赤月-AKATSUKI-

月夜野 すみれ

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第六章 望

第五話

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 繊月丸に案内されて着いたのは、峰湯のすぐ近くにある稲荷神社のほこらの前だった。
 祠の入り口が開いている。

「ここ」
 繊月丸が入り口を指した。
「こんな小さな祠?」
「ここはただの入り口。中は地下世界に通じてる」
 夕輝は太一と祥三郞の方に向き直った。

「本当にいいの? きっとかなり危ないよ」
「兄貴の行くところならどこにだって付いてきやす」
「危ないなら尚のこと、戦力は多い方がいいでしょう」
「有難う」

 お唯ちゃんや椛ちゃん、お里ちゃんを助け出すだけではなく、この二人も無事に帰らせないと……。

 繊月丸が先頭に立って狭い入り口に入っていった。

 入り口はすぐに下り階段になっていて、かなり長かった。

 確かにこれだけ長ければ地下の世界に繋がっていそうだ。
 照明はないのに何故かほのかに明るかった。
 階段は狭く、周りは濁った青とオレンジがかった黒っぽいものが混ざり合った色をしていた。

「気味の悪いところでやすね」
 太一が辺りを見回しながら言った。
「太一、よそ見して足踏み外すなよ」
「へい」
 と言った瞬間、太一は足を踏み外した。
「わ!」
 太一はよろけて壁にぶつかった。

「うおっ!」
 太一がいきなり飛び退いた。
「どうした!?」
「壁に触ったらぶよぶよねばねばしてて気持ち悪かったんでやす」
 それを聞いた祥三郞が壁に触った。
「本当ですね」
 等と言いながらぺたぺたと触っている。

 祥三郞君ってチャレンジャーだな。
 気持ち悪いって言われたのに、わざわざ触るなんて。

「早くここを出やしょう」
 そう言って太一が階段を下りだしたので、夕輝達も再び下りはじめた。
 それにしても、かなり下りたはずなのに、未だに終わりが見えない。
「長い階段ですね」
「そうだね。どこまで続いてるんだろう」

 もしかして、階段がループしていて永遠に出口に辿り着けないんじゃ……。

 そう思ったとき、出口が見えてきた。

 ようやく階段を下りきると、今度は通路がどこまでも続いていた。

 ここの天井や壁も階段と同じく、濁った青とオレンジがかった黒い色のまだらで、灯りもないのにほのかに明るかった。
 高さも幅も、刀を振り回せるだけはあるな、と見て取った。

「十六夜」
 繊月丸が夕輝を見上げて言った。
「結界が張ってある。刀になれない」
「え!?」
 鉄扇で何とかなるかな。
 と思ったとき、
「夕輝殿!」
 祥三郞が声を上げた。
「向こうから……」

 指された方を見て絶句した。
 顔は一つで、両手両足がある、と言う点だけを見れば人間のようだが、頭の部分は蜘蛛のそれだった。
 それが次々に通路の脇道から出てくる。
 どれも刀を持っていた。

「兄貴! あっちからも!」
 通路の反対側からも同じ化け物達が刀を手に出てくる。
「繊月丸、あれが地下蜘蛛ってヤツか?」
「うん」
「念のために聞いておくけど、あれを殺しても人殺しで捕まったりしないな」
「人間じゃないから大丈夫」
「夕輝殿、ここは拙者が……」
 祥三郞が抜刀した。

「数が多い。俺も戦うよ。太一、繊月丸、階段へ」
 夕輝は祥三郞と並んで階段への入り口の前に立った。
 これで夕輝と祥三郞が倒されない限り、太一と繊月丸は大丈夫だろう。
 まぁ、繊月丸は心配するまでもないかもしれないが。

「祥三郞くん、脇差貸してくれる?」
 夕輝は祥三郞から脇差を借りた。
「脇差は太刀より短い故、太刀の間合いでは届かないですよ」
「分かった。有難う」
 そう言っている間にも地下蜘蛛が近付いてきた。

「ーーーーー!」
 人には出せないような甲高い声を上げて地下蜘蛛の一匹が斬りかかってきた。
 夕輝は地下蜘蛛の太刀を脇差で受け止めた。
 その瞬間、脇差が折れた。

「うおっ! 祥三郞くん、ごめん!」
 夕輝は脇差を投げつけながら後ろへ飛んだ。
 次の地下蜘蛛が刀を振り下ろしてきた。
 夕輝は体を開いて刀をかわすと、右手で柄を掴み、左手で峰を押した。
 刀が地下蜘蛛の手を離れる。
 刀を奪いそのまま逆袈裟に斬り上げた。
 地下蜘蛛の緑がかった白っぽい体液が飛び散った。

「げ!」
 夕輝はとっさに後ろに飛び退いた。

 祥三郞も地下蜘蛛を切り倒していた。
 地下蜘蛛が斬りかかってきた。
 真っ向に振り下ろされた刀を上に弾き、胴を払った。
 体液と内臓らしきものが地下蜘蛛の胴から溢れた。
 そのまま斜め後ろから斬りかかってきた地下蜘蛛を逆袈裟に斬り上げる。
 更に横に払うと地下蜘蛛の頭が飛んだ。
 首から体液を飛び散らせながら地下蜘蛛が倒れる。
 次の地下蜘蛛の小手を打った。

「ーーー!」
 地下蜘蛛が悲鳴を上げながら刀を取り落とした。
 腕が変な方向に曲がっていたが、切れてはいなかった。

 体液を浴びすぎて斬れなくなったのだ。

 そういえば、繊月丸は刃こぼれもしなかったし、いくら斬っても切れ味は落ちなかった。
 勿論、折れたりもしなかった。
 それが普通なのかと思っていたが、どうやら繊月丸は特別なようだ。

 夕輝はその地下蜘蛛の心臓があるかもしれない場所を貫いた。
 地下蜘蛛の胴を蹴りながら後ろに刀をひいた。地下蜘蛛が倒れる。

 刀を抜いた勢いのまま、後ろにいた地下蜘蛛の頭を柄頭つかがしらで殴った。

 ぼこっ!

 と言う音がして地下蜘蛛の側頭部が陥没した。
 返す刀で正面から来た地下蜘蛛を袈裟に斬り下ろそうとした。
 が、硬いものが砕ける音がしただけで斬れなかった。

「ーーー!」
 地下蜘蛛が刀を取り落とす。
 夕輝はその地下蜘蛛に真っ向から刀を斬り下ろした。
 地下蜘蛛の頭が潰れた。

 あと三匹か。
 祥三郞も既に何匹か倒していた。
 夕輝は大きく息を吐いて呼吸を整えると、刀を構えた。

 地下蜘蛛が真っ向に斬り下ろしてくる。
 それに刀を逆袈裟に振るって脇腹に叩き付け、よろめいたところで胸を貫いた。
 刀を抜くと、思い切り横に払った。

 斬りかかってきた地下蜘蛛の側頭部に決まった。
 地下蜘蛛の頭が潰れた。
 地下蜘蛛は悲鳴も上げずに倒れた。
 残りの一体は祥三郞が倒していた。
 夕輝も祥三郞の肩で息をしていた。

「兄貴! 大丈夫でやすかい」
「うん。祥三郞君は?」
「拙者も大事ありません。急いだ方がよさそうですね」
「あ、祥三郞くん、脇差折れちゃった。ごめん」
「お気にめさるな。それより先を急ぎましょう」
「うん。あ、ちょっと待って」
 夕輝は持っていた刀を捨てて、地下蜘蛛の持っていた刀を拾った。

「あ、拙者も」
 祥三郞も自分の刀を捨てて、落ちていた刀を拾った。
「捨てちゃっていいの?」
 夕輝のは地下蜘蛛から奪ったものだが、祥三郞のは自分の刀だ。

「あれだけ斬り合ったら、もう鞘にも入らぬ故」
 祥三郞がそう言うと、繊月丸が先に立って歩き出した。
 夕輝と祥三郞のやりとりを聞いてた太一は、刀を何本か拾って抱えた。

「太一、それ、どうすんだ?」
「この先もあの化け物と戦うなら予備があった方がいいかと思いやして」
「ありがと。抜き身だから気を付けろよ」
「へい」
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