異界の魔術士

ヘロー天気

文字の大きさ
127 / 148
三界巡行編

第二十三章:一段落と朝帰り

しおりを挟む



 アユウカスを転移目標にして狭間世界に渡った朔耶が、カルツィオ大陸はガゼッタ国の首都パトルティアノーストに聳える中枢塔の最上階、空中庭園に降り立つと――

「では行くぞ」

 空中庭園に集まっていたらしき人達が、アユウカスの先導で下の階へと移動を始めていた。その中にはコウ少年や悠介と闇神隊の姿もある。

(スンちゃんや闇神隊の人達も連れて来てたんだ?)

 タイミング的に、全員の意識がアユウカスと階段に向いていた瞬間に現れた為か、朔耶の来訪に気付いた者は居ない。
 しれっと最後尾に付いて彼等の列に交ざった朔耶は、一緒に階段を下りて行く。狭い階段を下りきったところで、階段付近を護るガゼッタの兵士にぎょっとした目を向けられた。
 それで、コウ少年には気付かれたようだ。

「あれ、朔耶が交ざってる」
「え? うおっ、何時の間に」
「おおう、サクヤも来たか」

 コウの指摘に、悠介やアユウカスも振り返って少し驚いて見せた。

「やほー、みんなおはよう」

 昨夜は大変だったみたいだねーと労い、今どこへ移動しているのか訊ねると、昨夜の襲撃騒ぎで街の防衛に大きく貢献してくれたコウと悠介に、報奨を与えるべく宝物庫に向かっているらしい。

「朔耶はちらっと見に来てたよね?」
「あら、やっぱり気付いてたんだ?」

 複合体での戦闘中に視線を感じたというコウに、朔耶は肯定を返しつつ、やはり夢内異世界旅行中の自分を感知できるのかと改めて感嘆する。

「どこか行ってたの?」
「うん、ちょっとトレントリエッタで調整魔獣? の後継型みたいな、魔導獣兵っていうのを研究してる人達と会って来たわ」

「調整魔獣……魔導獣兵って、まさか栄耀同盟の?」
「ふむ、やはり向こうでも動いておったのか?」

 調整魔獣の名には悠介やアユウカスが反応し、闇神隊の皆も表情が険しくなる。
 朔耶は、昨夜の出来事と掴んだ情報を説明しつつ、件の研究員にフォンクランクへの亡命を勧めておいた事などを話した。
 ここへ来る前に、アルシアに会って栄耀同盟の本拠地に関する手掛かりも伝えてあると。

「いや、なんつーかもう、流石ですわ」

 一晩でよくそれだけ活動して成果を上げられるものだと、もはや呆れ気味に感心しきりな悠介達。フォンクランクに亡命を勧めた研究員については、直ぐに本国に連絡を入れておくそうな。

「まあ、考えておいてとは言って来たけど、本当に亡命するかどうかはまだ分かんないわよ?」
「話に聞く限りだと、色々行き詰まってるみたいだし、それなりの研究施設を用意して待遇を補償すれば大丈夫な気がする」

 朔耶は、明確な亡命の意思を確認したわけではない事を指摘したが、悠介は楽観的な意見を述べる。が、朔耶もあの研究員なら大丈夫そうな気はしていた。
 外出中だった仲間がどう判断するか次第であろう、と。

(後で様子を見に行こうかな)

 一応、この事に関してはベネフョストからトレントリエッタ側の立場として抗議をされたので、悠介が魔導技術開発を進める折りには、向こうにも便宜を図って欲しい旨を伝えておいた。

 やがて地下の宝物庫に辿り着いた。見張りの兵の後ろに太い鉄格子があり、そのまた奥に丈夫そうな扉がみえる。
 アユウカスが見張りの兵に、宝物庫の開放を命じた。
 鉄格子には開ける扉部分が見当たらないと思ったら、丸ごとスライドして壁の中に消えて行く。横開きになっていたようだ。
 奥の丈夫そうな扉は、アユウカスが懐から取り出した鍵を差し込んで開錠すると、これまた横に動かして開いた。見た目は両開きの扉なので違和感が酷い。
 朔耶は、何となく気になったので訊ねる。

「これって、横開きに何か意味があるんですか?」
「うむ、まあ昔の盗賊除けの知恵というか、引っ掛けみたいなもんじゃな」

 ここまで侵入した盗賊から宝を護る為のささやかな仕掛け。扉は押すか引いて開ける物、という固定観念を利用した心理的トラップなのだそうな。
 実は昔、アユウカスも引っ掛かった事があるらしい。旧ノスセンテス時代、ガゼッタの国力増強と維持費を賄うために、度々パトルティアノーストに侵入しては、お宝をくすねていたそうな。

「この宝物庫周辺の区画を丸ごと弄って組み込んだ仕掛けじゃからなぁ。こんな防犯装置嫌がらせを設けられるのは、ユースケかセラ……――当時の邪神くらいのもんじゃわ」

 アユウカスは、少し懐かしそうな表情を浮かべてカッカと笑うと、コウと悠介を中に誘った。
 朔耶は呼ばれていないので宝物庫前で待機しようとしていたが、アユウカスに手招きされたので扉を潜った。

 宝物庫の中は、展示室のように整えられた部屋になっていた。周囲の壁には腰位の高さの台座が張り出しており、その上に色々な物が並んでいる。
 剣や鎧のような物は殆どなく、陶器類や絵画のような調度品っぽい物もあまり見られない。
 あるのは良い感じに古ぼけた小箱とか、丸められた大きな絨毯、石の筒、小さいテーブルと椅子等は比較的分かりやすく、他は形状からして何に使うのか想像出来ない。

「何かよく分からないモノが並んでる……」
「ここにあるのは、旧ノスセンテス時代に集められた、歴代の邪神達の遺産じゃよ」

 当時の邪神達が愛用していた物や、作った物などが保管されているという。歴史的価値は非常に高い品物と言える。
 特殊な力が宿っているような品もあるが、特殊過ぎて実用性はほぼ皆無とされている代物が多いらしい。アユウカスはそれらを『使えない宝具』と呼んでいた。

「ユースケやコウのような特異な力を持つ者なら、ここの品もただの骨董品にはならんじゃろ」
「なるほど」

 どんな効果のある宝具なのか朔耶も興味があったので、悠介とコウがアユウカスから宝具の解説を受けている様子を聞きながら、しばし二人の報酬選びに付き合った。

 コウは魔力の甲虫が無限に出せる魔法の小瓶を得たようだ。悠介はかなり大型の浄化装置という水質を改善する機械を選んでいた。小型改良化からコピーで大量生産を考えているらしい。
 報酬を受け取った悠介達は、空中庭園からシフトムーブでフォンクランクに帰るそうだ。朔耶もそろそろ睡魔が限界なので、地球世界に帰還してお昼まで寝るつもりである。

「じゃあ、あたしもそろそろ帰るわね。お疲れ様~」
「あ、お疲れ様です」

 悠介と労い合いの挨拶を交わし、欠伸を咬み殺しながらコウにも声を掛けておく。

「コウ君はどうする?」
「ユースケおにーさんに拠点施設を見てもらいたいから、いっしょにフォンクランクに行くよ」
「ああ、そう言えばそうだったわね」

 コウが栄耀同盟から丸ごと強奪した基地施設を、悠介のカスタマイズで強化して何処ででも安定して使えるように整備してもらうという話だった。

「博士にわたす魔導動力装置もその時にコピーしてもらうよ。そろそろ沙耶華をフラキウル大陸に送る日だよね?」
「そうね。明後日辺り、沙耶華ちゃんの家から送るつもりよ」

 朔耶が答えると、コウは沙耶華を迎えに行く時にでも自分を地球世界に運んで欲しいと要請した。コウは、異次元倉庫内から自力で自分の半身でもある京矢の下へ世界を渡って移動できる。
 今回の戦いで活躍した複合体のメンテナンスも兼ねて、一度アンダギー博士の研究所に顔を出す予定なのだという。

「魔導動力装置はけっこう大きいから、ボクから博士にわたしておくよ」
「そう? それは助かるわ。じゃあ当日に迎えに行くわね?」
「おっけー」

 そんなわけで、コウは悠介達とフォンクランクに戻る事になった。明後日の朝にでも悠介邸まで迎えに行けばいいだろうと、朔耶は心のメモ帳に予定を記す。
 その悠介達はというと、この後は帰還前に訓練場に立ち寄り、以前カルツィオ聖堂で瓦礫の撤去作業に使っていた魔導マジカル重力グラビティ装置デバイスをシンハ王に披露するそうな。
 なんでも、武器として使う特別仕様があるらしい。見るからにワクワクしているシンハ王の様子に、朔耶は『男の子らしいなぁ』などと感想を覚えつつ、アユウカスに挨拶して地球世界の自宅庭へと帰還した。

「ふわわ……流石にもう今から研究員さんの様子見に行く気力は無いわ……」
アマリ ムリハセズ ユックリ ヤスムト ヨイ

 神社の精霊の労いに『そうする』と答えた朔耶は、朝の陽射しに照らされる庭で一つ欠伸をすると、自分の部屋のベッドを目指して歩き出した。

「おはようマイシスター! 朝帰りとは実にけしから――おふぅっ」

 障害を稲妻ラリアットで薙ぎ倒しながら。



しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。