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狭間世界編
第八話:悠介邸の人々とカルツィオ聖堂
レクティマを回収したコウが悠介邸でお世話になり始めて二日目。
ポルヴァーティアに派遣されていたフォンクランクの使節団が、サンクアディエットに帰国した。悠介とスンは朝から宮殿に出掛けている。
悠介邸にはラーザッシアとラサナーシャ、それに珍しく起きているパルサが居間に集まり、コウとお話をしていた。
「ふむ、魔物に満たされた迷宮の探索を生業とする冒険者か」
「怖いわねー、パルサの居た世界にもそんなのがあったの?」
コウの生まれた世界、フラキウル大陸での冒険の一端を聞いたパルサが呟くと、ラーザッシアが恐々としながら訊ねる。
「一応、似た様な場所はあったな。ただ、そういう場所の調査は国が軍隊や探検家を派遣して行うもので、冒険者という個人が集まって挑む様な制度は確立されてはいなかった」
貴重な宝の入手が期待出来るような場所なら、大抵は国が管理独占するものだというパルサ。
「街に近いダンジョンならその街が管理してるよ。王都の古代遺跡ダンジョンとかは、入場制限もあるし」
「まあ、何百年も掛けてそれらの環境が構築されたのだろうな。しかし、それほど多くの魔物達が跋扈する地で、人間と共存出来ている事は興味深い」
『互いに天敵なら、最後の一体まで殺し合いをしそうなものだが』等と物騒な事を言うパルサに、コウは『フラキウルはひろいからねー』と、どこかズレたようでいて、意外と真理を突いた言葉で返した。その返答に、パルサは何となく満足そうな笑みを浮かべた。
「コウ様は、常に人の心の声を聴いていると聞きましたが、自身のご負担にはなりませんの?」
ラサナーシャがコウの読心能力について、遠慮がちに訊ねる。
能力の仕様や範囲をストレートに聞くのではなく、微妙にデメリットの有無を話題にする辺り、彼女が情報収集に手慣れている事を覗わせる。
相手が常日頃から心に抱えているであろう負担について訊ねると、自分の苦労を知って欲しい人ほど警戒が薄れて口が軽くなり易い。口にしてはいけない機密情報ではなく、単なる愚痴の類なのだから、付き合ってくれる相手には嬉々として胸の内を明かしてくれる場合があるのだ。
(なるほどー)
コウは、ラサナーシャが無意識に諜報活動を仕掛けている事に興味を抱いた。同じ諜報員でも、理詰めで外堀を埋めていく攻略型のレイフョルドと違い、まずは相手に歩み寄って信頼から得ようとする自然体のラサナーシャは、一見すると受け身に感じる。
が、実際は相手の心に染み込むようにして内に取り込む浸食型。彼女の情報網に組み込まれると、蟻地獄のように抜け出せなくなる。
しかし、貴重な情報源には蟻地獄に引きずり込まれている事にも気付かせない。細やかな気遣いでケアも万全。元唱姫としての実力をいかんなく発揮していた。
「ボク、視点がちがうから負担にはならないんだ」
コウは、自身が脳のような器官を介さず思考している点をまず挙げて説明した。人と話す場合も、常に相手から発せられる多くの雑念を纏めて視ており、そこから必要な情報にだけ焦点を合わせて交流している。
故に、交流相手の意図は基本的に全て正確に把握出来ていて、さらに相手がその自身の意図した通りに思考を巡らせられているかどうかも測る事が出来る。
その人が『Aのように考え、Aのように行動したい』と思い、本人はそうしているつもりでも、実際は『Bのように考え、Bのような行動をしてしまっている』というようなパターンはよくある。
だが、当事者は勿論、周りの人間も、その人が本当に意図していた通りの考えや行動を取れているかどうかなど、普通は確認も判断も簡単には出来ない。
コウにはそれが出来る。というか常にそういう視点から世界を見ている。なので、コウに彼女達の諜報技術は一切通用しない。
人間を相手に想定した心理戦や交渉術は、人外には適応されない。その事を、コウはそれとなくラサナーシャに伝えた。
「透明のカップにダイスを入れて、どーれだってやられても、こまるでしょ?」
まったく隠せてないけど、大丈夫? という意味を含んだ譬え。
頭の良い彼女になら伝わるだろうと、彼女の内面から読み取れた情報からピックアップした言葉を使ってみたが、効果はてき面だったようだ。
一瞬、目を瞠って気配を硬直させたラサナーシャは、直ぐに頭を下げて謝罪した。
「も、申し訳ありませんでした」
「ラサ?」
突然の謝罪にラーザッシアが訝しむ。コウも即座にフォローを入れた。
「だいじょうぶだよー、習慣だからしかたないよー」
脅かしたつもりは無かったのだが、大層恐縮させてしまったらしい。
コウは後で悠介にも説明しておかねばと考えつつ、ラサナーシャがここまで深刻に捉えたのは、彼女達の立場や環境、価値観の違いだろうと理解した。
仮に、向こうの世界で同じ冒険者から探りを入れられたとして、「バレてたか~」で済む話だし、コウも問題にしない。
だが、彼女達は国の中枢に近い立ち位置に居る悠介の、縁者と呼べるほどの深い関係者。何気ない立ち振る舞い一つで、主人である悠介に迷惑を掛けてしまう場合もある。
「みんなユースケおにーさんが大事なんだね」
全てを察したようなコウの言葉に、ラサナーシャは重ね重ね恐縮ですと頭を下げたのだった。
その晩、悠介が屋敷に闇神隊のメンバーを連れて来た。明日の使節団報告会にはコウも参加する。それに伴い、メンバーとの顔合わせを行う為だ。
悠介は当初、コウを宮殿でヴォレット姫に紹介し、その席で闇神隊メンバーとも会わせるつもりでいた。だが、コウの読心能力が強力過ぎた為、宮殿には連れて行けないと判断。予定を変更してメンバーを屋敷に集め、狭い身内だけで親睦を図らせる事にしたのだ。
カルツィオ聖堂で不測の事態が起きた場合など、速やかに連携出来るように、闇神隊内でコウに関する情報を共有し、コウにもメンバーの特性を知ってもらうのが目的である。
「へぇ~、この子もあのサクヤ嬢と同じ異世界人なんすかー」
「ぱっとみ、普通の子供にしかみえやせんね」
付与系神技と呼ばれる補助の使い手である緑髪の若者フョンケと、神技の力の低さを衛士としての能力でカバーしている赤髪の中年男性ヴォーマルがそう言ってコウを観察する。
二人とも『悠介隊長』の事は深く信頼しており、しかし頼り過ぎず、支えになろうという気持ちが感じられた。
「この姿のコウ君は少年型召喚獣っていう魔力で出来た身体なんだ。身体能力は一般的な子供達と同じくらいだけど、魔法――こっちでいう神技の扱いが飛び抜けて優れてると考えてくれ」
悠介がコウの事を説明する。『相手の心を読む能力はレイフョルドが翻弄されるレベル』という言葉には、皆が大きな反応を見せた。それだけ、件の諜報員が腕利きである事が覗える。
「アイツが頭抱えてる姿とか……見てみたかったっす。今度ちょっとつついてみよっかな」
「やめとけ、やめとけ。結構気にしてたから、あんま煽らない方がいいぞ」
面白そうにしているフョンケに、悠介は下手に弄って根に持たれると色々面倒な事になり兼ねないので、本人に会っても触れてやるなと忠告していた。
彼等闇神隊メンバーから読み取れた情報の中には、レイフョルドに対して否定的な感情が比較的多めに感じられた。
少し気になったので探ってみたところ、レイフョルドは以前、悠介に催眠効果のある『神技』を使って操ろうとした前科があるらしい。そうした理由もあって、闇神隊メンバーからはあまり良くない印象を持たれているようだ。
そんな彼等の中でも、悠介に対して特に強い忠誠心を持つ青髪の男性シャイードが、コウの同行について言及する。
「この子を同行させる事で、各国の思惑をより正確に探り出せる訳ですか。なるほど、見事な策略です」
「いやいや、別にそこまでは考えて無いからな?」
一人感服しているシャイードに、悠介がツッコむ。シャイードの『邪神・悠介』に対する忠誠は崇拝レベルであり、彼は常々、悠介がもっと世界の掌握に動く事を望んでいる心情が読み取れた。
普段からあまり目立とうとしない悠介が、今回は積極的に世界の流れに関わろうとするのを喜んでいるようだ。ちなみに、闇神隊正規メンバーの中では唯一の攻撃系神技の使い手でもあった。
「私はエイシャ、闇神隊で水技の治癒を担当しているわ。よろしくね、コウ君」
「あ、わ、私はイフョカと言います……ふ、風技の伝達を、受け持ってます……」
「よろしくー」
最後に青髪の女性エイシャがコウに挨拶すると、彼女に倣うように傍に立つ緑髪の少女イフョカも自己紹介の挨拶をした。
他の男性陣が観察や洞察から入った事に対して、きちんと挨拶から始めるエイシャは、悠介から『闇神隊の良心』等と評されており、今も悠介から『この上なく無難な対応』を称賛されていた。
エイシャの神技は傷を癒す回復系。イフョカは遠方の相手と連絡を取り合ったり、索敵を行ったりする伝達系だ。この二人からも、悠介に対する尊敬や恋慕の想いが読み取れた。
あがり症で人見知りするらしいイフョカには何となく、今はフラキウル大陸のナッハトーム帝国は帝都エッリアで皇女殿下の傍に仕えているウルハを思い出した。
明日はこの面子に数人の使節団員を加えて、カルツィオ聖堂に向かう。
そうして迎えた翌日。
フォンクランクの代表としてポルヴァーティアに派遣され、先日帰国した使節団メンバーと合流した闇神隊とコウは、闇神隊の所有する動力車に乗り込んで移動を開始した。
「や、君が噂の少年か。よろしく頼むよ」
「よろしくー」
乗り込む時に軽く挨拶した赤髪の若者ヒヴォディルは、悠介と同じく宮殿衛士で、近衛騎士的な立場にある『炎神隊』に所属する隊員の一人である。
使節団代表を任されている彼は、悠介とは旧知の仲のようだ。彼等は合流後も今日の報告会について仲間内で打ち合わせをしており、移動中もあまり会話する機会は無かった。
悠介が運転する動力車は、サンクアディエットの外周までやって来ると、そこに敷き詰められた石の台座の上に停車した。
ここから悠介の能力を使った特殊な移動法『シフトムーブ』で、長大な距離を一瞬で移動する。コウも魔王討伐の時に一度経験しているシフトムーブは、物体上での部分入れ替えによる瞬間移動だ。
悠介曰く、『仕様上の反則技』。魔力を明確に視認出来るコウは、朔耶が使う精霊の力さえも、その性質や形状を把握する事が出来る。
なので悠介の『アイテム・カスタマイズ・クリエート能力』が、どのような現象を通して物体に作用しているのか、正確に視て把握する事が出来れば、物体の形状を多少変化させる程度の簡単な模倣くらいは可能になるかもしれない。
そんな期待も抱きつつ、コウはその時を待つ。
「わくわく」
「それじゃあ実行~」
悠介が彼にしか見えない、彼の正面に浮かぶ画面に指を這わせて操作すると、最後に右下の実行ボタンを押した。
次の瞬間、コウを加えた闇神隊と使節団一行が乗る動力車は、立ち昇る光のエフェクトに包まれると、湖の畔に立つ巨大な建造物の近くまで瞬間移動した。
カルツィオ聖堂は湖畔の森を切り開いて作られた砦のような建造物で、すり鉢状に掘り下げられた土台の中心に聳え立つ。六角形をした石造りのピラミッド型をしており、天辺部分は周囲を一望出来る展望テラスになっている。
(う~ん、全然分からなかったなぁ)
コウは、遺跡のような佇まいをしたカルツィオ聖堂にも興味を惹かれたが、発動の瞬間を観察したシフトムーブの仕組みを理解しきれなかった事に内心で唸っていた。石畳に悠介の力が浸透していくところまでは視えたが、その後の変化の過程は早過ぎたせいかよく分からなかった。
以前、魔導船団の冒険飛行で立ち寄った無人島のリゾート施設遺跡で、朔耶が後付けダンジョンの壁を破壊した時に見た魔力の浸透具合にも似ていた気がするが、ハッキリとは分からない。
もっとあらゆる角度から様々なパターンを見て検証しなければ、『カスタマイズ・クリエート』を正確に把握するのは難しそうだ。
聖堂の敷地内を徐行運転で進む動力車。コウは運転手の悠介と助手席のスンに挟まれた、真ん中の席に座っているのだが、窓の外を見ていたスンが何かに気付いた。
「ユウスケさん、あれって汎用戦闘機では?」
「うん? あれ、本当だ、もうポルヴァーティアの大使が来たのかな」
運転席からスンの指差した先を視線で追った悠介が呟き、二人に挟まれたコウも空を見上げる。汎用戦闘機と呼ばれたそれは、タイヤの無いワンボックスカーのような形をした飛行機械だった。
(魔導船の飛び方に似てるけど、魔力が綺麗に出てるなぁ)
グランダールの魔導船は、魔導機関から放出される魔力がもっと荒々しく、謂わば不安定な状態ながら次々と風の膜を発現させて浮力を得る飛び方をしている。
対して汎用戦闘機は放出される魔力が均等に纏まっており、コウの視点からは魔力の波に乗っているように見える飛び方をしていた。
纏まり過ぎていて一度バランスを崩すと立て直しが大変そうだが、魔力の展開を観察する限り、浮力用と推進用の二種類の魔導機関を搭載して安定させているようだ。
コウが汎用戦闘機の性能を推察している傍らで、闇神隊メンバーが『飛来した方向がおかしい』とか『一機だけというのは変だ』等と訝しんでいる。
やがて汎用戦闘機が高度を下げ始めると、『皆の役に立ちたい』と心に強く願っているスンがつぶさに観察を始め、機体に描かれている模様に気付いて報告する。
「あ、ガゼッタの紋章が描かれてますよ?」
「え、まさか……」
悠介達は『ガゼッタの紋章を付けたポルヴァーティアの汎用戦闘機』という、政治的な絡み等で色々ややこしそうな存在に思考を巡らせている。
そんな中、コウはこちらの世界に滞在しようと思った理由の一つでもある『ガゼッタ国』について考えていた。
かつて『邪神・悠介』を興国の旗印に利用しようとしていたガゼッタ国は、ポルヴァーティアとの戦いを経て強力な『魔導技術による武器』という存在に着目した。
『神技』という魔法のような力を扱えない無技の民の国であるガゼッタでは、これまでその基本的な力の差故に、国内でカルツィオの覇権を叫ぶ一部の過激派勢力は抑え込まれて来た。
しかし、神技に対抗し得る魔導兵器が登場した事で、ガゼッタ国内の覇権主義勢力が再び台頭し始めているという話だった。
『神技』よりも強力な『魔導兵器』。
『魔導兵器』に対抗出来る神技人側の唯一の存在が、『邪神・悠介』。
そんな流れで、かつて『邪神は無技の民の救世主』とばかりに神輿に担ごうとした悠介を、今度は『魔導兵器の優位性を揺るがす天敵』として排除を狙っている勢力が暗躍している。
それが、現在のガゼッタ国の状況だ。
(とりあえず、ユースケおにーさんの手助けにガゼッタ国の敵と味方を選り分ければいいかな?)
特に何をするべきか等は話し合っていないが、朔耶が悠介にオススメした時の通り、コウは自身の役割を『潜在的な敵味方の判別による補佐』がベストだろうと考えていた。
動力車がカルツィオ聖堂の駐車場に停車すると、件の汎用戦闘機がその隣に着陸する。
悠介達闇神隊が注目する中、汎用戦闘機から降りて来たのは、紫掛かった白髪の少女と、甲冑姿の戦士達を含む白髪の一団。『里巫女アユウカス』が率いるガゼッタの代表達であった。
悠介が歩み出て声を掛ける。
「アユウカスさん」
「やはりお主らも当日に来たか、ユースケや。見ない顔もおるようじゃが? お主とその娘の子供にしてはちと大きいか」
闇神隊一行をさっと見渡したアユウカスは、動力車を降りて来たコウに目を止めると、ちらりとスンを見ながらそんな事を言う。
スンは悠介との共同作業を思い出して顔を赤らめているが、悠介はそれに動じず、アユウカス達が乗って来た汎用戦闘機について訊ねた。
「これ、どうしたんすか?」
「ふふふ、見ての通りじゃよ。とりあえず中で話そうぞ」
悠介の質問をはぐらかし、聖堂内へと誘うアユウカス。コウは彼女の内心の読み取りを試みた。その結果――
――黒髪とは、サクヤの関係者か――サンクアディエットで何か動きがあったと聞いておったが、新たな異世界人の参入となると如何なる力を持っておるのか――
――さて、まずはどう伝えるべきか――セドの事はそのままでよいか――シン坊はおとなしゅうしておるだろうか――しかしやはり椅子は張り変えねば、ちと尻が痛いのう――
――少し小腹が空いたかの――有力組織勢力ともコネを作っておくべきじゃな――大使が来るのは昼過ぎ辺りか――
等々、膨大な量の情報の断片が飛び込んで来る。どうやら『並列思考』という特殊な思考法をしているらしく、通常の人間よりも思考の情報量が多く感じられた。
コウの背後を考察しつつ、悠介達と共有する情報をどこまで広げるか見極めつつ、ガゼッタ国内の情勢を思いつつ、汎用戦闘機の乗り心地の改善を考えつつ、今夜のご飯を楽しみにしつつ、ポルヴァーティアの有力組織との関係構築を模索しつつ、今日のこれからの予定について考える。
これらの思考を同時にやっているのだ。三千年の時を生きる不死身の存在と聞いていたが、確かに普通の人と比べて『魂に深みを感じる』ような、独特の雰囲気があるなぁと関心を抱くコウ。
ガゼッタの代表達と連れ立って、カルツィオ聖堂入りするフォンクランク代表の使節団と闇神隊。コウも彼等にくっついて建物の扉を潜ったところで、奇妙な思考を拾った。
――ターゲットを確認――
――来た、アユウカス様だ――
――ようし、後は上手くやらねば――
――本当にこれでいいんだろうか……――
位置的に、出入り口を固める警備兵達の思考のようだが、複数の雑多な思念の中から『異なる立場で目的を同じくする同志達との共同作戦』というキーワードが浮かんだ。
警備の兵達が重要人物の到着で緊張するのは、別におかしい事ではない。しかし、コウが拾った思念には攻撃的な感情が交じっており、警護する対象に向ける意識としては少々違和感を覚える。
護衛対象が護衛の者から敵意を向けられる事自体は珍しい話では無い。どこの世界にも、何時の時代にも、上司に不満を持つ部下くらいは居るだろう。だが、平穏な日常業務の中でならまだしも、厳重な警備を必要とする特別な集いであるこの場に限って言えば、明らかに異常だ。
不審に思ったコウは、悠介達にも報告しておくべきかと視線を向けた。彼等はアユウカスや他の国の代表達と会議の席に着き、報告会が始まる前の雑談に興じている。
が、既に国家間の思惑が絡む駆け引きが始まっている様子だった。
話題はガゼッタの代表達が乗って来た『汎用戦闘機の入手経緯』について。何でも、アユウカスがポルヴァーティアの前指導者で現在も強大な権力と組織を保持している人物を籠絡して、個人的に手に入れた物らしい。
「とりあえず、ポルヴァーティアの最大勢力の長は味方に付けた」
アユウカスがそう言って他の国――ブルガーデン国やトレントリエッタ国の代表達を緊張させている。ガゼッタの優位性を仄めかせて悠介から動力車の譲渡支援を引き出そうとしたり、その悠介からガゼッタの優位性が限定的なモノであると反論を喰らって拗ねてみたりと、割とピリピリした空気ながら和やかな雰囲気を保っていた。
彼等は彼等で国関連の仕事が忙しそうだと見たコウは、独自の判断で敵味方の選別をして後で纏めて報告する事にした。
(朔耶も来るだろうし、今ここで自由に動けるのは、ボクだけみたいだからね)
そうと決まればさっそく行動開始だと、コウは自分の仕事に取り掛かった。
まずは出入り口を固める門番の兵士に声を掛ける。彼等はカルツィオ聖堂に住み込みで警備する兵士達で、その資金や人材は四大国から出ているようだ。
「おつかれさまー」
「ん? ああ、フォンクランクの一行に居た子か」
普段は警備兵の他、生活支援の使用人達を含めて三十人程度の少ない人数で回しているが、今回のような会談が行われる場合、各国から増員が派遣されて三倍近い規模の人数体制で運営される。
(この人はずっとここで仕事してる人みたいだ)
フォンクランクから派遣されている、カルツィオ聖堂が造られた当時からこの任務についているベテラン門番兵士を労ったコウは、『目印』として装飾魔術で作った花を贈った。
「これどうぞ」
「おお? ありがとな、坊主」
コウが差し出した手から、仄かに発光する白い花がふわりと浮かび上がり、兵士の甲冑の胸元にぺたりと張り付く。
門番の兵士は『変わった神技だなぁ』と感心しているようだ。
それから順に、廊下を巡回している兵士、会場の扉前に立つ兵士、会場内を警備している兵士と巡り、装飾魔術の花を贈って回る。ちなみに、受け取り拒否は不可である。
「これどうぞ」
「あ、いえ、自分は――」
遠慮しようとした兵士の胸に、遠慮なく張り付く魔力の花。
この若い兵士はガゼッタから派遣されている増員組で、本国では『白刃騎兵団』という精鋭部隊に所属する戦士のようだ。
カルツィオ聖堂の警備兵には、主にフォンクランクや、ガゼッタの出身者が多い。ブルガーデンとトレントリエッタから送られている人材は、兵士達の生活全般の支援を行う使用人達に多かった。
「これどうぞ」
「ああ……」
煩わしそうに一瞥だけくれてそっぽを向いた壮年の兵士は、胸にくっ付いた花を手で払い落とそうとするも感触が無い事を訝しみ、触れない事が分かると憮然とした表情で溜め息を吐いた。
そんな壮年警備兵の態度に気を悪くする風でも無く、怯んだ様子も見せず、コウは次の警備兵の下へと歩き去る。その内心では、掴んだ情報の整理と確認が行われていた。
(ふむふむ、さっきの人は"栄耀同盟"っていうグループの一員なのか~)
悠介達に報告する内容を纏めつつ、コウは警備兵達に『目印の花』を配り歩くのだった。
「これどうぞ」
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