133 / 148
三界巡行編
第二十九章:割と平穏なる日常へ
しおりを挟む早朝に帰宅して朝ご飯を食べた朔耶は、直ぐに狭間世界に行くつもりだったのだが、思ったより疲れていたらしく、急激に眠くなったので一眠りしていた。
異世界では常に強力な精霊の護りを受けているが故に、いつも緊張感が無いように見えるものの、やはり命のやり取りをする場では相応に精神を疲労する。
「ふわわわ……」
昼前に目覚めた朔耶は、欠伸をしながら洗面所に向かう。
「おっ、やっと起きたかマイシスター」
「あれ? お兄ちゃん今日休みだったんだ?」
普段この時間なら、こちらの世界で仕事に出ているか、異世界で遊んでいる兄の重雄が、廊下の向こうから声を掛けて来た。
「ああ、今日は夕方から出勤だ。それよかちょっと頼みたい事がある」
重雄はそう言って、精巧な二次元美少女キャラの人形を掲げて見せた。
ここ最近、朔耶が頻繁に狭間世界へ渡っていると弟の孝文から聞いて、是非かの世界の邪神に力を借りたいのだとか。
「なに? またフィギュアの複製して欲しいの?」
「イエスッ! 特にあの門外不出の特別製をもう一体頼みたい」
門外不出の特別製とは、以前フィギュアの複製を頼んだ時に悠介がノリで作ったギミック機能付きのフィギュアで、関節も無いのにポーズが変わったり特定のモーションを再現し続ける。
具体的には『まばたきをする』、『髪がなびく』、『スカートやリボンがはためく』、『手を振る』などの動作を、一定間隔で繰り返すのだ。
「今はまだ少しバタバタしてるから、今度落ち着いてからね」
「りょ」
兄は複製用の素材を用意しておくからと部屋に戻って行った。実に平和である。
キッチンに行くと食事が用意されていたので、昼食を済ませてから狭間世界に渡る事にした。
(悠介君に報告と、借りてた装備品の返却をしないとね)
沙耶華と京矢の送り迎え予定日は明後日になるので、それまでに他の用事も済ませておく。
(バルのところの機械車競技場は試走も始めてるだろうし、フレグンス国内の競技場の様子と、後は投影装置配備の進捗状況かな)
オルドリア大陸の通信網構築は、今や各国が協力し合って進めている一大プロジェクトだ。
情報が速く、正確に伝わる事が如何に大きな利益に繋がるのか。皆ここ一年ばかりの朔耶の活動と、もたらされた恩恵をもって理解していた。
まだ試作型が数機ほどしか稼働していなかった魔術式投影装置だが、この度は正規型の仕様も決まり、量産化が進められている。数が揃い次第、遠方の街にも配布していく。
以前は朔耶が自らお届けするつもりだったが、元クラスメイトで親友の専属メイドな藍香から『相手を恐縮させる』と指摘されたので、フレグンス国内の分はレイスに手配してもらう。
隣国のティルファや帝国、辺境アーサリム地方の街など、地理的に距離がある場所には、朔耶がひとっ飛びする予定だ。
属国であるクリューゲルのカースティア派遣騎士団本部や、朔耶の街興し活動に深く係わった若き女性院長アマレストが運営する孤児院には朔耶が出向く。
(後はアンバッスさんのところとか、サムズ周辺もあたしが飛んだ方が早いかな)
サムズ国の首都エバンスの辺境騎士団本部に、チューリーやジャックが居る孤児院。クルストスの街と、クィスやデイジー達が住むドーソンの故郷アマガ村にも持って行く。
基本的に朔耶と交流が深く、相手を恐縮させない程度に親しい関係で且つ遠方という場所には、朔耶が運ぶつもりであった。
(バーリッカムの温泉街にもあった方がいいよね。今度、藍香を連れていってあげようかな)
そんな事を考えながらもしゃもしゃと食事を終えた朔耶は、荷物を持って庭に出ると、邪神・悠介を目標に狭間世界のカルツィオ大陸へと転移した。兄のフィギュアは本当にまた今度だ。
庭先の景色が切り替わり、視界に飛び込んで来たのは、見慣れた闇神隊長の私室や悠介邸の屋内ではなく、柱や壁に華美な彫刻が施され、床一面に赤絨毯が敷かれた豪華で広い部屋。
どうやら宮殿内で会議中だったらしい。大きなテーブルを囲う如何にも偉い人っぽい恰好をしたおじさん達が、突然現れた朔耶に唖然とした表情を向けている。
「やほー、悠介君。栄耀同盟の事で報告に来たんだけど……なんかお取り込み中だった?」
「いや、いいタイミングですよ都築さん。今丁度その話が出たところだったんだ」
一人起立して何かを報告中だった悠介に声を掛けると、そんな答えが返って来た。
「それで、栄耀同盟の本拠地攻撃はどうなりました?」
「へ? ああ、うん、成功したわよ? 組織の創始者メンバーっていう黒幕とかも全員拘束したから、これで完全制圧ね」
流れる様に結果報告を求められて少し面食らうも、朔耶は栄耀同盟という組織が完全に壊滅したであろう事を告げた。会議室に感嘆のざわめきがあがる。
すると、会議室の奥で一段高くなった場所。半分カーテンに仕切られた小部屋の椅子に座る男性から声を掛けられた。
「闇神隊長より話は聞いている。異界の者よ、此度の働き、ご苦労であった。先の戦争から我が国に大きく貢献してくれているそうだな。褒美を与えたいが、何か欲しいモノはあるか?」
フォンクランク国の王。エスヴォブス・ヴォイラス十八世。何気に直接会うのは初めてとなる。
『炎壁王』の二つ名で呼ばれる彼の王に労いの言葉を掛けられた朔耶は、褒美の望みを問われて、遠慮した。
「いえいえ、おかまいなく~」
そのフランクな対応に何人か顔を引き攣らせているお偉いさん方が居るようだが、朔耶としては狭間世界での活動は悠介やアルシアとの交流を中心に、各国の王族とは適切な距離を保ちたい。
ガゼッタのシンハ王やブルガーデンのリシャレウス女王は、少々特殊な事情が絡むので、付き合い方もそれ相応になるが。
「とりあえず借りてた装備品も返却するね。みんな凄く助かったって」
「はい、確かに」
命中補正や回復効果付きの指輪など、数点の特殊装備品を返却して目的を果たした朔耶は、早々にお暇する事にした。
「それじゃ、お邪魔しました~」
会議室の面々に軽く挨拶をしてひょいと一歩下がると、そのまま地球世界の庭先へと転移した。
『いや~、いきなり王様に会うとは』
マア ヨイ ヒキギワ ダッタノデハ ナイカ?
神社の精霊があの場をざっと調べてみたところ、どうやら宮殿に魔導技術を使った新たな設備を追加するにあたり、その技術の出所を説明する中で冒険者コウの動向を話題にしていたらしい。
栄耀同盟討伐の報は、ポルヴァーティアの有力組織連合なり真聖光徒機関からもその内もたらされるだろう。
「さて、沙耶華ちゃんと京矢君の送り迎えは明後日だし、今日はどうしようかな」
フレグンスニモ ホウコクハ シテオクト ヨイゾ
今日の予定を考える朔耶は、神社の精霊から狭間世界での活動が一段落した事を伝えておくべきとアドバイスされて納得する。
『そうだね。その報告と、後は例の魔力変動の調査に行く事も伝えておかなくちゃ』
日々忙しさは変わらない。ならば明日一日くらいはお休みにしてはどうかとも神社の精霊に提案された。このところずっと動き続けているので、偶には何もせず過ごす日も必要だと。
『それもそうね。明日は急ぎの用事がなければノンビリしましょうか』
ソウスルト ヨイ
少し肩の力を抜いた朔耶は、とりあえず夕方までに報告を済ませておこうと、異世界はオルドリア大陸のフレグンス王国へ。
通い慣れたお城を目標に転移するのだった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
異世界からの召喚者《完結》
アーエル
恋愛
中央神殿の敷地にある聖なる森に一筋の光が差し込んだ。
それは【異世界の扉】と呼ばれるもので、この世界の神に選ばれた使者が降臨されるという。
今回、招かれたのは若い女性だった。
☆他社でも公開
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。