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三界巡行編
第二十八章:決着とこれからの事
しおりを挟む降伏した栄耀同盟の構成員の拘束と、負傷者の治療が進められていく。
行動不能で床に転がっている敵機動甲冑を壁際に運ぶなどして、片付けを手伝っている複合体コウの元へ歩いていると、隊長機から引きずり出された指導者達が喚いている。
「これで勝ったと思うなよ!」
「魔導兵器技術の真髄は我らの手にあるのだ! 何度でも――」
とその時、施設全体が大きく揺れた。往生際も悪くがなり立てていた二人は、焦りと動揺を滲ませながら叫ぶ。
「この揺れは……まさかっ」
「彼奴め! 一人で逃げるつもりか!」
(奴?)
何の事だろうと思いつつ、コウに視線を向ける。
「ヴァヴォヴァ! "さくや!"」
コウから交感を求める意識の糸が伸びて来たので即座に繋いだ。交感を通じて、コウが指導者の二人から読み取った情報が伝えられる。
その内容は、栄耀同盟の指導者の中でも、創始者メンバーの最高司令官が最奥の総指令室に詰めており、先程の揺れは施設の非常用脱出装置が起動したものらしいとの事だった。
本拠地施設は今、緊急浮上している。栄耀同盟の元凶が脱出しようとしているのだ。
複合体コウは、見慣れたスライディングの姿勢で奥の通路へと滑走移動を始めた。朔耶も漆黒の翼を広げて後に続く。
『どこから逃げようとしてるか分かる?』
――一番奥の脱出部屋に、"特殊爆撃機"がおいてあるみたい――
ポルヴァーティアの『特殊爆撃機』には朔耶にも覚えがあった。かつての戦争で、カルツィオに侵攻して来る高高度爆撃機部隊を、機体に不調を起こす事で撃墜した事がある。
施設全体に響いていた緊急浮上装置の駆動音と水の流れる音が止み、照明の消えた天井から月明かりが射し込み始めた。どうやら海上に出たらしく、ドーム状の屋根が開かれたようだ。
奥の通路の突き当たりには、集会・演習所並みの広い空間があり、中央にヘリポートっぽい台座が見える。その上には、僅かに機体を浮かせている一機の飛行機械が見えた。
「あれが特殊爆撃機だわ! 前に見た事がある」
「ヴァヴァヴォウ! "おとそう!"」
朔耶の指摘に答えた複合体コウが、滑走状態から立ち上がると、そのままふわりと空中に飛び上がった。
「わおっ、コウ君その姿で飛べるようになってたんだ?」
悠介に色々調整してもらったらしい。以前、コウならその内自力で飛べるようになるかもしれないという話をした事があったが、少年型よりも先に複合体で飛べるようになるとは予想外だった。
風の魔術を駆使してバランスを取る姿は、レティレスティアの飛び方に似ている気がする。まだ少し不安定のようだ。
特殊爆撃機は、ゆっくり機体を旋回させながら高度を上げ始めている。
複合体コウが真っ直ぐ突っ込んで行くが、無数の光弾が飛んで来て複合体の甲冑のような身体にバシバシ当たった。
「ヴァー」
その衝撃でバランスを崩したらしく、クルクル回り始めた。そんな複合体コウの脇をスルリと躱して前に出た朔耶は、魔法障壁で自身とコウを護りながら特殊爆撃機の正面に陣取る。
魔法障壁が光弾を弾いて、無数の波紋を浮かべている。
『これ、前みたいに中の機械に休んでもらって落とせるよね?』
ウム ホバクヲ カンガエルナラ ナカノ ヒトニモ アテルト ヨイ
精霊の囁きで機体を休ませるだけでなく、搭乗者にも電撃を入れておけば良いという神社の精霊のアドヴァイスに従い、朔耶は意識の糸を伸ばそうとした。
そこへ、特殊爆撃機が突っ込んで来た。魔法障壁が難なく受け止めたが、爆撃機によるまさかの体当たり攻撃。相手のなりふり構わぬ行動に、朔耶は少しだけ応える事にした。
機体を休ませる為のものと、中の人にピンポイント電撃を浴びせる為の意識の糸を伸ばしつつ、右手に魔力を集中させる。
青白く発光する稲妻の軌跡を引きながら、朔耶は正面の特殊爆撃機にビンタを叩き込んだ。
「えい、いなずまビンタ!」
あまり気合いの入っていない掛け声とは裏腹に、パシィンという乾いた音を響かせて閃光が瞬き、煙を吐いた特殊爆撃機は墜落し始めた。
このまま落とすと、中の人もただでは済まないし、下に並んでいる他の機体も巻き込んで大参事は免れない。
「コウ君、鹵獲お願い」
「ヴァッヴァー "オッケー"」
複合体コウが特殊爆撃機の後部を掴み、朔耶も風の加護で重量軽減を発現させながらゆっくり降下していく。丁度、有力組織連合の部隊も下に集まって来ていた。
機体を下ろすと、カナン達が乗り込んで栄耀同盟の指導者である創始者メンバーのトップを捕縛した。本拠地施設も制圧したので、栄耀同盟に係わる全ての問題を抑える事ができる。
朔耶は、これでようやく一段落できたと一息吐いた。隣を見やると、少年型に戻っているコウが、開かれた天井から星の瞬く夜空を見上げて呟く。
「おわったね」
朔耶も一緒に夜空を見上げた。もう直ぐ夜明けだ。
「そうね、コウ君もお疲れ様」
「おつかれ~」
労いの言葉を掛けると、いつもの軽い調子で返される。終始、緊張感が無いのはお互い様であった。コウは不死の存在として。朔耶は精霊に護られる重なる者として。
「この後はどうするの?」
「そうねぇ、ここはもう組織連合の人達だけで大丈夫そうだし、あたしは引き揚げようと思うわ」
ポルヴァーティア最大の懸念事項だった栄耀同盟の件が片付いたので、今後しばらくは朔耶の介入を望まれるような緊急の事態は起きないと思われる。
「後は悠介君とアルシアちゃん達でどうにかできるでしょ」
カルツィオの各国は、一番問題のあったガゼッタが落ち着いている。今後はポルヴァーティアの魔導技術を取り入れながら、徐々に発展していくのだろう。
「じゃあいったん地球世界に戻る?」
「そうしましょうか」
コウは狭間世界での冒険を終えれば、一度アンダギー博士のところへ顔を出す予定との事なので、とりあえず一緒に地球世界へ連れ帰る。
「これでようやく例の件を調査できるわね……」
「例の件?」
朔耶の何気ない呟きにコウが反応したので、少し前に起きた大規模魔力変動の事を軽く説明しておく。異世界の南方にある大陸で、精霊達を騒がせるほどの大きな魔力の動きがあった。
既に場所も特定しているので、狭間世界の問題が一段落してから調べに行くつもりなのだと。
ともあれ、有力組織連合との共闘も完遂した。
「アルシアちゃん達に挨拶して帰りましょ」
「うん」
各部隊を指揮しているアルシアとカナン達に声を掛けた朔耶は、これで引き揚げる旨を伝える。
「そうか。今回は本当に助かった。ゆっくり礼もしたいところだが」
「アルシアちゃん達はまだまだ忙しいでしょうからね、気にしなくていいよ」
「明日以降はどうするのだ?」
「あたしは一度帰って休んだら、悠介君に今回の事を報告に行くわ。コウ君は別の世界で用事があるから、この世界からはお別れになるわね」
コウが戻る世界はアルシアの本体『冒険者アルシア』が生活している世界である事を告げると、勇者アルシアは「そうか」と頷いた。
「今後はまたちょくちょく様子見に来ると思うけど、急ぎの問題とか起きたら手伝うよ」
「ああ、いつもすまないな。助かるよ」
アルシアが感謝を述べる隣で、カナンが部隊から回収した邪神製の装備品を返却する。命中率上昇効果や体力回復効果の付いた指輪などだ。
「ユースケの兄ちゃんにも助かったぜって言っといてくれ」
「はい、確かに」
朔耶は受け取った装備品をポシェットに仕舞う。
「それにしても、ビンタで爆撃機堕とす人とか初めて見たぜ」
「あはは……」
カナンが笑いながらそんな事を言うので、朔耶は苦笑を返した。アレは割とその場のノリでやったものなのだ。
「後はこれで情勢が落ち着いてくれりゃあ良いんだがなぁ」
「それは皆の頑張り次第だね」
アルシア、カナン達と今後の予定を軽く話し合って別れの挨拶を済ませた朔耶は、外の景色を眺めているコウに声を掛けた。
「お待たせ。行きましょうか、コウ君」
「はーい」
「フラキウルの冒険者コウ、此度の力添えに感謝する。……向こうの私に会ったらよろしくな」
「うん、またねー」
コウもアルシアとそんな言葉を交わすと、朔耶の隣に立って転移待ちに入った。コウを転移対象に加え、アルシア達にひらひらっと手を振った朔耶は、地球世界の実家の庭へと転移した。
排気ガスや大気汚染が叫ばれる地球世界の都市部であっても、早朝の空気はどこか清々しい。夜明けの庭に帰還して、朔耶はホッと一息吐いた。
「さて、あたしは少し休んだら悠介君に報告にいくわ」
「ボクはキョウヤのところから博士の研究所に向かうよ」
コウは京矢との繋がりの線を辿って、自力で異世界に渡るそうな。
「了解。それじゃあ解散ね、お疲れ様~」
「おつかれ~」
ひらひらっと手を振った朔耶に、よく似た仕草で振り返したコウは、拡散する魔力の光を残して少年型召喚獣を解除した。
精神体の状態になったコウの気配が、この場から消える。
『向こうに渡ったみたいね』
ウム サクヤハ ユックリ ヤスムガ ヨイ
とりあえず、朝ご飯を食べてから悠介のところへ報告と装備品の返却に行く予定を立てた朔耶は、朝日の陽光を浴びながら庭の縁側から居間に上がるのだった。
「ただいま~」
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