遅れた救世主【勇者版】

ヘロー天気

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えんちょうの章

第百八話:森中の邂逅

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 旧オーヴィス領の裏街道を外れて、森の中を進む慈とルイニエナ。
 当初、カモフラージュを兼ねて国境近くの街カルモアを目指していたのだが、ルイニエナとの会話の中で本来の目的である『正当な魔王の後継者』の生存が確認出来た。

 五十年前の時間軸で、オーヴィスの南にある辺境の街ベセスホードの孤児院で地下に匿われていた母親サラと、その娘テューマ。
 魔族とのハーフである娘テューマは、全ての魔族が背負う種族特性『睡魔の刻』で眠りに就いていた。
 この時代のテューマは、人間の復興を目指す独立解放軍でリーダーをやっているという。

 間もなく辿り着いた村で独立解放軍の足取りを調べて、手掛かりを得た慈達は、村を出発してから途中で街道を逸れて森に入った。

 独立解放軍はベセスホードの街から少し離れた開拓跡地に本拠を構えているらしい。

「それにしても移動に時間が掛かり過ぎるな。何か楽に歩ける魔法とかないか?」
「そんな都合の良いモノはない」

「どっかに地竜落ちてないかな……」
「そんな野良犬みたいに……」

 黙々と歩き続ける事に飽きて来た慈が適当な事を言うと、ルイニエナも退屈しているのか相槌のように返して来る。

「だいたいあれ地竜はあまり人に懐かないので調教が難しく、軍でも導入しているのは旅団規模の大所帯くらいから――む?」

 軍用地竜について解説していたルイニエナが、ふと言葉を止めて森の奥に視線を向ける。

「どうした?」
「この先で、誰か戦闘をしている」

「こんな森の中で? 狩りか何かか?」
「獣が相手ではないな。剣戟と、防具のぶつかり合う音がしている」

 ルイニエナの見立てでは、気配からして魔族軍関係者ではないとの事。数も多くない。

「せいぜい十人前後といったところか」
「様子を見に行こう」

 魔族軍関係者ではない武装した集団となると、人間の傭兵や賊の類が挙げられるが、慈達が探している独立解放軍のようなレジスタンス集団という事もあり得る。

(問題は誰が何と戦ってるかだな)

 現場に近付くにつれ、戦闘の音は慈にも確認出来るほど大きくなっていく。ルイニエナが気付いた場所からはかなりの距離があった。
 彼女の有能さを垣間見た気がした慈であった。

「意外な、とか言ったら失礼か」
「うん? なんだ?」

 謎の呟きに小首を傾げるルイニエナに、慈は愛想笑いを返しておいた。


 やがて戦闘現場に到着。野営の為に伐採された感じの、少し開けた空間で、複数人の武装した者達が対峙していた。

 この一帯だけ血の臭いが漂い、地面に三人ほど倒れている。いずれも傷は浅く、意識もしっかりしている。命に別状はないようだ。

 片や武装と制服が統一された軍隊のような集団。片や装備もまちまちで服装も不揃いな若者達。負傷者は三人とも若者側の者らしい。

 剣を向け合う二組の集団は、一戦交えて睨み合いの状態に入っていた。そんな緊迫感漂う空間に、似付かわしくない呑気な声が響く。

「お、ちょうど膠着状態になってるぞ」
「お前は……もう少し緊張感をだな――」

 突然現れた男女の二人組みに、双方が警戒する。帯剣している女性と、腰に杖を差した少年。どちらも軽装の旅装束で、戦いを生業にしているようには見えない。

 睨み合っている武装集団は慈達に誰何する余裕はないようで、注視するに止まっている。そんな彼等をじっくり観察したルイニエナが言った。

「ふむ。制服の兵士は正統人国連合せいとうひとこくれんごうだな。対峙しているのは恐らく独立解放軍だ」
「え、人類のレジスタンス軍って連合とか組めるほどあるのか?」

「そう言えば、その辺りを詳しく話していなかったか。人間の武装勢力はいくつか確認されている」

 ルイニエナの説明によると、主に大国の残党によって組織されている集団が多いという。貴族や騎士団が中心になっているところや、元軍人が傭兵を募って結成された戦闘集団など。
 いずれも小規模から中規模の勢力で、脅威度は高くないと判定されている。

(アンリウネ婆さん達が属してたのは多分そっち残党組だな)

 それら有象無象の勢力の中でも、独立解放軍は魔族側軍部から一目置かれているらしい。
 魔族とのハーフがリーダーとして率いているからという、身内贔屓的な評価も多少入っているかもしれないとの事だった。

「なるほどな。んで、何で人間のレジスタンス組織同士がこんな所でやり合ってるんだ?」

 人間の武装勢力に関する解説に納得した慈は、今も武器を構えて睨み合っている集団双方に声を掛けた。
 それで気勢が削がれたのか、彼等はどちらともなく後退って距離を取ると、一先ず武器を下ろす。

「……君達は、何者だ」

 装備の不揃いな側、独立解放軍と思しき若者が、訝しむ表情を向けながら問うてくる。
 街道を外れたこんな森の中、いきなり現れて人間の武装勢力に関する情報を提示した女性と、それを聞いて呑気に声を掛けて来た少年。

 端的に考えて、意味が分からない。人国連合の兵士達も様子見に入っている。そんな彼等に、慈は何もつくろう事なく言った。

「俺は勇者シゲル。ちょっと前に召喚されて来た。こっちは魔族の協力者でルイニエナだ」

「!?」
「なん……だと?」

 独立解放軍、正統人国連合の両者らが驚愕の表情で固まる中、ルイニエナは慈に呆れたような視線を向けて小さく溜め息など吐いていた。




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