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狭間世界編
第十話:役割分担
襲撃騒ぎの喧噪冷めやらぬ聖堂の会議室内。栄耀同盟工作員によるヘッドショットから何事も無かったかのように復帰したコウに、周囲から様々な感情が交じった視線が注がれる。
「あんでっと~じゃないけれど~」
「コウ君、何その歌」
朔耶にツッコまれたりしつつ闇神隊一行と合流したコウは、拘束されている栄耀同盟の工作員や、ガゼッタの覇権主義勢力過激派メンバーを観察していて違和感を覚えた。
(あれ? ひーふーみー……)
コウはカルツィオ聖堂にやって来て直ぐ、移動中の道すがら敵味方の選別を行っていたのだが、その時に特定した敵対者の数と、後から確認しつつ魔力の花を付与した人数が合わないのだ。
「やっぱり足りない」
ここにはまだ、居場所を特定出来ていない敵対勢力が存在している。コウはその旨を朔耶に伝えて要警戒を促した。
「聖堂のどこかに居るかもしれないって事よね?」
「たぶん」
「ふーむ……もしかしたら砲撃がまだ続いてるのも、潜伏組が手引きしてるのかもな」
悠介がカスタマイズメニューを操作しながら話に加わる。今もカルツィオ聖堂に攻撃が続いていて、外壁が削れる度に修復しているらしい。
聖堂の壁が砲撃で破られる事は無いが、このままではこちらも身動きが取れないと、次の一手を打ちあぐねている悠介に、朔耶が素早く方針を決める。
「とりあえず建物内の安全が確保出来たら砲撃元にはあたしが飛ぶわ」
反撃役は朔耶が受け持ち、護りは悠介が固めている。それならばと、コウは自分の役割を果たすべく行動を開始した。
朔耶と悠介が、アユウカスと今後の動きについて話し始めたので、その間に会議室を後にする。
(まずは聖堂内を探索して工作員を全部見つけよう)
カルツィオ聖堂内の構造は、悠介の記憶情報から全ての部屋の位置を把握している。悠介に封鎖されたエリア内を魔導輪で疾走しつつ、片っ端から調べて回った。
「いないなぁ」
建物内を隈なく探索したが、怪しい人影も思念も見つからない。そのまま屋上の展望テラスまでやって来たコウは、下の方から響く砲撃の着弾した爆発音を聞いてそちらを見やる。
一定の間隔で放たれる砲撃。浅い放物線を描いて飛んで来る光弾の発射元に目を凝らして視点を寄せると、湖の畔に近い森の中に砲台らしき物体。その周りに数人の若者や壮年男性の姿があった。
そしてふと、彼等と聖堂の間に広がる草原に視線を移した時、そこに三人ほど連なって走る人影を見つけた。
その三人の胸元に装飾魔術で作った光る魔力の花を確認出来た事から、聖堂より脱出した者達である事が分かった。花の色が変わっていない様子を見るに、敵味方判別の捕り物騒ぎの前に聖堂から出たと思われる。
(みつけたっ! けど、もうあんなところかぁ)
コウが『追いかけようかどうしようか』と考えていると、聖堂内から無数の魔力の糸が放射状に噴き出した。朔耶が索敵などで使っている『意識の糸』だ。
糸はやがて一本に集束すると、コウの身体に繋がった。その糸を通じて、コウは朔耶と『交感』を繋ぐ。
――コウ君、そこで何してるの?――
『工作員を探してたんだけど、逃げられちゃったよ』
――見つけたの?――
『うん、三人くらい森の中に入って行ったよ』
砲撃しているグループと合流するのかは分からないが、方角は同じだと伝える。
――そっか――
『追いかける?』
――うーん、いいわ。お疲れ様。ちょっと相談したい事があるから、一度戻って来て?――
『りょーかーい』
朔耶と交感を終えたコウは、砲撃を続けている森の中のグループを一瞥すると、皆が待つ会議室に戻るべく展望テラスを後にした。
「この二人なんだけど」
会議室に戻ったコウは、拘束されている捕虜達の中でも、偽大使らしいという二人からの情報の読み取りを依頼された。
縄で拘束され、胡坐で床に座っている二人の前に立ったコウは、彼等から滲み出る思考を観察して読み取る。
「じぃ~」
「っ……!」
心を読むと公言している相手から「じぃーっ」と見詰められた二人は、居心地悪そうに顔を伏せている。
『――こえぇ……不死身とかマジかよ、バケモンじゃねーか……――』
『――栄光ある特爆士官だった私が、このような下賤な汚れ仕事をしなくてはならんとは――』
(ふむふむ、この人達は元はエリート士官だったのかー)
とりあえず、嘆き愚痴から拾える個人情報とは別に、工作員としての今日の行動履歴を洗い出す。カルツィオの各国代表を始め、ポルヴァーティアの正式な大使達も見守る中、コウの読心能力によって偽大使の行動が暴き出された。
この二人が入れ替わったのは、今日正式な大使としてやって来た中に交じっていた、栄耀同盟の構成員であり、魔導兵器の技術者でもある者達だったようだ。
入れ替わったタイミングは大使達が駐車場から会議室に案内されて来る途中。目的は、件の二人を確実にガゼッタ国内に潜伏中の仲間と合流させる為らしい。
(一番うしろをついて行けばよかったかなぁ)
あの時コウは、大使達全員に魔力の花を付与して目印を付けたので、それで満足してアユウカスやヒヴォディル達に交じりながら集団の先頭を歩いていたのだ。
栄耀同盟の工作員が紛れ込んでいる事は分かっていたのだから、もっと注意して視ていれば防げた偽装工作だったと、こっそり反省する。
コウが読み取った内容を皆に告げると、アユウカスが息を吐きながら言った。
「なんじゃ、それなら小細工なぞせずとも、ワシがその二人をガゼッタに連れ帰っておったかもしれんという事か」
アユウカスは率先して魔導技術に詳しい者の受け入れに動いていたのだから、暗殺活動や砲撃騒ぎなど起こさず、普通に大使の受け入れイベントを終わらせていれば、もっと安全確実にガゼッタに潜入出来ただろうにと、彼等の策に溺れたような『裏目』っぷりに肩を竦めている。
もっとも、コウや朔耶がここに居る時点で、彼等の計画は詰んでいたのだが。
「ちなみに、他の大使さん達の中で魔導技術に詳しい人は……」
悠介が大使達に訊ねると、彼等の中にも技術者とまではいかずとも、多少の知識や技術を有している人が居た。
『――サーシャ! 何としてもうちに連れて帰るわよっ!――』
『――分かってる、姉さん。手段は選ばない――』
ブルガーデンの代表である女官姉妹から、その人達に向けられる視線が熱くなったようだ。
さておき、これで聖堂内の安全はひとまず確保出来たという事で、朔耶が砲撃グループを叩きに出る。
「とりあえず、砲撃を止めて来ましょうかね」
「ボクも行くよ」
あの大砲『対空光撃連弓・改』の回収も必要そうだからと、コウは同行を申し出た。悠介がカスタマイズメニューを操作すると、天井の一部が光って朔耶用の直通路が開かれる。
(やっぱりよくわからないなぁ)
カスタマイズ・クリエートが行使される時の魔力の流れや働きは、相変わらず大雑把にしか視認出来ず、改めて構造を解析しての模倣は難しいと感じるコウ。
光の粒が舞い消える天井を見上げながらそんな事を考えていたコウを、朔耶が後ろから抱き上げて漆黒の翼を展開する。
「じゃあちょっと行って来るわ」
「よろしくお願いします」
「わーい」
直通路からカルツィオ聖堂の上空へと飛び出すコウと朔耶。見下ろせば左手には大きな湖、右手には鬱蒼と広がる森林。
そして聖堂周辺の切り開かれた平原が続く前方の森の中には、光弾を撃ち出している敵性集団。
「行くわよコウ君」
「おっけー」
朔耶に抱えられたコウは軽く返答すると、目標集団に視線を向けた。
作戦としては、目標集団の上空で投下してもらい、少年型召喚獣の解除&召喚によって高所からの着地(落下)衝撃をキャンセル。
砲台の近くに下りたコウが『対空光撃連弓・改』を回収後、コウから情報を受けた朔耶が地上の敵勢力を制圧する、という手順で考えていた。
「あそこね、五人――七人くらいかしら」
「こっちに気付いたね」
砲台の周りにいる白髪で甲冑姿の若者達が剣を抜き、彼等に比べて一般人っぽい風格の壮年男性集団がボウガンのような射撃武器らしい道具をこちらに向けている。
コウは彼等の頭上へ降下するべく、朔耶にタイミングを告げようとしたが――
「じゃあ制圧するから、大砲の回収はお願いね」
朔耶はそう言って急降下しつつ、漆黒の翼から稲妻の雨を降らせた。ズガガガガッという轟音に瞬く閃光。一瞬で砲撃グループを制圧した朔耶は、コウを抱えたまま砲台の隣に着地した。
「作戦もへったくれもなかった」
「うん? なあに?」
よく考えてみれば、朔耶に索敵サポートは必要なかったなぁと思い直すコウ。死屍累々な現場に降り立ったコウは、さっそく『対空光撃連弓・改』を異次元倉庫に回収したのだった。
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