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カルパディア編
第二十二章:制圧と後片付け
しおりを挟む「ここは安全確実にコウ君を派遣するか」
狭い屋内で敵味方が入り乱れている上に、隠れ覇権主義派も交ざっているので現場は混乱気味。という状況を加味しても、コウが適役であるとする悠介の判断をアユウカスも支持した。
「コウ君、大活躍だな」
「お主も大概じゃがの」
今現在コウが居る訓練場施設に移動用の台座を作り、一旦空中庭園に戻って来るよう指示の伝達を送ってもらう。伝達のやり取りで何やらごたついている様子だったが、無事伝わったようだ。
「これは……少年型に戻ったんだな――実行」
台座に小さい足跡が表示されたのを確認すると、シフトムーブで呼び戻した。
「ただいま~」
「おかえり」
「大義じゃったのう」
何時もながら、欠片も疲れた様子のないコウ少年を「お疲れさん」と出迎えて労うと、次の派遣場所について現在の状況を説明する。
「ボクからも報告。覇権主義派と栄耀同盟だけどねー――」
コウからは栄耀同盟の指揮官が覇権主義派の乗る機動甲冑を自爆させようとした事や、栄耀同盟の搭乗者が乗る機動甲冑には自爆装置が付いていなかった事などがあげられた。
「自爆装置なぁ……。にしても、やっぱりそんな関係だったか」
栄耀同盟の人間が覇権主義派を――というより、カルツィオ人を下に見ている事は、これまでの経緯で大体分かってはいた。
が、流石に覇権主義派のパイロット本人の承諾も無く自爆させようとするとは、予想以上に両者の結び付きは歪な形になっているようだと、悠介は認識する。
「利害関係で組んでるのかと思ったけど、これ覇権主義派の人、騙されてるんじゃないか?」
「ありえん話ではないのぅ」
悠介の疑念に、アユウカスは覇権主義派の若者達の事を慮る。時代の節目に翻弄されて使命感を持て余した血気盛んな若輩者が、腹に一物持つ大人に革命思想を吹き込まれて利用される様は、昔から見て来たと。
「まあそれならそれで、力尽くで何でも解決って訳にもいきませんね」
「そこが厄介なところなんじゃよなぁ」
行動はことごとく脳筋の癖に、その動機は心の機微に触れるようなデリケートな気持ちの問題。どこまで行っても個々人の感情が起点になっているので、国家権力と武力だけでは解決しない。
結局、国や王への忠誠心という、これまた個人の感情と使命感が事態の収束への鍵となり、それはそのまま、ガゼッタの人々――白族という同胞の結束を固める道標になる。
とりあえず、まずは現在の混乱を収めてからだなと、悠介はカスタマイズ画面の変化を睨みつつ、伝達で上がってくる現場の状況を推察する。
アユウカスと並んでカスタマイズ画面を出しているので、彼女の担当する画面も同時に見ながら敵部隊の動きを観測できる。
今は徐々に封鎖空間を狭めて、相手を身動きが取れない状態にしている最中だ。敵部隊の大半は施設中央の大部屋に集まっているが、数人単位で別の部屋にも分散している。
魔導拳銃を相手に正面からでは分が悪過ぎる為、どのタイミングでどこからどのように仕掛けるか、見極めが難しい。下手に力押しすると無駄に犠牲が出てしまう。
そんな二人のカスタマイズ画面を覗き込んだコウが、ポツリと指摘した。
「これ、ひとりずつシフトムーブで釣りだせない?」
「……その手があったか」
コウは悠介やアユウカスの様にカスタマイズ能力を扱える訳ではないが、悠介とアユウカスから読み取った能力の詳細情報により、二人以上にカスタマイズ能力を使った応用技を考案した。
同時多発的に発生した今回の襲撃騒ぎ。現場が複数箇所に及んでいる時は難しかったが、一ヵ所に絞られた今なら問題無く行使出来る。
敵味方共に、危険を冒さずとも安全に制圧出来るコウの提案は、悠介とアユウカスとシンハ、それに現場から呼び戻された鎮圧部隊の指揮官も交えて協議され、即実行に移された。
「ある意味、逆転の発想だったな。よし、実行」
カスタマイズ・クリエート仕様上の反則技に、更なる反則級の能力者を投入して、今回の騒ぎを終わらせる為の舞台装置を組み上げる。
ほんの半刻前まで激しい攻防が繰り広げられていた屋内訓練場の中心に、武骨な石塔が現れた。まるで慰霊碑か墓標の様にも見える長方形の石塔を囲むように、鎮圧部隊が配置される。
石塔の直ぐ傍には少年型のコウが陣取った。石塔には人一人分が入れる程度の空間があり、壁は決して厚くは無いが、悠介のカスタマイズでガチガチに強化されているので、機動甲冑の体当たりでも穴が空かないくらいの強度を誇る。
この石塔の中に、封鎖区画から一人ずつシフトムーブで転移させては敵味方の判別を行うのだ。敵なら武装解除の上拘束。味方ならそのまま保護して救助完了という仕組みであった。
「よーし、それじゃあ始めるぞー。コウ君、準備はいいかな?」
中枢塔の空中庭園からカスタマイズ操作をしている悠介に、城塞部分の訓練場施設に出向いているコウから『いつでもおっけー』の返答が伝達で届けられると、作戦を開始した。
パトルティアノーストに点在する収容施設の一つに襲撃を仕掛けた栄耀同盟と覇権主義派の連合部隊は、施設を制圧後、囚われていた同志を解放して戦力に加えつつ立て籠もった。
鎮圧に来たガゼッタ軍の部隊に対し、施設職員を人質に取りながらの籠城戦は、特に栄耀同盟の構成員が使う魔導拳銃の効果が凄まじく、施設内に直接転送されて来る敵部隊を悉く撃退していた。
仲間同士で密集しながら人質を上手く盾にする事で、いきなり目の前に敵部隊が現れても冷静に対処できる。しかし、いきなり現れるのは敵部隊だけではなかった。
ある筈の無い場所に不自然な防壁が次々と現れ、部屋や通路が塞がれて味方が分断された。
覇権主義派の戦士達と栄耀同盟の構成員は、立て籠もりを成功させながらも、封鎖された区画内に閉じ込められる形になった。
部屋の中央に集まり、背中合わせになりながら全方向を警戒する。壁を背にしてもその壁が消えて敵部隊に背後を急襲されたりするので、身を寄せ合って密集形態をとらざるを得ないのだ。
しかしそうすると、集団の外側の空間を埋めるように壁が増設されて行き、部屋がどんどん狭くなる。もはやギュウギュウ詰めになっている覇権主義派と栄耀同盟の連合部隊。次第に彼等の焦りと不安も増して行く。
殆ど明かりも無い密室状態の封鎖された空間で、施設中央の本隊と分断された栄耀同盟の構成員の二人組みが、現状について囁き合う。
「この作戦は完全に失敗だな」
「ああ……どうやら、中枢塔攻略班がしくじったようだ」
「――ったく、元神聖地軍騎士隊の特級パイロットだとか、でかい口叩いていた癖にこのザマか」
「元々無謀だったんだよ。こんなただの力押し作戦じゃあな」
カルツィオに建設した最大規模の支部を失い、起死回生の一手として中枢塔制圧によるガゼッタ国の占領を狙った今回の襲撃。
元々予定していた、覇権主義派を前面に出しての国家転覆を経た乗っ取り計画。最大支部の消失という事態で後がなくなり、幾つか必要な処置を省略しての前倒し発動だったが――
「結果はこの有り様だ」
やはり、計画の大きな妨げになると推測されていた対象が健在なままで、事前に排除しておけなかった事が響いたといえる。
「混沌の使者――大地を操り者――か……この現象は奴の仕業によるものだろうな?」
背後を守る相方にそう語り掛け、予測する返答を待つが、沈黙しか返って来ない。そればかりか、気配まで消えた気がする。
「おい?」
不安になって振り返ると、そこには誰も居なかった。ふと見やれば、相方が立っていた辺りの床に、小さな光の粒がふわりと舞って消えた。
「てきー、ぶきはぼっしゅうしたよ」
屋内訓練場の中心に立つ石塔に、べたりと張り付いて様子を探るコウは、今し方転送されて来た中の人の所属を説明すると、その人物が持っていた魔導拳銃を異次元倉庫に取り込んだ。
占拠封鎖されている収容施設から、シフトムーブで石塔の中に一人ずつ転送しては、外からコウが中身を読み取って敵味方の判別をする。精神体だけ中に突っ込んで所持品の没収もこなせる。
コウの判定は迅速かつ精度は100パーセント。施設中央の集団から、分離された少人数で練習がてら様子を見て、パターンが決まれば後はもう流れ作業だった。
「みかたー。みかたー。てきー、ぶきはなし。みかたー。てきー」
そんな調子で、味方の場合は直ぐに石塔の一面を開放して中の人を救出後、再び石塔を封鎖して次の人を転送させる。
敵だった場合、武装していればコウが武器の没収をした後、石塔の一面が開放され、待ち構えていた鎮圧部隊によって逮捕拘束。そしてまた石塔を封鎖して次の人、という流れだ。
転送と解放、封鎖のタイミングは、現場の訓練場から司令塔である中枢塔まで、その都度伝達で合図が送られる。
空中庭園でカスタマイズ能力を駆使して、これら一連の作業をこなしている悠介は、アユウカスが淹れてくれたお茶など頂きながら、陽が昇り始めた空を見上げた。
「すっかり夜が明けちゃったな」
「帰ったら一眠りしたいですね」
「これから寝ようかって時だったもんな~」
一緒に連れて来たスンと闇神隊員達も、用意された椅子とテーブルについて寛いでいる。伝達業務から解放されたイフョカは特に眠たそうだ。
「ほらイフョカ、ちゃんと座ってないと落ちるわよ」
「ふにゃ……だい、じょうふれす……」
「駄目みたいだな」
エイシャに寄り掛かって半分以上睡魔の海に没しているイフョカに、苦笑を向ける悠介。石塔の流れ作業は片手間でやれる。
襲撃の脅威は去り、もはや危険は無いという判断のもと、シンハ王と側近達も息抜きをしていた。シンハ達はつい先日、悠介が行った宮殿の新設備増築や、訓練場に街や砦の一部を再現しての高レベルな演習・訓練に興味があるらしく、ヴォーマルとシャイードも交えてその内容を語り合っていた。
「ほう? ユースケの新しい秘密武器か。興味あるな」
「まあ別に秘密ってわけでもないけど、こっちが片付いたらまた後で見せるよ」
魔導重力装置の新しい使い方は、フォンクランク内でもまだ一部の衛士達にしか知られていない。悠介としては、使う機会など無い方が望ましい。
やがて作業も終わり、襲撃して来た栄耀同盟と覇権主義派は全て捕縛される事となった。街中に潜んでいた隠れ覇権主義派も何人か交じっている。今回の襲撃に乗じて合流していたらしい。
襲撃対策で施した即席防壁や石塔を片付け、最後にコウを空中庭園に呼び戻したところで、此度の襲撃騒動は収束が宣言された。
「お疲れコウ君。大活躍だったな」
「ただいまー、みんなおつかれ~」
深夜からの戦いで徹夜明けとなり、皆少なからず疲労の色が窺える中、一番動き回っていたコウが全く疲れを感じさせない様子で、挨拶を返しながら労いに労いで応える。
「皆、本当にご苦労じゃった。ユースケ達にも何かしら報いたい。一緒に来て貰えるかの」
アユウカスが礼の品を与えるべく宝物庫に案内するという。実はコウがガゼッタに来て初日から諜報活動で貢献してみせた時に、褒美を本人に選んでもらう方向で話が纏まっていたそうな。
ガゼッタの宝物庫には、かなり古い時代に作られた特殊な宝具などもあるらしい。
「へ~。今回は連れて来てないけど、ソルザックとか目の色変えそうだな」
闇神隊の技術部担当であるソルザックは、趣味で考古学者的な活動もしているので、ガゼッタの歴史的な遺物にはかなり興味を示しそうだ。
悠介は、闇神隊のメンバーとそんな雑談に興じつつ、ふと、昇りきった陽光に目を細めて呟く。
「そういや、都築さんは来なかったな」
流石に別世界の事件にそう何度も都合よく気付けるはずも無いかと、一人得心していたのだが、コウから予想外の答えがもたらされた。
「とちゅうで朔耶の視線を感じたから、たぶんしってると思う」
「あれ、そうなんだ? ふーむ」
それならば、単に来るのを見合わせたのか。或いは、また別の場所で同時に問題が起きていて、そちらの処理を優先したのか。
彼女の性格と行動力を鑑みると、これだけ大きな騒動が起きたのを知ったなら、放っておくとは思えない。必ず何かしら介入して来るはずだ。
「まあこっちの状況を把握してるなら、今日の昼か夜か、明日の朝にでもやって来るだろう」
そう呟いて一つ伸びをした悠介は、パトルティアノーストの全景を表示するカスタマイズ画面を閉じたのだった。
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