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第九章 涙と光と
第五話
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放課後、六花をマンションに送り届けた季武は、中央公園に入って隠形になると歌壇の低木の陰に五馬のスマホを置いた。
翌日の休み時間、季武と六花は教室に居た。
季武は五馬を倒したら六花に彼女が死んだと告げる事にした。
貞光達から生きてると思わせておくと偽の呼び出しに騙されて人質にされるかもしれないと警告されたのだ。
ただ、確実に討伐したのを確認する前に言ってしまうと本物が生きて出てきた時に敵に付け入る隙を与えてしまうかもしれない。
だから討伐後に話す事にしたのだ。
出来れば言いたくないんだが……。
季武は溜息を吐いた。
「どうしたの?」
六花が心配そうに季武を見た。
季武は慌てて、
「あ、いや、頼光様と話してて都に居た頃の事を思い出したんだ」
と誤魔化した。
「都で何かあったの?」
六花が興味を惹かれたように訊ねた。
「都で流行ってた物語を手に入れるのに皆苦労してたんだが八重――お前は強請ってこなかったから俺は手に入れなかったんだ。けど若しかしたら本当はお前も読みたかったんじゃないかと思って」
「物語?」
「『源氏物語』。当時は章の名前だけで題名が無かったから」
「あ、そっか。その、覚えてないからよく分からないけど、欲しいって言わなかったなら読みたいと思ってなかったんじゃないかな」
「今は? 手に入るって言われたら読みたいか?」
「え? う~ん……」
六花が考え込んだ。
まず最初に容易に手に入るかどうか聞いてくるかと思ったがその事は訊ねてこなかった。
入手のし易さを聞かないと言う事は遠慮しているのではないだろう。
若しかして本当に欲しくなかったのか?
一条帝は『源氏物語』を読んで作者は歴史書をよく読んでいると言ったそうだが『源氏物語』自体は歴史書ではなく物語だしイナが好きなのは昔話やお伽噺だ。
お伽噺も物語と言えば物語だが『源氏物語』とは毛色が違う。
「それ、原本の事だよね?」
「そりゃ、原本じゃなくて良なら出版されてるだろ」
「せっかく貰っても昔の字で、しかも古文で書いてあるとなると読める自信ないよ」
そう言えばそうだった。
だから頼光からの文の内容も未だに知らないのだ。
現代の人間は学校で習わなければ平安時代の文章は理解出来ないし、スマホやパソコンの文字を見る事が殆どだから崩し字も読めない者が多くなっている。
六花は民話研究会で課題の古典文学を読むとは言っても活字になったものだし、現代語訳ではなくても注釈などが付いてかなり分かり易くなったものを読んでいる。
確かに今更手に入れても読めないか……。
入手自体は頼光に頼めばなんとかなりそうだと思ったのだが。
しかしこの返事だと八重が読みたいと思っていたかどうかは分からない。
欲しいものはその時代によって変わるから欲しい時に強請ってくれないと気付けない。
イナは自分の希望や我が儘を言わないが、季武は人間の機微に疎いから相手がイナでもはっきり言ってもらわないと分からないのだが。
六花が家に入ると、
「六花、出掛けるわよ」
母が慌てた様子で声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「お祖母ちゃんが入院したんですって。ほら、行くわよ」
六花は季武に連絡する間もなく母親に外に連れ出された。
六花は地下鉄の中で季武に行き先を連絡した。
入院していた祖母は意識もはっきりしていてすぐに退院出来そうだと告げられた。
病院から出ると母は祖母の着替えを取りに行くと言って六花と別れた。
六花は駅に向かって歩き出したが、途中で迷ってしまった。
もう日は沈んで西の空に残照が有るだけだ。
目の前に大きな樹が立ち並んでいる。
来た時には大きい公園の側は通ってないから道を間違えたのだ。
困ったな……。
道を調べる為にスマホを取り出そうとした時、目の隅に見覚えの有る何かが映った。
顔を上げて辺りを見回すと樹の陰に隠れるようにして人が立っている。
薄暗くて判然としないが――
あれって……金時さん、だよね?
金時が見ている方を見ると綱と五馬が居た。
五馬ちゃん!?
無事だったんだ!
嬉しくて思わず駆け出した。
しかし表情が分かるくらい近付くと二人は険しい顔で睨み合っているのが分かった。
思わず足が止まる。
近付くのが躊躇われる雰囲気だった。
綱を挟んで金時の反対側に――
貞光さん……。
なら、季武君もどこかに……。
辺りを見回そうとしたとき背後から肩に手が掛かった。
振り返ると季武だった。
「季武君……」
六花が口を開こうとすると、
「帰るぞ」
季武が六花の腕を掴んで反対方向に向かおうとした。
危険から遠ざけようとしてるのだ。
でも危ないんだとしたら五馬ちゃんだって……。
翌日の休み時間、季武と六花は教室に居た。
季武は五馬を倒したら六花に彼女が死んだと告げる事にした。
貞光達から生きてると思わせておくと偽の呼び出しに騙されて人質にされるかもしれないと警告されたのだ。
ただ、確実に討伐したのを確認する前に言ってしまうと本物が生きて出てきた時に敵に付け入る隙を与えてしまうかもしれない。
だから討伐後に話す事にしたのだ。
出来れば言いたくないんだが……。
季武は溜息を吐いた。
「どうしたの?」
六花が心配そうに季武を見た。
季武は慌てて、
「あ、いや、頼光様と話してて都に居た頃の事を思い出したんだ」
と誤魔化した。
「都で何かあったの?」
六花が興味を惹かれたように訊ねた。
「都で流行ってた物語を手に入れるのに皆苦労してたんだが八重――お前は強請ってこなかったから俺は手に入れなかったんだ。けど若しかしたら本当はお前も読みたかったんじゃないかと思って」
「物語?」
「『源氏物語』。当時は章の名前だけで題名が無かったから」
「あ、そっか。その、覚えてないからよく分からないけど、欲しいって言わなかったなら読みたいと思ってなかったんじゃないかな」
「今は? 手に入るって言われたら読みたいか?」
「え? う~ん……」
六花が考え込んだ。
まず最初に容易に手に入るかどうか聞いてくるかと思ったがその事は訊ねてこなかった。
入手のし易さを聞かないと言う事は遠慮しているのではないだろう。
若しかして本当に欲しくなかったのか?
一条帝は『源氏物語』を読んで作者は歴史書をよく読んでいると言ったそうだが『源氏物語』自体は歴史書ではなく物語だしイナが好きなのは昔話やお伽噺だ。
お伽噺も物語と言えば物語だが『源氏物語』とは毛色が違う。
「それ、原本の事だよね?」
「そりゃ、原本じゃなくて良なら出版されてるだろ」
「せっかく貰っても昔の字で、しかも古文で書いてあるとなると読める自信ないよ」
そう言えばそうだった。
だから頼光からの文の内容も未だに知らないのだ。
現代の人間は学校で習わなければ平安時代の文章は理解出来ないし、スマホやパソコンの文字を見る事が殆どだから崩し字も読めない者が多くなっている。
六花は民話研究会で課題の古典文学を読むとは言っても活字になったものだし、現代語訳ではなくても注釈などが付いてかなり分かり易くなったものを読んでいる。
確かに今更手に入れても読めないか……。
入手自体は頼光に頼めばなんとかなりそうだと思ったのだが。
しかしこの返事だと八重が読みたいと思っていたかどうかは分からない。
欲しいものはその時代によって変わるから欲しい時に強請ってくれないと気付けない。
イナは自分の希望や我が儘を言わないが、季武は人間の機微に疎いから相手がイナでもはっきり言ってもらわないと分からないのだが。
六花が家に入ると、
「六花、出掛けるわよ」
母が慌てた様子で声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「お祖母ちゃんが入院したんですって。ほら、行くわよ」
六花は季武に連絡する間もなく母親に外に連れ出された。
六花は地下鉄の中で季武に行き先を連絡した。
入院していた祖母は意識もはっきりしていてすぐに退院出来そうだと告げられた。
病院から出ると母は祖母の着替えを取りに行くと言って六花と別れた。
六花は駅に向かって歩き出したが、途中で迷ってしまった。
もう日は沈んで西の空に残照が有るだけだ。
目の前に大きな樹が立ち並んでいる。
来た時には大きい公園の側は通ってないから道を間違えたのだ。
困ったな……。
道を調べる為にスマホを取り出そうとした時、目の隅に見覚えの有る何かが映った。
顔を上げて辺りを見回すと樹の陰に隠れるようにして人が立っている。
薄暗くて判然としないが――
あれって……金時さん、だよね?
金時が見ている方を見ると綱と五馬が居た。
五馬ちゃん!?
無事だったんだ!
嬉しくて思わず駆け出した。
しかし表情が分かるくらい近付くと二人は険しい顔で睨み合っているのが分かった。
思わず足が止まる。
近付くのが躊躇われる雰囲気だった。
綱を挟んで金時の反対側に――
貞光さん……。
なら、季武君もどこかに……。
辺りを見回そうとしたとき背後から肩に手が掛かった。
振り返ると季武だった。
「季武君……」
六花が口を開こうとすると、
「帰るぞ」
季武が六花の腕を掴んで反対方向に向かおうとした。
危険から遠ざけようとしてるのだ。
でも危ないんだとしたら五馬ちゃんだって……。
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