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第九章 涙と光と
第九話
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「復讐は止められない。止める訳にはいかないの。仲間が大勢殺されてるから。『豊後風土記』に土蜘蛛は全滅させられたって書いてあったでしょ」
五馬の言葉に六花が頷いた。
「大勢殺されて、最後の生き残りが砦に立て籠もってた時、逃げて復讐してくれって頼まれたの」
仲間の一人が裏切った振りをして本当の裏切り者達からどこまで情報を流したか聞き出した。
その結果、そこに居る土蜘蛛全員の名前が知られていると分かった。
反ぐれ者は討伐されれば核となって異界へ戻る。
ただ逃げただけでは戻った核を確認したとき生き残りが居ると判明して追っ手が掛かる。
生き残りの存在を隠す為には異界へ戻る人数を分からなくするしかない。
それで何人かが自害し残った者がその核が異界へ戻る前に取って砕いた。
そして裏切った振りをした者が内輪揉めを起こして何人かが核を砕かれたから逃げてきたと言った。
「私が逃げた事を気付かれない様にする為に其処までしたの。人間と異界の者の一番の違い、何だか知ってる?」
六花は首を振った。
「人間は死んでしまう代わりに必ず生まれ変わる。魂を消滅させる術は無いから此の世から消えたりしない。異界の者は寿命も無いし核が無事なら直ぐに再生出来るけど砕かれたら二度と生き返れない。此の世から完全に消滅するの」
「…………」
「私が凄く慕っていて仲良くしてたお姉さんが核を砕かれる内の一人に志願したの」
五馬が唇を噛み締めた。
「何時も優しくしてくれて幾度も助けてくれてた。彼の時は又助けてくれたんだって思ったけど……其だけじゃなかったって分かった」
「どう言う事?」
「私の決心を鈍らせない為。長い年月を過ごしている内に屹度躊躇う様に成るって分かってたから、私が止められない様にする為に核を砕かれる事を選んだの」
「『豊後風土記』で土蜘蛛を全滅させたのは季武君達なの? 季武君達の任地はずっと此処だったって……」
九州で土蜘蛛討伐をしたなら話してくれたはずだ。
「土蜘蛛討伐の指揮をしたのは彼奴――源頼光。当時は違う名前だったけど。彼の四人は未だ生まれてなかったと思うよ」
「え、でも、季武君が来たのは二千年近く前って言ってたよ。その頃はまだ役人はいなかったから朝廷は無かったと思うって……」
「元々土蜘蛛を滅ぼしたのは朝廷じゃないから。九州に残ってた伝説を朝廷が自分達の手柄にしただけだよ」
五馬は復讐するよう頼まれて逃げ延びたものの頼光はずっと異界に居て人間界には偶に来るだけだった。
長い時が経ち、漸く酒呑童子討伐の為に頼光が都に常駐するようになった。
北山の土蜘蛛の仲間になって頼光を襲う計画を立てたがあっさり返り討ちに遭った。
敗走中、五馬は元々北山に居た訳ではないから恐らく知られていないはずだと彼らの復讐も託され逃がされた。
実際、五馬は北山の名簿に名前が無かったから逃げても追っ手は掛からなかった。
しかし北山の土蜘蛛達全員で掛かっても敵わなかったのだ。
五馬一人ではとても復讐は叶いそうになかった。
「六花ちゃんが彼の小学生に近付いた時の様子を見て若しかしたら人間に転生させられてる強力な異界の者じゃないかと考えたの。其なら利用出来るんじゃないかと思った。まさか茨木童子だとは思わなかったけど」
確かに、あの子と初めて会ったのは五馬ちゃんと一緒の時だったけど……。
でも、あのとき五馬ちゃんは私が見鬼だって知ってたっけ?
首を傾げた六花に、
「気付いてなかったの?」
五馬が苦笑して言った。
「六花ちゃんと初めて話した時、わたし、隠形だったんだよ」
六花は目を見開いた。
あのとき五馬が驚いていたのは隠形なのに声を掛けられたからだったのだ。
「それで、あの子を鬼に……」
「そうだよ。けど茨木童子だけじゃ四天王が一人の所を襲っても太刀打ち出来なかった」
「酒呑童子の核を盗むのに協力したって言うのは……」
「茨木童子より強い鬼は酒呑童子くらいだから」
つまり人を喰っていただけではなく核を盗む事まで遣っていたのだ。
「あの……、五馬ちゃん達や鬼がこっちに来るのって何か理由があるの? 頼光様達が悪い人だとは思いたくないけど、もしかして異界から逃げたくなるような……」
「人間が美味しいから」
五馬があっさり答えた。
六花は驚いて五馬の顔を見詰めた。
「責めて迫害されてたって言えれば人間界に来る言い訳になったけど、異界の方が少しだけど次元が高いから人間みたいな種族間争いや差別感情は無いの」
だが次元が高いと言っても異界の者も生物で有る事に代わりはないし欲求が全く無くなるほど高位でもない。
だから異界の食い物より人間の方が旨いと聞いて壁に穴が開いてるのを見付けると人間界へ来てしまう者が居る。
力が有る者だと意図的に壁を破って来る場合も有る。
そして一度人間の味を覚えたらもう異界の物を食べる気にはなれなくなる。
食べられなくなる訳では無い。
ただ、麻薬と同じで人間を喰いたいと言う欲求に抗えなくなるのだ。
上の者は討伐する者を送り込んでいるが、それでもこちらへ来る者は跡を絶たない。
五馬の言葉に六花が頷いた。
「大勢殺されて、最後の生き残りが砦に立て籠もってた時、逃げて復讐してくれって頼まれたの」
仲間の一人が裏切った振りをして本当の裏切り者達からどこまで情報を流したか聞き出した。
その結果、そこに居る土蜘蛛全員の名前が知られていると分かった。
反ぐれ者は討伐されれば核となって異界へ戻る。
ただ逃げただけでは戻った核を確認したとき生き残りが居ると判明して追っ手が掛かる。
生き残りの存在を隠す為には異界へ戻る人数を分からなくするしかない。
それで何人かが自害し残った者がその核が異界へ戻る前に取って砕いた。
そして裏切った振りをした者が内輪揉めを起こして何人かが核を砕かれたから逃げてきたと言った。
「私が逃げた事を気付かれない様にする為に其処までしたの。人間と異界の者の一番の違い、何だか知ってる?」
六花は首を振った。
「人間は死んでしまう代わりに必ず生まれ変わる。魂を消滅させる術は無いから此の世から消えたりしない。異界の者は寿命も無いし核が無事なら直ぐに再生出来るけど砕かれたら二度と生き返れない。此の世から完全に消滅するの」
「…………」
「私が凄く慕っていて仲良くしてたお姉さんが核を砕かれる内の一人に志願したの」
五馬が唇を噛み締めた。
「何時も優しくしてくれて幾度も助けてくれてた。彼の時は又助けてくれたんだって思ったけど……其だけじゃなかったって分かった」
「どう言う事?」
「私の決心を鈍らせない為。長い年月を過ごしている内に屹度躊躇う様に成るって分かってたから、私が止められない様にする為に核を砕かれる事を選んだの」
「『豊後風土記』で土蜘蛛を全滅させたのは季武君達なの? 季武君達の任地はずっと此処だったって……」
九州で土蜘蛛討伐をしたなら話してくれたはずだ。
「土蜘蛛討伐の指揮をしたのは彼奴――源頼光。当時は違う名前だったけど。彼の四人は未だ生まれてなかったと思うよ」
「え、でも、季武君が来たのは二千年近く前って言ってたよ。その頃はまだ役人はいなかったから朝廷は無かったと思うって……」
「元々土蜘蛛を滅ぼしたのは朝廷じゃないから。九州に残ってた伝説を朝廷が自分達の手柄にしただけだよ」
五馬は復讐するよう頼まれて逃げ延びたものの頼光はずっと異界に居て人間界には偶に来るだけだった。
長い時が経ち、漸く酒呑童子討伐の為に頼光が都に常駐するようになった。
北山の土蜘蛛の仲間になって頼光を襲う計画を立てたがあっさり返り討ちに遭った。
敗走中、五馬は元々北山に居た訳ではないから恐らく知られていないはずだと彼らの復讐も託され逃がされた。
実際、五馬は北山の名簿に名前が無かったから逃げても追っ手は掛からなかった。
しかし北山の土蜘蛛達全員で掛かっても敵わなかったのだ。
五馬一人ではとても復讐は叶いそうになかった。
「六花ちゃんが彼の小学生に近付いた時の様子を見て若しかしたら人間に転生させられてる強力な異界の者じゃないかと考えたの。其なら利用出来るんじゃないかと思った。まさか茨木童子だとは思わなかったけど」
確かに、あの子と初めて会ったのは五馬ちゃんと一緒の時だったけど……。
でも、あのとき五馬ちゃんは私が見鬼だって知ってたっけ?
首を傾げた六花に、
「気付いてなかったの?」
五馬が苦笑して言った。
「六花ちゃんと初めて話した時、わたし、隠形だったんだよ」
六花は目を見開いた。
あのとき五馬が驚いていたのは隠形なのに声を掛けられたからだったのだ。
「それで、あの子を鬼に……」
「そうだよ。けど茨木童子だけじゃ四天王が一人の所を襲っても太刀打ち出来なかった」
「酒呑童子の核を盗むのに協力したって言うのは……」
「茨木童子より強い鬼は酒呑童子くらいだから」
つまり人を喰っていただけではなく核を盗む事まで遣っていたのだ。
「あの……、五馬ちゃん達や鬼がこっちに来るのって何か理由があるの? 頼光様達が悪い人だとは思いたくないけど、もしかして異界から逃げたくなるような……」
「人間が美味しいから」
五馬があっさり答えた。
六花は驚いて五馬の顔を見詰めた。
「責めて迫害されてたって言えれば人間界に来る言い訳になったけど、異界の方が少しだけど次元が高いから人間みたいな種族間争いや差別感情は無いの」
だが次元が高いと言っても異界の者も生物で有る事に代わりはないし欲求が全く無くなるほど高位でもない。
だから異界の食い物より人間の方が旨いと聞いて壁に穴が開いてるのを見付けると人間界へ来てしまう者が居る。
力が有る者だと意図的に壁を破って来る場合も有る。
そして一度人間の味を覚えたらもう異界の物を食べる気にはなれなくなる。
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