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よろずの冒険者編
第三十一話:暁光のアースワールド
コウが狭間世界から帰って来て二日目。
フラキウル大陸に君臨する魔導文明大国グランダール。この国の魔導技術を担う者達の中でも最も国に貢献し、国王から特別な地位と待遇を与えられている天才魔導技師アンダギー博士。
コウの『少年型召喚獣』や『複合体』の制作主であり、グランダールが誇る魔導船など魔導兵器類を始め、様々な魔導製品を生み出した発明家でもある。
そんな博士の住居兼研究所内では、王宮区画内の研究施設から手伝いに呼ばれた選りすぐりの魔導技士達と共に、狭間世界製の魔導動力装置の操作と分析が夜通し行われていた。
レイオス王子が持ち帰る古代魔導文明の遺産は大量で、博士の研究所だけではとても捌ききれない。当然ながら、古代文明の遺産を研究したい魔導技士や魔術士達は他にも大勢居る。
大きな物から小さい物まで、研究に必要な環境を整える為、古代の魔導製品を稼働させられる高出力魔導器の開発を進めていたが、成果は芳しくなかった。
今回、コウが持ち込んだ魔導動力装置を研究する事で、開発の突破口にするのだ。
「あと、機動甲冑も預けていくね」
「おおう、こいつぁ……人が乗って動かす形式のゴーレムか」
複合体の検査台の隣に機動甲冑二機を並べて置くと、アンダギー博士は直ぐに機体の概要を見抜いた。
博士も着用者の動きをサポートする強化外骨格のような魔導甲冑は作った事があるようだが、量産化して戦場に送れるほどの費用対効果は得られないので没になっている。
「何日かしたらまた来るよ」
「なんじゃ、研究実験には参加せんのか?」
複合体と機動甲冑を預けて何処かへ出かけようとしているコウに、博士は複合体の飛行安定化実験など、操り手が居なければ効率よく調整できないであろう機能について言及する。
「その辺りの調整は戻ってからでいいよ。多分、あと三日くらいでレイオス王子達が帰還するから、先に高出力魔導器の開発と、複合体はメンテナンスを優先して?」
狭間世界では機動甲冑との戦いで結構無理な動きをさせたので、何処かに不具合が出ているかもしれない。
「ふむ、そうするかの。ああそうじゃ、ついでに武装も改良しておきたいから置いて行ってくれ」
「ここでいい?」
複合体で使う事を前提に制作された専用武器、『魔導槌』や『内燃魔導兵器』を異次元倉庫から作業台の上に取り出した。
魔導槌は先端の自己修復機能が付いているとはいえ、加速用の内燃魔導器を埋め込んである部分や柄には無数の傷や汚れも目立ち、かなり使い込まれている感を醸し出している。
内燃魔導兵器は故障も無く、様々な場面で活躍してくれたが、大量の火炎玉を吐き出し続ける弾幕のインパクトはあるものの、火力不足は否めない。
鎮圧用非殺傷兵器としては使えるので重宝するが、ここらで強力な遠距離武器も欲しいところ。コウは博士にそういう方向で要望を出しておいた。
「いよぉーし任せておけ、派手なのを作ってやるわ! クワッカカカカッ」
魔力供給問題に解決の糸口ができ、研究開発が一気に進む目途が立って機嫌の良い博士は、そう言って高笑いをしたのだった。
アンダギー博士に複合体と専用魔導兵器に機動甲冑を預けて研究所を出たコウは、少年型を解除して精神体になると、異次元倉庫を開いた。
異次元倉庫内に現れた『京矢との繋がりの線』を辿り、地球世界に帰郷している京矢の傍へと世界を渡る。
『――やほー、キョウヤ』
――お、来たか――
コウがグランダールに到着した翌日には、朔耶の迎えで地球世界に戻っていた京矢は現在、次の異世界行きで持って行く電化製品などの買い物に出掛けていた。
――ちょっと人気の無いところに移るからまってくれ――
『りょーかーい』
今はデパートの中にいるので、周りに誰も居ない場所に移動するという京矢に従い、世界の壁を超える手前で待機するコウ。
やがて人気の無い休憩所を見つけた京矢は、周囲を確認しつつ合図を出す。
――いいぞ――
『おっけい』
世界を渡り切り、地球世界に抜け出たコウは、さっそく少年型を召喚して憑依した。
「とうちゃく」
「ん、その服はちょっと目立つんじゃないか?」
すちゃっと京矢の正面に降り立つコウだったが、服は少年型のデフォルト装備のまま。向こうの世界の貴族服風なデザインなので、地球世界の町ではまるで演劇の衣装だ。
「うっかりしてた」
コウはその場で早着替えをする。少年型召喚獣の一部であるデフォルト服の上から地球世界の子供服を着て、デフォルト服を消せばOKなので、脱ぐ必要は無い。
「便利だな、それ」
「召喚石に登録してもらえば、もっとべんりなんだけどね」
今は博士達も大忙しなので、召喚石に新しい服の登録を頼むのは憚られたのだ。
買い物を終えた京矢の荷物を異次元倉庫に預かり、一緒に御国杜家へと帰る。京矢のママさんがコウに会えるのを楽しみにしていると聞いたので、挨拶をしてから出掛ける事にした。
「またあの彩辻さんっていうフリージャーナリストのところに行くのか?」
「うん。美鈴は仕事であちこち飛びまわってるからね」
こちらの事情を知っていて友好的で、情報操作にも協力してくれたフットワークの軽い一般人。日本中を旅するのに丁度いいパートナーだという。
「こっちであんま無茶してくれるなよ?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
前回、京矢達の帰郷に便乗して地球世界にやって来たコウは、身内の輪に加えた彩辻美鈴の仕事に同行して、バスツアーの小旅行に参加した。
そこで不可抗力とは言え、銀行強盗のバスジャック犯相手に大立ち回りをやらかしている。
「コウの大丈夫は信用ならんからなぁ……」
「えーそんな事ないよ~」
軽く溜め息など吐きながら帰宅の途につく京矢と並び歩くコウは、不本意な評価だと抗議するのだった。
「ママさんただいま~」
「あら~~おかえりぃコウ君~」
御国杜家に着くと、京矢の母親が玄関で出迎えてくれる。帰宅前に予め連絡を入れておいたので、突然の訪問になって驚かせる事は無かった。
京矢は、母親の猫なで声に微妙な表情を浮かべている。コウが異次元倉庫から取り出す荷物を回収しながら、今後の予定を話し合う。
「そういや、今回は何時までこっちにいるつもりなんだ?」
「複合体のメンテナンスが終わるころまでは、こっちで観光を楽しむつもりだよ」
ただ、どこまでも町が続いている地球世界で目的地も決めない気ままな旅をすると、どこまで行っても町から出た実感が沸かない状態になりそうなので、やはり目的をもって旅がしたい。
「でんわ借りるねー」
「おーう」
コウは京矢の携帯から美鈴に電話を掛けた。三回くらいのコールで応答があった。
『はい、私です』
「美鈴ー」
『……え? コウ君!?』
「ボクだよー」
美鈴は京矢が連絡して来たものと思っていたらしく、コウの声を聞いて驚いている。
『うわー久しぶりっ、元気にしてた?』
「美鈴も元気そうだね」
互いに近況を語り合う。電話越しでも相手が明確に意識を向けていた場合は、距離を無視して対象の思念を読み取れる。コウは美鈴から読み取った情報で、彼女の周囲の状況を把握した。
「また取材旅行の仕事?」
『そうなのよ、今回はかなり田舎の方に出掛ける事になりそうなの』
現在、美鈴は馴染みの雑誌編集部の担当さんからもらった仕事の準備に、必要な物の買い出しでデパートを訪れているようだ。
「ボクもついて行っていい?」
『ほんと!? コウ君が来てくれるなら助かるわっ』
前回の仕事では事件に巻き込まれるというトラブルもあったものの、コウのサポート上手な有能さを身に染みるほど体験して実感している美鈴は、諸手で歓迎の意を示した。
美鈴は、今もアパートで一人暮らしをしているので、コウが部屋まで迎えに行く事で話がついた。いつ合流するかなどを軽く打ち合わせて電話を切る。
「話はついた――みたいだな」
「うん。美鈴の出発は四日後だけど、ボクは早めに合流するよ」
コウとの記憶共有で美鈴との会話内容を把握した京矢は、取材旅行の行き先について話しながら、次の異世界行きで持って行く物をチェックしつつ鞄に詰めていく。コウもそれを手伝った。
そこでふと、京矢は荷物の中にエッリアから持って帰って来た私物を見つけて手に取る。コウにもらった魔導拳銃を眺めながら訊ねた。
「そういやこれって、博士にも渡したのか?」
「ううん。それはキョウヤとスィルにしか渡してないよ」
機動甲冑や小型魔導動力装置だけでも、新型の高出力魔導器の開発が進んでグランダールの魔導技術全般が底上げされるであろう事が予想される。
当然、既存の兵器類もさらに高性能化する事は必至。
グランダールの魔導小銃に対抗する為に、ナッハトームでは射程距離で優位を取ろうと狙撃銃の開発を進めている最中だ。
現時点で一般兵の携行武器にまで大きな差をつけると、軍事バランスにも悪影響が出兼ねない。
「――って思ったんだ」
「ふむ……確かにな。ある程度力が拮抗してる方が安定するかもな」
流石にコウや京矢のような個人が、国家間の軍事バランスの事まで考えるのは杞憂に過ぎるのかもしれない。
しかし、京矢が傍で仕えるスィルアッカ皇女はナッハトーム帝国の全軍を指揮する立場にあるし、コウと京矢も懇意にしているアンダギー博士はグランダール王国の魔導兵器開発に携わっている。
コウと京矢の判断一つで、両国に大きな影響を及ぼさないとは言い切れない部分もあった。
日が暮れ始める頃。御国杜家の夕食の席にて、京矢と異世界のお土産話をしながら一家団欒に交ざっているコウは、この後は美鈴の仕事について行く事を京矢の両親に伝えておいた。
ママさんはコウにもしばらく家に滞在して欲しそうだったが、コウは今夜にでも美鈴のアパートに飛ぶつもりでいた。
「もっとゆっくりして行けばいいのに~」
「ごめんね。冒険がボクをまってるんだ」
地球世界の現代にはあまり似つかわしくない言葉ながら、小さな男の子の言動としては微笑ましく、ママさんの気持ちをキュンキュンさせている。
コウを通じてそれを読み取っている京矢は、またしても微妙な表情を浮かべるのだった。
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