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EP01「〔魔女獄門〕事変」
SCENE-035 >> そして、善を行うことと施しをすることとを、忘れてはいけない。神は、このようないけにえを喜ばれる。
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――幼き女神があなたを注視しています。
AWOで、プレイヤーに『野良クエ』と呼ばれている類のクエストが発生するのは、いつだって唐突だ。
――ちりんっ。
小さな鈴でも鳴らしたような、実体のない音がして。私の視界の片隅に、たった今、発生したばかりのクエストに関するインフォメーションウィンドウが開かれる。
……こっちでは初クエじゃない? これ。
視界を遮らないよう小さく開いたウィンドウを目に付くところまで引っ張ってきて、拡大して。そこに羅列されたテキストに視線を走らせるまでが、条件反射と言っていいくらいの慣れた挙動だった。
[クエスト名『神の代理人として』
クエスト概要:幼き女神はあなたの助けを必要としています。幼き女神を助け、異邦の地とそこに暮らす人々へとその神威を知らしめましょう。
達成条件一、異邦の地に正しく神を祀り、祈りの場を調える。
達成条件二、神の代理人として、異邦の民と契約する。
達成条件三、神への正しい『祈り』を広める。
受注報酬:称号【代行者】
達成報酬:契約の地]
AWOには、何かしらのギルドやどこかしらの斡旋所、はたまた巷の掲示板などから能動的に、仕事として受注するクエストの他に、こうして否応なく巻き込まれるタイプのクエストもあって。
このタイミングで発生したクエストが、すぐそこでわだかまっている『闇』や、その根源である月女神にまったく関係ないなんてこと、あるわけがないのだけれど。
……うわぁ……。
クエスト情報をつぶさに読み込んだ私が、露骨に顔を顰めると。私個人を対象としたシステムアナウンス――幻世風に言うと『世界の声』――が聞こえず、電脳領域に開かれているウィンドウの類も見えていないカガリが「何かあった?」と、様子伺いの声をかけてくる。
「クエスト生えた……」
私がAWOを『よくできたゲーム』だと思っていた頃から、NPCのくせに賢いな、と面白がってあれこれ教えていたことが幸いして。カガリ――幻世産のモンスター――には、それだけで話が通じた。
「何かミリーによくない内容だったの?」
AWOには『地雷クエ』なんて呼ばれたりする、達成するとプレイヤーに不利益が生じるようなクエストも、ちょくちょくあって。
だからこそ、クエストが発生したらその場で内容を確認する、という地道な保身が重要になってくるわけだけど。
……これって、つまり私が代行者として取り持った『異邦の民との契約』によってもたらされる土地をもらえる、ってことよね……?
破格の報酬と言えば聞こえはいいが、どう考えても私の手には余る。『こういうクエストには気をつけましょうね』と、初心者プレイヤーへの教材に使ってもいいくらいの、見事な地雷クエだ。
「条件はともかく、報酬が重い」
「ペナルティがないなら無視したら?」
「うーん……」
……あの『闇』だけどうにかして、それ以外を無視するのは、確かにありかも?
一介のゲーマーとして、『クエスト』というものに対する義務感というか、達成しなければ、という意識を少なからず持っている私が、カガリの助言を受けて、クエストの『抜け道』について考えはじめた矢先。
ちりんっ、と。また、実体のない音がした。
――受注済みのクエスト内容が更新されました。
――更新されたクエスト内容を確認しますか? Y/N
……タイミング的に、嫌な予感しかしない……。
それでも確認しないわけにはいかない。
一旦閉じて、また開きなおしたウィンドウに目を走らせると。その内容は不信心な魔女とその使い魔の不届きな考えを見透かしたよう、私の逃げ道を念入りに塞ぐ形で更新されていた。
[クエスト名『神の代理人として』
クエスト概要:幼き女神はあなたの助けを必要としています。幼き女神を助け、異邦の地とそこに暮らす人々へとその神威を知らしめましょう。
達成条件一、異邦の地に正しく神を祀る。
達成条件二、神の代理人として、異邦の民と契約する。
受注報酬:称号【代行者】
達成報酬:契約の地 / 神造生物(無条件でテイム可能) ←New!]
「『New!』じゃないんだわ……」
条件を緩め、クエストの達成を容易にしたうえで報酬を足してくるというのは、斬新な脅迫方法だ。
報酬の規模が大きすぎると、なんとか受け取らない方向で済ませようと考えていた私には、それが覿面に効いてしまうわけで。
……やるしかないやつだ……。
これ以上は手に余るどころの話ではないと、私が腹を括ると。
その決意に応えるよう、再びのシステムアナウンスが。
――幼き女神により神威の代行者が指名されました。
――称号【オラクル】を獲得しました。
――称号【月女神の神子】の一部効果が、称号【オラクル】の効果に統合されます。
――称号【オラクル】の神威により、烙印【異端の魔女】の呪縛が消滅します。
//引用 ヘブル人への手紙 (口語訳)13:16
AWOで、プレイヤーに『野良クエ』と呼ばれている類のクエストが発生するのは、いつだって唐突だ。
――ちりんっ。
小さな鈴でも鳴らしたような、実体のない音がして。私の視界の片隅に、たった今、発生したばかりのクエストに関するインフォメーションウィンドウが開かれる。
……こっちでは初クエじゃない? これ。
視界を遮らないよう小さく開いたウィンドウを目に付くところまで引っ張ってきて、拡大して。そこに羅列されたテキストに視線を走らせるまでが、条件反射と言っていいくらいの慣れた挙動だった。
[クエスト名『神の代理人として』
クエスト概要:幼き女神はあなたの助けを必要としています。幼き女神を助け、異邦の地とそこに暮らす人々へとその神威を知らしめましょう。
達成条件一、異邦の地に正しく神を祀り、祈りの場を調える。
達成条件二、神の代理人として、異邦の民と契約する。
達成条件三、神への正しい『祈り』を広める。
受注報酬:称号【代行者】
達成報酬:契約の地]
AWOには、何かしらのギルドやどこかしらの斡旋所、はたまた巷の掲示板などから能動的に、仕事として受注するクエストの他に、こうして否応なく巻き込まれるタイプのクエストもあって。
このタイミングで発生したクエストが、すぐそこでわだかまっている『闇』や、その根源である月女神にまったく関係ないなんてこと、あるわけがないのだけれど。
……うわぁ……。
クエスト情報をつぶさに読み込んだ私が、露骨に顔を顰めると。私個人を対象としたシステムアナウンス――幻世風に言うと『世界の声』――が聞こえず、電脳領域に開かれているウィンドウの類も見えていないカガリが「何かあった?」と、様子伺いの声をかけてくる。
「クエスト生えた……」
私がAWOを『よくできたゲーム』だと思っていた頃から、NPCのくせに賢いな、と面白がってあれこれ教えていたことが幸いして。カガリ――幻世産のモンスター――には、それだけで話が通じた。
「何かミリーによくない内容だったの?」
AWOには『地雷クエ』なんて呼ばれたりする、達成するとプレイヤーに不利益が生じるようなクエストも、ちょくちょくあって。
だからこそ、クエストが発生したらその場で内容を確認する、という地道な保身が重要になってくるわけだけど。
……これって、つまり私が代行者として取り持った『異邦の民との契約』によってもたらされる土地をもらえる、ってことよね……?
破格の報酬と言えば聞こえはいいが、どう考えても私の手には余る。『こういうクエストには気をつけましょうね』と、初心者プレイヤーへの教材に使ってもいいくらいの、見事な地雷クエだ。
「条件はともかく、報酬が重い」
「ペナルティがないなら無視したら?」
「うーん……」
……あの『闇』だけどうにかして、それ以外を無視するのは、確かにありかも?
一介のゲーマーとして、『クエスト』というものに対する義務感というか、達成しなければ、という意識を少なからず持っている私が、カガリの助言を受けて、クエストの『抜け道』について考えはじめた矢先。
ちりんっ、と。また、実体のない音がした。
――受注済みのクエスト内容が更新されました。
――更新されたクエスト内容を確認しますか? Y/N
……タイミング的に、嫌な予感しかしない……。
それでも確認しないわけにはいかない。
一旦閉じて、また開きなおしたウィンドウに目を走らせると。その内容は不信心な魔女とその使い魔の不届きな考えを見透かしたよう、私の逃げ道を念入りに塞ぐ形で更新されていた。
[クエスト名『神の代理人として』
クエスト概要:幼き女神はあなたの助けを必要としています。幼き女神を助け、異邦の地とそこに暮らす人々へとその神威を知らしめましょう。
達成条件一、異邦の地に正しく神を祀る。
達成条件二、神の代理人として、異邦の民と契約する。
受注報酬:称号【代行者】
達成報酬:契約の地 / 神造生物(無条件でテイム可能) ←New!]
「『New!』じゃないんだわ……」
条件を緩め、クエストの達成を容易にしたうえで報酬を足してくるというのは、斬新な脅迫方法だ。
報酬の規模が大きすぎると、なんとか受け取らない方向で済ませようと考えていた私には、それが覿面に効いてしまうわけで。
……やるしかないやつだ……。
これ以上は手に余るどころの話ではないと、私が腹を括ると。
その決意に応えるよう、再びのシステムアナウンスが。
――幼き女神により神威の代行者が指名されました。
――称号【オラクル】を獲得しました。
――称号【月女神の神子】の一部効果が、称号【オラクル】の効果に統合されます。
――称号【オラクル】の神威により、烙印【異端の魔女】の呪縛が消滅します。
//引用 ヘブル人への手紙 (口語訳)13:16
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