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第九章 涙と光と
第十一話
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土蜘蛛のアジトの前に立ったサチは小さな巾着を黙って見詰めていた。
やがてそれを握り締めた。
中で小石が粉々に砕けた。
サチは巾着をその場に捨てると部屋に入っていった。
「此から如何する?」
メナがサチに訊ねた。
車座になった土蜘蛛達の目の前には酒呑童子と茨木童子の核が置かれていた。
「無策のまま、もう一度再生させた所で意味は無いだろう」
「元々鬼に頼ろうとしたのが間違いだったんだ」
サチが言った。
「然し、あたしらだけでは……」
「もう良い」
「え?」
「お前達は何処かへ逃げろ。わたし一人で彼奴らと決着を付ける。巻き込んで済まなかった」
サチが頭を下げた。
「一人じゃ敵わないから、あたしらを仲間にしたんだろ」
「此処に居る全員で掛かっても敵わない」
サチの言葉に皆が口を噤んだ。
「わたしは仲間達に復讐すると約束した。だから止める訳にはいかない。だがお前達は違う。他所へ行け。其処で討伐員に見付からない様に暮らせ」
サチの言葉に土蜘蛛達が顔を見合わせた。
復讐は託せない。
叶えられない望みは呪縛となって生きている限り彼らを縛り付け、自滅へと導く事になる。
サチのように。
六花が言っていた通りいつまで経っても終わらない負の連鎖となるのだ。
それはここで断ち切らなければならない。
「一つだけ頼みが有る」
サチが土蜘蛛達を見回して言った。
「何だ」
「私が痕を付けた人間が居る。彼女にだけは手を出さないでくれ」
サチはそう言うと戸口に向かった。
サチが部屋を出ると、
「サチ! 待って!」
「あたしも行く!」
その声に立ち止まって振り返った。
ミツとカズだ。
「あたしもハシの仇を取るって決めてる」
「あたしもエガの仇を討ちたい」
「本気か? 無駄死に成るのに」
サチが訊ねた。
「敵わなくて死ぬのは構わない。責めて一矢報いたい」
「あたしも」
サチは暫く黙って二人を見付めていた。
「……分かった。奴等と決着を付けよう」
「酒呑童子達の核は如何する?」
「利用出来ないものは必要ない」
サチがそう言うと二人は頷いた。
夜、四天王は一人で見回りをしていた。
と言っても四人はそれほど離れてはいない。
普段なら二人ずつに分かれて離れた場所を見て回っているのだが、今は土蜘蛛に襲われ易いようにわざと一人で歩いていた。
不意に季武の周囲で土煙が立った。
「来た!」
季武は抜刀しながら後ろに跳んだ。
跳んできた白い糸を太刀で切り裂く。
季武の声に綱達が駆け出した。
季武は納刀すると背中の弓を取った。
箙から矢を抜くと飛んでくる糸を避けながら煙に向かって射る。
「季武!」
綱達が駆け付けてきた。
土蜘蛛は姿を見せないように土煙を立てながら移動していた。
「季武! 跳べ!」
頼光が叫んだ。
季武が跳ぶのとアスファルトの中から土蜘蛛が飛び出してくるのは同時だった。
土蜘蛛の牙が季武に届く直前、頼光の放った矢が土蜘蛛を貫いた。
土蜘蛛が消える。
しかし未だ煙は消えてない。
立て続けに煙の中から白い糸が飛んでくる。
季武は脇差を抜いて糸を斬り払った。
頼光と四天王が煙に矢を放った。
漸く煙が消えた時、そこには何も居なかった。
しかし倒した手応えは無い。
「此方だ!」
頼光の声に四人が走り出す。
土蜘蛛が逃げていくのが見えた。
「居た!」
土蜘蛛は建物や人間を盾にしながら頼光の攻撃を避けていた。
頼光も人混みで弓は無理だと判断して膝丸を抜いた。
人通りの多い道では人間を傷付けられない頼光達は思うように攻撃出来ずにいた。
「綱! 後ろだ!」
先頭を走っていた頼光が前を向いたまま叫んだ。
綱が横に飛んだ。
土の中から飛び出してきた土蜘蛛の牙が空を切った。
金時が駆け寄って鉞を払った。
右側の脚を四本同時に失った土蜘蛛が動けなくなる。
そこへ綱が髭切を突き立てた。
断末魔の叫び声を上げて土蜘蛛が消えた。
土蜘蛛が一戸建ての屋根の上に飛び乗った。
そこへ季武が矢を放つ。
土蜘蛛が後ろに飛び退く。
綱達が追い縋る。
季武が続けて矢を射た。
土蜘蛛は糸を飛ばして綱達を寄せ付けないようにしながらどんどん後ろに跳んでいく。
季武も屋根を飛び移り土蜘蛛と並行しながら矢を射かける。
綱達も追い掛けていく。
頼光はマンションの屋上に飛び乗った。
上から周囲を見回した。
左斜め前方に工事中のビルが見えた。
季武は矢を射掛け続けた。
頼光はマンションから飛び降りると、土蜘蛛の死角に回り込んだ。
そこから四天王に目配せして工事現場に視線を向けた。
正面に居た綱が少しずつ右に回り、左の貞光が正面を開けないようにする振りで僅かに右に寄って左後方を空けた。
右側に居た金時が深く踏み込んで鉞を振り下ろす。
土蜘蛛が徐々に左後方へと追い立てられていく。
季武が右側から次々に矢を放つ。
綱は正面を空けないようにしながら右前方から髭切で斬り付けた。
髭切が土蜘蛛の脚の一本を切り落とす。
「ーーーーー!」
土蜘蛛が頼光に糸を続けて吐き掛けると、季武達がそれぞれ攻撃した。
土蜘蛛が四天王に気を取られた隙に頼光がそこから離れて工事現場に先回りした。
土蜘蛛が後退しながら工事現場に入ってきたとき頼光が膝丸を一閃させた。
ビルの足場が土蜘蛛に向けて倒れていく。
綱達が巻き込まれないように後ろに飛び退いた。
土蜘蛛も前に出ようとしたが季武が立て続けに放った矢を反射的に避けようと後ろに下がった時、足場が土蜘蛛の上に落ちてきた。
土蜘蛛が鉄パイプや板の下敷きになって埋もれた。
やがてそれを握り締めた。
中で小石が粉々に砕けた。
サチは巾着をその場に捨てると部屋に入っていった。
「此から如何する?」
メナがサチに訊ねた。
車座になった土蜘蛛達の目の前には酒呑童子と茨木童子の核が置かれていた。
「無策のまま、もう一度再生させた所で意味は無いだろう」
「元々鬼に頼ろうとしたのが間違いだったんだ」
サチが言った。
「然し、あたしらだけでは……」
「もう良い」
「え?」
「お前達は何処かへ逃げろ。わたし一人で彼奴らと決着を付ける。巻き込んで済まなかった」
サチが頭を下げた。
「一人じゃ敵わないから、あたしらを仲間にしたんだろ」
「此処に居る全員で掛かっても敵わない」
サチの言葉に皆が口を噤んだ。
「わたしは仲間達に復讐すると約束した。だから止める訳にはいかない。だがお前達は違う。他所へ行け。其処で討伐員に見付からない様に暮らせ」
サチの言葉に土蜘蛛達が顔を見合わせた。
復讐は託せない。
叶えられない望みは呪縛となって生きている限り彼らを縛り付け、自滅へと導く事になる。
サチのように。
六花が言っていた通りいつまで経っても終わらない負の連鎖となるのだ。
それはここで断ち切らなければならない。
「一つだけ頼みが有る」
サチが土蜘蛛達を見回して言った。
「何だ」
「私が痕を付けた人間が居る。彼女にだけは手を出さないでくれ」
サチはそう言うと戸口に向かった。
サチが部屋を出ると、
「サチ! 待って!」
「あたしも行く!」
その声に立ち止まって振り返った。
ミツとカズだ。
「あたしもハシの仇を取るって決めてる」
「あたしもエガの仇を討ちたい」
「本気か? 無駄死に成るのに」
サチが訊ねた。
「敵わなくて死ぬのは構わない。責めて一矢報いたい」
「あたしも」
サチは暫く黙って二人を見付めていた。
「……分かった。奴等と決着を付けよう」
「酒呑童子達の核は如何する?」
「利用出来ないものは必要ない」
サチがそう言うと二人は頷いた。
夜、四天王は一人で見回りをしていた。
と言っても四人はそれほど離れてはいない。
普段なら二人ずつに分かれて離れた場所を見て回っているのだが、今は土蜘蛛に襲われ易いようにわざと一人で歩いていた。
不意に季武の周囲で土煙が立った。
「来た!」
季武は抜刀しながら後ろに跳んだ。
跳んできた白い糸を太刀で切り裂く。
季武の声に綱達が駆け出した。
季武は納刀すると背中の弓を取った。
箙から矢を抜くと飛んでくる糸を避けながら煙に向かって射る。
「季武!」
綱達が駆け付けてきた。
土蜘蛛は姿を見せないように土煙を立てながら移動していた。
「季武! 跳べ!」
頼光が叫んだ。
季武が跳ぶのとアスファルトの中から土蜘蛛が飛び出してくるのは同時だった。
土蜘蛛の牙が季武に届く直前、頼光の放った矢が土蜘蛛を貫いた。
土蜘蛛が消える。
しかし未だ煙は消えてない。
立て続けに煙の中から白い糸が飛んでくる。
季武は脇差を抜いて糸を斬り払った。
頼光と四天王が煙に矢を放った。
漸く煙が消えた時、そこには何も居なかった。
しかし倒した手応えは無い。
「此方だ!」
頼光の声に四人が走り出す。
土蜘蛛が逃げていくのが見えた。
「居た!」
土蜘蛛は建物や人間を盾にしながら頼光の攻撃を避けていた。
頼光も人混みで弓は無理だと判断して膝丸を抜いた。
人通りの多い道では人間を傷付けられない頼光達は思うように攻撃出来ずにいた。
「綱! 後ろだ!」
先頭を走っていた頼光が前を向いたまま叫んだ。
綱が横に飛んだ。
土の中から飛び出してきた土蜘蛛の牙が空を切った。
金時が駆け寄って鉞を払った。
右側の脚を四本同時に失った土蜘蛛が動けなくなる。
そこへ綱が髭切を突き立てた。
断末魔の叫び声を上げて土蜘蛛が消えた。
土蜘蛛が一戸建ての屋根の上に飛び乗った。
そこへ季武が矢を放つ。
土蜘蛛が後ろに飛び退く。
綱達が追い縋る。
季武が続けて矢を射た。
土蜘蛛は糸を飛ばして綱達を寄せ付けないようにしながらどんどん後ろに跳んでいく。
季武も屋根を飛び移り土蜘蛛と並行しながら矢を射かける。
綱達も追い掛けていく。
頼光はマンションの屋上に飛び乗った。
上から周囲を見回した。
左斜め前方に工事中のビルが見えた。
季武は矢を射掛け続けた。
頼光はマンションから飛び降りると、土蜘蛛の死角に回り込んだ。
そこから四天王に目配せして工事現場に視線を向けた。
正面に居た綱が少しずつ右に回り、左の貞光が正面を開けないようにする振りで僅かに右に寄って左後方を空けた。
右側に居た金時が深く踏み込んで鉞を振り下ろす。
土蜘蛛が徐々に左後方へと追い立てられていく。
季武が右側から次々に矢を放つ。
綱は正面を空けないようにしながら右前方から髭切で斬り付けた。
髭切が土蜘蛛の脚の一本を切り落とす。
「ーーーーー!」
土蜘蛛が頼光に糸を続けて吐き掛けると、季武達がそれぞれ攻撃した。
土蜘蛛が四天王に気を取られた隙に頼光がそこから離れて工事現場に先回りした。
土蜘蛛が後退しながら工事現場に入ってきたとき頼光が膝丸を一閃させた。
ビルの足場が土蜘蛛に向けて倒れていく。
綱達が巻き込まれないように後ろに飛び退いた。
土蜘蛛も前に出ようとしたが季武が立て続けに放った矢を反射的に避けようと後ろに下がった時、足場が土蜘蛛の上に落ちてきた。
土蜘蛛が鉄パイプや板の下敷きになって埋もれた。
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