東京綺譚伝―光と桜と―

月夜野 すみれ

文字の大きさ
31 / 87
第四章 復活と土蜘蛛と

第五話

しおりを挟む
 マンションのリビングに入った綱は、
「季武は?」
 貞光と金時しかないのを見て訊ねた。

「居残りだって」
「なぁ、季武あいつヤバくねぇか?」
 貞光が言った。
なんか有ったのか?」
めぇ、六花ちゃんの居場所、GPSで調べてた」
「げ、それ六花ちゃんに知られたら食事作ってもらえなくなるじゃん」
それは問題ねぇよ。六花ちゃん、知ってっけど今まで通りだし」

六花イナちゃん、意外と神経太いとこ有るよな。の前のビル崩壊見ても頼光様あのひとへの態度、変わってないし」
「昔からそうじゃん。頼光様あのひとが何しても気にしないし、季武には甘いし」
「甘いのは季武に対してだけじゃないけどな。憧れの対象にったのは酒呑童子討伐後からだけど、の前から俺達も色々世話にってたし」
「にしても季武はちょっと甘え過ぎだよな」
 金時の言葉に綱と貞光が同意するように頷いた。

 その晩、四天王の任地から遠く離れた場所で、ある討伐員がぐれ者の隠れ家をうかがっていた。

「まさか、こんなに沢山たとはな。仲間に知らせないと」
 討伐員が静かにその場を離れようとした時、ぐれ者の一人が目の前に立ちふさがった。
「知らせられちゃ困るね」

 ぐれ者の言葉に討伐員は無言で刀を抜いた。
 討伐員が斬り掛かる。
 ぐれ者は土蜘蛛の姿になると刀をけつつ脚を振り下ろした。
 討伐員が刀を斬り上げた。
 土蜘蛛の脚の一本が切り落とされた。

「ーーーーー!」
 土蜘蛛が叫び声を上げた。
 討伐員が近くの樹からもく属性の槍を取り出して一気に間を詰めた。
 土蜘蛛にけるは無かった。
 槍を突き立てられようとした時、何かがぶつかって討伐員が倒れた。
 土蜘蛛の糸だった。
 討伐員は糸で地面に貼り付いて動けない。
 藻掻もがいている討伐員に土蜘蛛の脚が突き立った。
 討伐員は核になって異界へ戻った。

 討伐員に糸を飛ばしたのは仲間ではない。
 油断なくを辺りを見回していると知らない土蜘蛛が現れた。

 見知らぬ土蜘蛛は敵意が無い事を示すように少女の姿になった。
 土蜘蛛も警戒したまま中年女性の姿に変化へんげした。

「助けてくれた事には礼を言うよ」
ぐに上の者から今のヤツの上司に連絡が行く。急いで移動した方がい」
 中年女性はわずかに躊躇ためらった後、少女を連れて隠れ家へ向かった。

 そこは廃工場だった。
 中年女性が入っていって皆を呼ぶと十人ほどの男女が出てきた。
 人間の姿をしているが全員土蜘蛛だ。

「メナ、其奴そいつは?」
「討伐員に襲われた所を助けてくれた」
 メナと呼ばれた中年女性は少女を振り返った。

「サチ」
 少女はそう名乗ると中年女性に言ったのと同じ事を繰り返した。
「でも、何処どこに……」
ずは此処ここから離れた方がい。仲間はの討伐員が連絡を絶ったの辺を最初に探すはずだ」
 場所がどこであれ討伐員が一人という事は有り得ない。
 同じ地区の担当者が他にもるはずだ。

いてきて」
 サチはそう言って隠れ家から出ていった。
 そこにた土蜘蛛達は視線を交わした後、サチの跡を追った。

 サチは隠れ家から数十キロほど離れた山の中で立ち止まった。

「こんなとこに連れてきて如何どうする気だ」
 土蜘蛛の一人が警戒心もあらわに訊ねた。
此処ここならぐには見付からない」
それで?」
 メナが訊ねた。

「~~~」
 サチがある名前を言った。

 頼光の異界での呼び名だ。
 一同の間に緊張が走った。
 討伐員の中でも特に悪名高あくみょうだかいのが頼光だった。
 ぐれ者でった事の有る者はない。
 頼光と顔を合わせて生き延びた者はないからだ。

「……あたしらが言うのもなんだけど……化物だろ」
「特別な時だけ此方こっちに来るって聞いてる」
 土蜘蛛達が口々に言った。
 だがどれも噂だ。

「仲間が大勢殺された。彼奴あいつに一矢報いたい。だから手を貸してくれる仲間を捜してる」
異界むこうには彼奴あいつみたいな化物が大勢るんだ。乗り込んだ所で何も出来ずに返り討ちにされるだけだろ」
異界むこうに行く気は無いし頼光あいつに敵わないのも分かってる。でも手下なら?」
「え?」
「北山の仲間を殺した連中を見付けた。せめて手下だけでも倒したい」
「あたしらに恩を売ったのはの為かい? 化物退治に手を貸せって?」
「恩に着せるもりは無い。る気の無い者は足手纏あしでまといにしからない。嫌なら他を当たる」
 サチの言葉に土蜘蛛達は再び視線を交わした。

 おそらく彼らは長年一緒に行動しているのだろう。
 だから言葉にしなくても意志の疎通そつうはかれるのだ。
 サチにもかつてはそう言う仲間が大勢た。

 彼奴あいつ人間界こちら源頼光みなもとのよりみつと名乗っているの化物がって来るまでは……。

る!」
 若い女性が言った。
「ミツ、本気なのかい?」
「サチはハシを殺した討伐員を倒してくれた。ハシのかたきってくれた。だから手を貸す」
 ミツの言葉に土蜘蛛達は顔を見合わせた。

 ミツを含め土蜘蛛達は離れた場所でしばらく話し合っていた。
 それからメナと数人の土蜘蛛がってきた。

此奴こいつらは、あんたに協力するそうだ。あたしらは少し様子を見させてもらうよ」
「そう。じゃ、行こう」
 サチが歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...