95 / 148
しょうかんの章
第九十四話:魔王の後継者
しおりを挟む魔族国ヒルキエラに無事潜入し、ジッテ家当主カラセオスと面会を果たした勇者部隊。
慈はカラセオスに、ヴァイルガリン討伐後の魔王をやって貰えるよう提案したが、カラセオスはそれを辞退した。
「理由を聞いても?」
「私よりも相応しい後継者が居るからだ」
カラセオスは、ヴァイルガリンの後釜ではなく、あくまで前魔王の後継者としてその者の存在を語った。
その者とは、カラセオスが『睡魔の刻』に入る前に、ルナタスで一度会った事があるという。
人間とのハーフで、弱冠四歳にして当時の魔王に匹敵する魔力を潜在的に秘めているのが分かり、戦慄したそうだ。
「そりゃすごいな」
そんな人物が居るなら、確かに次期魔王に推したい気持ちも分かると慈は素直に驚く。
異種族とのハーフには、偶にそういう特異な力を持つ者が生まれる。カラセオスは当時の魔王にも報告、相談して将来王宮に召し抱えようと考えていたらしい。
(異種族の血が混ざってリミッターでも外れるのかね……)
その後、『睡魔の刻』で眠っている間にヴァイルガリンの簒奪が起きた。
カラセオスは中立を謳いながら情報を集めて、件の子供は人間の国に逃がされているところまでは掴んでいた。
「無事なら、君の名において保護して欲しい。父親はルナタスに住む魔族の穏健派組織に所属していた事は分かっている」
「ん? なんか既視感」
慈の言葉に、アンリウネ達六神官も「おや?」という反応を示す。
カラセオスは、そんな慈達の様子に怪訝な表情を浮かべながらも、手掛かりの一つである人間の協力者の名を上げる。
「イルドという女性神官が、人間領の深くまで落ち延びるのに協力したと――」
「イルド院長! って事は、やっぱテューマちゃんか」
慈のその言葉に、今度はカラセオスが驚いた。
「知っているのかね?」
「つい最近、父親のラダナサとも会ったな」
慈は、イルド院長やサラ親子と出会ったベセスホードの慰問巡行と、パルマム近郊で『贄』を仕込まれていた難民キャンプの事などを説明する。
「ふーむ……それは何とも、数奇な巡り会わせと言おうか」
「テューマちゃんはまだ半年は睡魔の刻らしいけど、俺の名と神殿の権威も使って家族丸ごと保護する方向で。今はパルマムも安定してるだろうし、ラダナサも合流させようかな」
そういう事情ならばと、カラセオスはテューマを将来の魔王に推す事を条件に、それまでの繋ぎとして環境づくりをする方針で、ヒルキエラの暫定統治者を担う役割を受け入れた。
「それにしても、良くない噂として聞こえてはいたが、まさかあの外法に手を出していたとは」
そして話題はテューマの父親であるラダナサや、彼の仲間達に仕込まれていた贄の呪印について、戦略儀式魔法が実際に使用された件に及んだ。
「あれって、やっぱり魔族国でも禁呪扱い?」
「当然だ。国家間での取り決めだったのだからな。そもそもアレを扱える技術を持っているのは、実質我が魔族国の術士だけだと思うが」
過去に使用された例でも、人間国同士の戦いの場ではあったが、儀式を取り仕切っていたのは外部の協力者である魔族の魔術士集団だったらしい。
「こうなると、ヒルキエラ国内に『贄』の存在を警戒せねばならんが……」
「いや、それは大丈夫。居ても呪印そのものを消し飛ばすから問題無いよ」
ここは位置も悪くない。ジッテ家の『地区』は魔王城の斜め下で、崖の麓という中々の立地条件。下から上に向けて、逃げ場のない空間を勇者の刃で容易に満たす事ができる。
物理的な罠も含めて、ヴァイルガリンに辿り着くまでに配置されているあらゆる脅威は、全て事前に排除可能である。
慈から勇者の刃の仕様を詳しく聞かされたカラセオスは、しばし絶句した後、唸るように呟いた。
「それはもう、存在自体が禁呪の域だな……」
勇者伝説は幾つか聞いた事はあるが、そこまで荒唐無稽が現実化した存在は初めてだと、慈に畏怖を覚えているようだ。
下手をすれば、この世から魔族という存在が根こそぎ消されていたかもしれない事に思い至ったらしい。
「まあ、俺の場合はちょっと特殊らしいけどね」
慈はそう言って肩を竦めて見せた。別の未来の廃都で、アンリウネ婆さんからチラッとだけ聞いた事がある。本来ならここまで強力な勇者になる筈では無かったという話。
詳しく掘り下げる気は無いので、話題をヴァイルガリン討伐とヒルキエラの統治に戻す。
「それじゃあ、ヴァイルガリンを討つ段取りから話し合おうか」
「うむ。やるならあまり時間を置かない方が良いだろう」
各地から撤退して来る魔族軍を始め、首都に残っている魔王の戦力は、ヒルキエラ解放同盟に意識が向いている。今のタイミングでなら、完全な奇襲を仕掛けられるだろう。
「じゃあ改めて紹介する。俺の部隊で色々取り仕切ってくれてる神官の皆と、元クレアデスの騎士団長に傭兵隊長だ」
「よ、よろしくお願いします」
ここでようやく、慈に同行している六神官やシスティーナにパークスが、カラセオスとの話の輪に加われたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる