの訓練場の応援に行ってもらうとして――実行」
複合体コウを北側防壁訓練場施設から、街の反対側にある南側防壁訓練場施設へと移動させた。悠介とコウが各訓練場施設の応援に回り、アユウカスは収容施設の防衛に集中する。
シンハも部隊指揮の指示出しにアユウカスの補佐についた。現場には出してもらえないが、部隊の指揮に関してはシンハの指示だけでも十分に力を発揮するだろう。
「さて、機動甲冑の方は何とかなりそうじゃが、やはりあの魔導拳銃を持った部隊が厄介じゃな」
アユウカスが、収容施設の通路周りを封鎖しながら呟く。ちらちらと、悠介のカスタマイズ画面の操作を覗き見て会得した、床の表面の内を薄く柔らかい状態にする特殊な探知法も導入している。
「アユウカスさんのカスタマイズ・クリエートの適応力が半端無いんだけど……」
「カッカッ、ワシはこれまで様々な邪神達の力に触れて来たのじゃぞ?」
本人の感覚だけで使っているような能力も洞察力と推察で使いこなして来た身ゆえに、能力行使の手順がここまで複雑だが合理的に体系化された能力は、覚えてしまえば非常に使い易いそうな。
(まあ、元々が操作性にも配慮されたゲームのシステムだもんなぁ)
そうしてしばらく街中での攻防が続いた後、訓練場施設を襲っていた敵機動甲冑部隊は全て鎮圧。襲撃を受けて占拠された収容施設も、一ヵ所を残して制圧された。
「後はここだけじゃな」
「例の魔導拳銃持ちのいるところですか」
現在は施設を完全封鎖しているので、一応は無力化出来ている。
今回の襲撃騒ぎだが、栄耀同盟と覇権主義派にとって想定外だったのは、真っ先に陥落させる筈だった中枢塔にコウが居た事と、事態の発生直後から悠介が応援に駆け付けた事である。
アユウカスが張っておいたシフトムーブ網の再接続という事前の策が、功を奏しまくる結果に結び付いたと言えた。
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