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第四章 復活と土蜘蛛と
第五話
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マンションのリビングに入った綱は、
「季武は?」
貞光と金時しか居ないのを見て訊ねた。
「居残りだって」
「なぁ、季武ヤバくねぇか?」
貞光が言った。
「何か有ったのか?」
「此の前、六花ちゃんの居場所、GPSで調べてた」
「げ、其六花ちゃんに知られたら食事作って貰えなくなるじゃん」
「其は問題ねぇよ。六花ちゃん、知ってっけど今まで通りだし」
「六花ちゃん、意外と神経太いとこ有るよな。此の前のビル崩壊見ても頼光様への態度、変わってないし」
「昔からそうじゃん。頼光様が何しても気にしないし、季武には甘いし」
「甘いのは季武に対してだけじゃないけどな。憧れの対象に成ったのは酒呑童子討伐後からだけど、其の前から俺達も色々世話に成ってたし」
「にしても季武はちょっと甘え過ぎだよな」
金時の言葉に綱と貞光が同意するように頷いた。
その晩、四天王の任地から遠く離れた場所で、ある討伐員が反ぐれ者の隠れ家を窺っていた。
「まさか、こんなに沢山居たとはな。仲間に知らせないと」
討伐員が静かにその場を離れようとした時、反ぐれ者の一人が目の前に立ち塞がった。
「知らせられちゃ困るね」
反ぐれ者の言葉に討伐員は無言で刀を抜いた。
討伐員が斬り掛かる。
反ぐれ者は土蜘蛛の姿になると刀を避けつつ脚を振り下ろした。
討伐員が刀を斬り上げた。
土蜘蛛の脚の一本が切り落とされた。
「ーーーーー!」
土蜘蛛が叫び声を上げた。
討伐員が近くの樹から木属性の槍を取り出して一気に間を詰めた。
土蜘蛛に避ける間は無かった。
槍を突き立てられようとした時、何かがぶつかって討伐員が倒れた。
土蜘蛛の糸だった。
討伐員は糸で地面に貼り付いて動けない。
藻掻いている討伐員に土蜘蛛の脚が突き立った。
討伐員は核になって異界へ戻った。
討伐員に糸を飛ばしたのは仲間ではない。
油断なくを辺りを見回していると知らない土蜘蛛が現れた。
見知らぬ土蜘蛛は敵意が無い事を示すように少女の姿になった。
土蜘蛛も警戒したまま中年女性の姿に変化した。
「助けてくれた事には礼を言うよ」
「直ぐに上の者から今の奴の上司に連絡が行く。急いで移動した方が良い」
中年女性は僅かに躊躇った後、少女を連れて隠れ家へ向かった。
そこは廃工場だった。
中年女性が入っていって皆を呼ぶと十人ほどの男女が出てきた。
人間の姿をしているが全員土蜘蛛だ。
「メナ、其奴は?」
「討伐員に襲われた所を助けてくれた」
メナと呼ばれた中年女性は少女を振り返った。
「サチ」
少女はそう名乗ると中年女性に言ったのと同じ事を繰り返した。
「でも、何処に……」
「先ずは此処から離れた方が良い。仲間は彼の討伐員が連絡を絶った此の辺を最初に探す筈だ」
場所がどこであれ討伐員が一人という事は有り得ない。
同じ地区の担当者が他にも居るはずだ。
「随いてきて」
サチはそう言って隠れ家から出ていった。
そこに居た土蜘蛛達は視線を交わした後、サチの跡を追った。
サチは隠れ家から数十キロほど離れた山の中で立ち止まった。
「こんな所に連れてきて如何する気だ」
土蜘蛛の一人が警戒心も露わに訊ねた。
「此処なら直ぐには見付からない」
「其で?」
メナが訊ねた。
「~~~」
サチがある名前を言った。
頼光の異界での呼び名だ。
一同の間に緊張が走った。
討伐員の中でも特に悪名高いのが頼光だった。
反ぐれ者で遭った事の有る者は居ない。
頼光と顔を合わせて生き延びた者は居ないからだ。
「……あたしらが言うのも何だけど……化物だろ」
「特別な時だけ此方に来るって聞いてる」
土蜘蛛達が口々に言った。
だがどれも噂だ。
「仲間が大勢殺された。彼奴に一矢報いたい。だから手を貸してくれる仲間を捜してる」
「異界には彼奴みたいな化物が大勢居るんだ。乗り込んだ所で何も出来ずに返り討ちにされるだけだろ」
「異界に行く気は無いし頼光に敵わないのも分かってる。でも手下なら?」
「え?」
「北山の仲間を殺した連中を見付けた。責て手下だけでも倒したい」
「あたしらに恩を売ったのは其の為かい? 化物退治に手を貸せって?」
「恩に着せる積もりは無い。遣る気の無い者は足手纏いにしか成らない。嫌なら他を当たる」
サチの言葉に土蜘蛛達は再び視線を交わした。
恐らく彼らは長年一緒に行動しているのだろう。
だから言葉にしなくても意志の疎通を図れるのだ。
サチにもかつてはそう言う仲間が大勢居た。
彼奴、人間界で源頼光と名乗っている彼の化物が遣って来るまでは……。
「遣る!」
若い女性が言った。
「ミツ、本気なのかい?」
「サチはハシを殺した討伐員を倒してくれた。ハシの仇を討ってくれた。だから手を貸す」
ミツの言葉に土蜘蛛達は顔を見合わせた。
ミツを含め土蜘蛛達は離れた場所で暫く話し合っていた。
それからメナと数人の土蜘蛛が遣ってきた。
「此奴は、あんたに協力するそうだ。あたしらは少し様子を見させて貰うよ」
「そう。じゃ、行こう」
サチが歩き出した。
「季武は?」
貞光と金時しか居ないのを見て訊ねた。
「居残りだって」
「なぁ、季武ヤバくねぇか?」
貞光が言った。
「何か有ったのか?」
「此の前、六花ちゃんの居場所、GPSで調べてた」
「げ、其六花ちゃんに知られたら食事作って貰えなくなるじゃん」
「其は問題ねぇよ。六花ちゃん、知ってっけど今まで通りだし」
「六花ちゃん、意外と神経太いとこ有るよな。此の前のビル崩壊見ても頼光様への態度、変わってないし」
「昔からそうじゃん。頼光様が何しても気にしないし、季武には甘いし」
「甘いのは季武に対してだけじゃないけどな。憧れの対象に成ったのは酒呑童子討伐後からだけど、其の前から俺達も色々世話に成ってたし」
「にしても季武はちょっと甘え過ぎだよな」
金時の言葉に綱と貞光が同意するように頷いた。
その晩、四天王の任地から遠く離れた場所で、ある討伐員が反ぐれ者の隠れ家を窺っていた。
「まさか、こんなに沢山居たとはな。仲間に知らせないと」
討伐員が静かにその場を離れようとした時、反ぐれ者の一人が目の前に立ち塞がった。
「知らせられちゃ困るね」
反ぐれ者の言葉に討伐員は無言で刀を抜いた。
討伐員が斬り掛かる。
反ぐれ者は土蜘蛛の姿になると刀を避けつつ脚を振り下ろした。
討伐員が刀を斬り上げた。
土蜘蛛の脚の一本が切り落とされた。
「ーーーーー!」
土蜘蛛が叫び声を上げた。
討伐員が近くの樹から木属性の槍を取り出して一気に間を詰めた。
土蜘蛛に避ける間は無かった。
槍を突き立てられようとした時、何かがぶつかって討伐員が倒れた。
土蜘蛛の糸だった。
討伐員は糸で地面に貼り付いて動けない。
藻掻いている討伐員に土蜘蛛の脚が突き立った。
討伐員は核になって異界へ戻った。
討伐員に糸を飛ばしたのは仲間ではない。
油断なくを辺りを見回していると知らない土蜘蛛が現れた。
見知らぬ土蜘蛛は敵意が無い事を示すように少女の姿になった。
土蜘蛛も警戒したまま中年女性の姿に変化した。
「助けてくれた事には礼を言うよ」
「直ぐに上の者から今の奴の上司に連絡が行く。急いで移動した方が良い」
中年女性は僅かに躊躇った後、少女を連れて隠れ家へ向かった。
そこは廃工場だった。
中年女性が入っていって皆を呼ぶと十人ほどの男女が出てきた。
人間の姿をしているが全員土蜘蛛だ。
「メナ、其奴は?」
「討伐員に襲われた所を助けてくれた」
メナと呼ばれた中年女性は少女を振り返った。
「サチ」
少女はそう名乗ると中年女性に言ったのと同じ事を繰り返した。
「でも、何処に……」
「先ずは此処から離れた方が良い。仲間は彼の討伐員が連絡を絶った此の辺を最初に探す筈だ」
場所がどこであれ討伐員が一人という事は有り得ない。
同じ地区の担当者が他にも居るはずだ。
「随いてきて」
サチはそう言って隠れ家から出ていった。
そこに居た土蜘蛛達は視線を交わした後、サチの跡を追った。
サチは隠れ家から数十キロほど離れた山の中で立ち止まった。
「こんな所に連れてきて如何する気だ」
土蜘蛛の一人が警戒心も露わに訊ねた。
「此処なら直ぐには見付からない」
「其で?」
メナが訊ねた。
「~~~」
サチがある名前を言った。
頼光の異界での呼び名だ。
一同の間に緊張が走った。
討伐員の中でも特に悪名高いのが頼光だった。
反ぐれ者で遭った事の有る者は居ない。
頼光と顔を合わせて生き延びた者は居ないからだ。
「……あたしらが言うのも何だけど……化物だろ」
「特別な時だけ此方に来るって聞いてる」
土蜘蛛達が口々に言った。
だがどれも噂だ。
「仲間が大勢殺された。彼奴に一矢報いたい。だから手を貸してくれる仲間を捜してる」
「異界には彼奴みたいな化物が大勢居るんだ。乗り込んだ所で何も出来ずに返り討ちにされるだけだろ」
「異界に行く気は無いし頼光に敵わないのも分かってる。でも手下なら?」
「え?」
「北山の仲間を殺した連中を見付けた。責て手下だけでも倒したい」
「あたしらに恩を売ったのは其の為かい? 化物退治に手を貸せって?」
「恩に着せる積もりは無い。遣る気の無い者は足手纏いにしか成らない。嫌なら他を当たる」
サチの言葉に土蜘蛛達は再び視線を交わした。
恐らく彼らは長年一緒に行動しているのだろう。
だから言葉にしなくても意志の疎通を図れるのだ。
サチにもかつてはそう言う仲間が大勢居た。
彼奴、人間界で源頼光と名乗っている彼の化物が遣って来るまでは……。
「遣る!」
若い女性が言った。
「ミツ、本気なのかい?」
「サチはハシを殺した討伐員を倒してくれた。ハシの仇を討ってくれた。だから手を貸す」
ミツの言葉に土蜘蛛達は顔を見合わせた。
ミツを含め土蜘蛛達は離れた場所で暫く話し合っていた。
それからメナと数人の土蜘蛛が遣ってきた。
「此奴は、あんたに協力するそうだ。あたしらは少し様子を見させて貰うよ」
「そう。じゃ、行こう」
サチが歩き出した。
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