東京綺譚伝―光と桜と―

月夜野 すみれ

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第九章 涙と光と

第七話

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 放課後、季武は六花を送ってマンションの前に着いた。

「六花、明日あす、一緒に出掛けないか? 綱がまた新しい場所見付けてきたんだ」
 季武が六花の家の前で訊ねた。

 明日は七月二十二日だ。

「その……五馬ちゃん、捜さなくてもいの?」
「綱達は捜してる」
「あの……明日あしたは……」
 口籠くちごもった六花を季武が見詰みつめた。
 六花が黙り込むと季武はそれ以上は何も言わずに六花の頭を撫でて帰っていった。

 明日の約束の事、覚えてるよね。

 季武は知っていて止めなかったのだ。

 行って、いんだよね……。

 六花は季武の背中が夕闇の中に消えるとマンションに入った。

 翌日、六花は五馬との約束の時間に新宿駅南口の柱のそばに立っていた。
 手には小さな紙袋に入れた誕生日プレゼントを持っていた。

 来る訳ないよね。

 四天王が捜してる上に季武は今日の待ち合わせの事を知っている。
 ここは見張られてるかもしれないのだ。
 見付かったら殺されるのに来るはずが無い。
 それでも六花は五馬の姿を探して人混みに目をっていた。

 時間は過ぎていった。

 人待ち顔の人達は次々と待ち人と合流して去っていく。
 そしてまた誰かを待っている人が現れ、ってきた人と一緒に雑踏に消えていく。

 夜の十一時を過ぎ、酔っ払いが増えてきた。
 駅の売店ももうシャッターが下りている。
 改札口が人の群れを吐き出しては飲み込む。
 そろそろ終電が近いせいか改札口に駆け込む人がちらほらる。
 いくらなんでも中学生がこの時間に出歩いているのは不味マズい。
 スマホがさっきから振動しっぱなしだ。
 親が早く帰ってくるようにと言うメッセージを送ってきているのだ。
 六花は時計を見上げた。

 十一時半。

 日付が変わるまで。
 明日になるまでは待ってみよう。

 そう思った時、
「振り返るな」
 季武の声がした。
 そっと横目でうかがうと六花が背にしている柱の横に季武がこちらに背を向けて立っていた。
「切符売り場にる赤いスカートの女、あれが八田五馬だ」
 季武の言葉に切符売り場の方を見ると確かに赤いスカートの女性が立っている。
「でも、あの人……」

 どう見ても二十代だ。

「六花が知ってるのは中学生に変化へんげしていた時の八田五馬だ」
 もう一度赤いスカートの女性を見ると目が合った。
 その瞬間、女性は身をひるがえした。
「五馬ちゃん! 待って!」
 六花は慌てて追い掛けたが五馬はすぐに人混みに紛れてしまった。

 六花が立ち尽くしていると、後ろからって来た季武が手を掴んだ。

「帰ろう、送る」
 そう言って手を引いて歩き出す。

 季武君、やっぱり覚えてたんだ……。

「あの、ごめんなさい……」
 季武達は五馬を捜していたはずだ。
 六花のせいで五馬は逃げてしまった。
「気にしなくてい。こんな人混みの中じゃ手は出せないから」
 六花はなんと言えばいのか分からなかった。
「俺は謝れない」
「え?」
「俺達は八田あいつを討伐しなければらない。六花のために見逃してる事は出来ないが、それを謝る訳にもいかないんだ」
「うん。分かってる」
 当然だ。
 季武達が人間界にるのはその為なのだ。
 人間を喰うぐれ者を放置しているのでは人間界こちらる意味が無い。

 でも異界むこうに帰ったら?

 綱は異界むこうれば人間を喰べる必要は無いと言っていた。

「もし、五馬ちゃんが異界むこうに帰ったら?」
八田あいつはエリを殺した。綱は絶対に許さない」
 六花は黙り込んだ。
「人間の一生は短いから一緒にられる時間は貴重なんだ。八田はの大切な時間を綱からうばった」
 季武がそろそろイナと再会出来る頃だと期待して捜している時と同じように綱もエリとの再会を待ちねていたはずだ。
 異界の者すえたけが人の心を理解出来ないように、人間イナにも待っている者の気持ちは分からないだろう。

「じゃあ、綱さんは……」
「俺と同じ事をする。俺もの時、異界むこうに逃げ込んだヤツを討伐して核を砕いた」

 再生出来ないくらい粉々に核を砕く。
 それは異界の者にとって真の死を意味する。
 人間のように生まれ変わる事すら出来なくなる、完全なる抹殺。

「俺には止められないし、止める気も無い。そばながら見見みすみす殺されてしまった悔しさは俺が一番良く知ってるから」
 六花の手を握る手に力が込められた。

 多分、二十年前の事を思い出しているのだ。
 季武をかばおうとしたと言っていたから目の前で死んだはずだ。
 六花は季武の横顔を見上げた。

 季武は唇をめた。
 核を砕いても季武の怒りはおさまらなかった。
 上層部に直談判じかだんぱんしてイナの転生を早めさせる事を強引に了承させた。
 その事に付いては後で頼光にこっぴどく叱られた。
 だが早めてもらっても再会までに二十年も掛かった。
 綾が生きていれば今頃は結婚して子供は小学生くらいになってたはずだ。

 綱は他に二人るからエリの転生を早めて欲しいとは言わないだろう。
 どちらにしろ綾の死因は季武をかばっての事だったから転生を早めてもらえたのだ。
 ぐれ者に喰われた犠牲者の一人では転生を早めてもらう理由にはならない。頼むだけ無駄だ。

「えっと……ごめんなさい……」
「何が?」
「その……死んじゃった事、かな……」
「二度としないでくれ。俺の身体はぐに再生するが人間はそうはいかない。俺にも……、頼光様にだって人間の怪我ケガを治す能力ちからは無いし、して死んだら……」
「……うん」
 六花はうつむいた。
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