遅れた救世主【勇者版】

ヘロー天気

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えんちょうの章

第百十八話:フラグ回収

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 ベセスホード要塞でタルモナーハ族長と面談し、その後の作戦会議で独立解放軍の活動方針を定めたテューマ達は、一路拠点村に戻って出撃に備えた。

 既にスヴェンの指示のもと、部隊編成から各種物資の手配に至るまで準備は済まされており、テューマ達はそれら人員や積み荷の内訳について説明を受けている。

 先日の演説による重大発表の影響か、此度の大遠征部隊への参加希望者は予想より多かったとか。

「で、俺達は例によって待機中と」
「まあ、役割も決まっているしな」

 慈とルイニエナは客人枠なので、独立解放軍大遠征部隊の中心に在りながらも基本的に同行者として扱われる。
 攻撃担当の慈に治癒担当のルイニエナ。部隊への指揮権は無いが、部隊からの指示にも任意で従うか拒否するか決めて良い事になっていた。

「問題は馬車での移動ってのがなー。カルモアまで何日掛かるんだ」
「部隊の規模にもよるな。ここの馬は軍用にも使える軽種のようだし――」

 作戦の決行日から考えて、凡そ十日前後ではないかとルイニエナは推測している。

「十日か……はぁ~ヴァラヌス生き残ってないかなぁ。地竜の寿命ってどのくらいなんだ?」
「道中でも度々言っていたが、随分と地竜に拘るのだな。大型の地竜は大体百五十年は生きるが、もしお前の知っている地竜を見つけたとして、どうやって手懐ける気だ?」

 慈の過去の時間軸での活動について話す機会の多いルイニエナは、勇者部隊と行動を共にした地竜ヴァラヌスの話も何度か聞いている。
 話に出て来る乗り心地が改善された専用竜鞍の性能や、地竜の走破性には興味を抱いていた。

 が、ルイニエナの知る知識では、地竜を使役するには産まれたての頃から育てるくらいしなければ中々懐かないと聞いている。

「森の中で会った時はこっちに服従する感じだったけどな。勇者の刃で何とかなると思うけど」
「物騒な力なのにやたら汎用性が高いな、お前の刃は」

 そう言って肩を竦めて見せるルイニエナに、慈は今も色々と工夫を重ねている事を明かす。

「この前の、人国連合の部隊とやり合った時に言ってた威力の調節とかな」
「利くようになったのか?」

「威力そのモノに変化は無いと思うけど、当たる箇所をもっと細かく指定出来る感じにはなった」

 慈はそう言って足元に転がっている石ころを適当に拾い上げると、手のひらに乗せて勇者の刃で包み込むように覆う。すると、石ころは跡形もなく消え去った。

「今までは、この石に当てるつもりで放つと問答無用でこうなってたけど――」

 説明しながらもう一つ手のひらに乗せて再び勇者の刃の光で覆う。すると、今度は石ころの中央に穴が空いた。
 また別の石ころでは、虫食いのように穴だらけにしてみたり、四角や三角の形にくり抜いたり。見た目の変化は無く重量が軽くなったかと思えば、実は内側に空洞を作っていたり等。

「――こんな風に、一部だけ消すような調整が利くようになったよ」
「……それはそれで恐ろしいな」

 結局は使い手の発想に帰結するのだが、狙った対象の身体の一部、例えば心臓などの重要な部分だけ消し去る等、部位破壊というか部位消去が可能になった。
 ますます暗殺向きに進化する勇者の刃なのであった。



 進軍の準備が全て整い、独立解放軍の大遠征部隊はカルモアの街に向けて出発する。
 大遠征部隊の全軍は約六百人で、拠点村の総人口の半数が兵士として参加していた。その内の百人程がテューマの指揮部隊となる。

 慈とルイニエナを加えたテューマ達の指揮部隊は、先行して最初の目標である旧オーヴィス領の国境に近い辺境の街カルモアに向かう。

 慈は、あまり大所帯だと行軍速度が酷い事になるのではないかと、かつてのクレアデス解放軍を例に懸念を抱いていたが、テューマ達は機動力の大切さを理解していた。

 ベセスホードから三十台の馬車が提供されており、それらを駆使しての行軍。指揮部隊に徒歩の兵士はおらず、全員が騎乗か馬車に乗っている。
 騎乗の兵士は偵察兵の役割も担い、更なる先行と索敵で道中の安全を図る。馬車に乗っている者とも適時交代を繰り返して周囲の警戒を切らさず、一定の行軍速度を維持していた。

 車列の中程の馬車に同乗している慈とルイニエナは、この調子であれば裏街道に入るまでは特に危険も無いだろうと、あまり気を張らずノンビリ会話を交わすなどして過ごす。

「そういや独立解放軍を探して向かう事になってたよな」
「そう言えばそんな欺瞞情報を撒いていたな」

 それが今は独立解放軍と共に件の街へ向かっていると、思わず二人で肩を竦めて笑い合う。
 廃都近くの森の中で独立解放軍の斥候部隊と、正統人国連合の奪還部隊との衝突に出くわさなければ、今日のような共闘に漕ぎ着けるには、もっと時間が掛かったかもしれない。

 そんな調子で行軍は進む。
 廃都の辺りまでは中央街道を使ったので初日は特に順調だったらしく、廃都近くの森まで二日足らずで辿り着く事が出来た。

「さあ、ここからが本番よ。皆、気合い入れ直して頼むわね!」
「「「おうっ」」」

 森に続く裏街道の入り口脇で野営に入っている指揮部隊の陣地に、テューマの鼓舞とそれに応える気勢が響く。

 現在の裏街道は人の往来が消えてから手入れもされておらず、酷く荒れ放題な上に元から大きく曲がりくねった道なので、カルモアまで通り抜けるのには相応の時間が掛かると思われた。

「なあ、ちょっといいか?」

 裏街道の過酷な道に備えて偵察班の人員割り振りや、警備態勢の見直しを話し合っているテューマと各部隊長達に声を掛けた慈は、明日からの行軍の仕方に提案を持ち掛けた。


 翌日。テューマ達指揮部隊の一行は昨日までの行軍速度を維持したまま、森に飲まれつつある裏街道を進んでいた。
 それは、通常なら有り得ない光景だったが、この部隊にはこの世の理から外れた存在勇者が居る。

 先頭車両に陣取った慈が光壁型勇者の刃を部隊の移動速度に合わせて撃ち放ち続ける事で、木々や岩のみならず、地形の起伏さえも削り取って平らに均す。
 平らにしたとはいえ、あまり街道部分から外れると地面が柔らか過ぎて車輪が埋まってしまうので、基本的に街道に沿うようなコースながら、森の中を殆ど直進するショートカット行軍になっていた。

「凄い。勇者あなたってこんな事も出来るの!?」
「ここまで融通が利くようになったのは最近だよ」

 崩落等の危険が無ければ、山をトンネル状に掘削してぶち抜く事も可能だ。
 発想とイメージさえあれば最初から出来ていたのかもしれないが、廃都で過ごした修業の期間は敵を屠る事に特化していたので、戦闘以外の使い方など考える余裕も無かった。
 やはり過去の時代での経験は大きい。


 裏街道に新たな道を敷きながら駆け抜ける独立解放軍の指揮部隊一行。
 途中で立ち寄る予定だった村落を幾つかスルーして、想定より三日も早くカルモアの街が見える地点まで到達した。

 ――それが、功を奏する事になる。

「なんですって!? 間違いないの?」
「はい……同志からの情報です」

 やや動揺と緊張を露にするテューマに、先程任務から戻ったばかりの斥候役は頷いて答える。

 カルモアを始め、主要な街には独立解放軍の諜報員が隠れ住んでおり、今回のように街を攻撃する等の大きな活動を起こす際、内側から連携して動いてもらう事になっている。
 昨夜、斥候役が指揮部隊到着の先触れを入れようと街へ潜入を試みていたところに、諜報員側から接触があって、緊急の報がもたらされた。

『現在、カルモアの街にはレーゼム隊が駐留している。交戦は危険。作戦の見直しを進言す』

 かつての征服戦争でクレアデス国の王都を短期間で制圧し、脱出した王族も全て捕縛した上でパルマムの前線基地化を成功させて、オーヴィス攻略に大きな貢献を果たしたレーゼム隊。
 魔族軍の中でも屈指の精鋭部隊が、昨日からカルモアに駐留しているという。

 テューマ達にとっては完全に想定外の事態。少なくとも、味方の戦力が揃う前に手を出してはいけない相手と認識していた。

「当初の予定通りに到着していたら、危なかった」

 ベセスホードのタルモナーハ族長からは、まだ声明は出されていない。
 作戦では、テューマ達がカルモアに到着するタイミングで世界に向けて『簒奪者ヴァイルガリンを討つべし』という、独立解放軍による決起声明が発せられる事になっている。

 予定よりもかなり早く到着したお陰で、こうしてまだ何も起きていないうちにレーゼム隊の駐留を知る事が出来た。
 もし、その存在に気付かず声明に合わせて街に奇襲を仕掛けていれば、大変な被害を出していたかもしれない。


 カルモアの街から少し距離を置いた裏街道脇の森の中。火も焚かず隠密で野営の陣を敷いている指揮部隊の司令部天幕の中では、テューマと各部隊長達が対応策を模索していた。

「レーゼム隊長は先の戦争の最大功労者として、今や将軍の地位を得ている」
「駐留している部隊は、一個大隊規模らしい」
「部隊の要注意人物リストには――精鋭小隊のイルーガとガイエスの名もあるぞ」
「あの最強コンビが来ているのか……厳しいな」

 深刻な表情で話し合っているテューマと各部隊長達を、慈とルイニエナは天幕の隅に陣取って観察しながらこそこそと密談を交わす。

「これ、もしかして俺達が原因か?」
「あー……」

 察したルイニエナ慈の共犯者が、そっと目を逸らした。



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