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グランド・アーク
宿敵
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スイビーに詳しいダランの案内に従い、スフィアは次の目的地、港町ニーチを目指していた。
スフィアの素性を、ダランは細かく追及したりはしなかった。ゼロという存在に関わっているという特異性もないとは言えない。ただそれ以上に、生まれ持ったのであろう高貴な雰囲気を、スフィアが隠せないためであった。
「とにかく、疲れたら無理しないで休め。それから、戦いには参加しなくて良いからな」
ダランは手短に、かつ的確に指示を出す。スフィアは必要以上にあれこれ考えず、旅に集中する事が出来た。
食糧は、携帯食を十分にダランが持っていたし、上級冒険者に相当するため、ダランは金銭面もかなりの物だ。
冒険者に明確なランク付けは存在しないが、知名度や解決した依頼の内容などで得た名声により、優れた冒険者は上級と認められる。
初級冒険者や中級冒険者はどちらかと言えば自称であるのに対し、上級冒険者は人々に認められている証なのだ。
ダランはスフィアに、その証たるドラゴン勲章を見せた事がある。
「ダランさんの家族は、どんな人たちなのですか」
自分の生い立ちは話さないが、スフィアはダランの個人情報をどんどん聞き出そうとする傾向があった。
かよわい女子が、信頼出来る仲間かを確かめるという大義名分。ダランはスフィアの帝王学に、時折こうして逆らえないのだ。
「妻は、バルタークに住んでいた」
しかしその不幸な事実が、スフィアの気持ちを沈ませた。
「子どもはいない。二人で慎ましく、暮らしていたんだ。だが、私は夢を追うため、妻を捨てた。ろくでもないジジイさ」
そう言ってから、ダランはドラゴン勲章をスフィアに見せた。そして「ちょっとした有名人なんだ」と、ダランは自嘲気味に笑った。
スフィアは何も言えなかった。守られている手前というのもあるし、気の利いた言葉が思い付かなかったのだ。
「奥様、無事だと良いですね」
「もう、妻ではない。私から離縁したんだ。それに、かれこれ10年も前の話だ。今頃、もっと気楽に暮らせる土地で上手くやっているさ」
考えに考えたスフィアの言葉と、ダランの短い会話。これだけで、その日は終わった。
厳しくも前進していく旅路は続いた。
ゾーンは、突然に現れた。
【王女よ、探したぞ】
声は、脳に直接語りかけてきた。
「あなたは、あの時の」
スフィアははっきりと覚えていた。ゾーン自身、幻覚魔術を解いているので、スフィアが見慣れた恐ろしい魔法人形、本来の姿を露にしていた。
「こいつは何物だ。俺が相手にしてきた人形とは、まるで格が違う」
ダランは語気を強めた。
熟練の戦士は、相手の力量を気配だけで計ることが出来るという。つまりダランは、そうした技術をも身に付けているのだろう。
【グランド・アーク。そこで貴様らを待つ。強くなれ。我輩を楽しませよ】
戦闘の構えを取ったダランを嘲笑うかのように、ゾーンは姿を消した。
たとえではない。消滅したのだ。
「おそらく、転移魔法だろう」
ダランは語る。
魔法は〈世界の秘密〉として禁忌だが、ただ禁忌とするだけでは、使われても魔法と見抜けない。
そのため、魔法の使用法は知られていない代わりに、魔法の分類と効果は教養として誰でも学ぶ事が出来るのである。
スフィアは王族なので、ダランの説明は全て分かっていたが、知らないふりをした。その方が一般の冒険者らしいと考えたのだ。
知ってか知らずか、ダランは転移魔法の特長の説明に入った。
「転移魔法は、使用者の魔力によってどこまで転移、つまりワープ出来るかが定まる。ヤツの強さならば、おそらくどこにでも行けるだろう」
スフィアはそこで、口を挟んだ。
「という事は、グランド・アークなる場所を探すしかないのでしょうか」
「グランド・アークは確か、場所ではない。箱だ。巨大な魔力が封じられた箱。それがどこにあるかまでは、私にも分からないのだ」
悔しそうに、ダランは氷の地面を蹴った。
「だが、あんな禍禍しい気は放っておけない。ヤツが待つと言うなら、たとえ罠でも行かねばならないだろう」
二人は、情報収集から始める事にした。
幸い、近くに町があったため、そこでグランド・アークについて聞き込みを始めた。
壁の町、ヒルミス。
しかしそこは決して、聞き込みに向く地ではない。
無言。行き交う人は、余所者をかぎ分けて絶対に歓迎しない。
外観が高い石壁で囲まれているだけではない。
人の心にまで、壁があるのだ。
「うーむ。噂には聞いていたが、ここまでとは。まるで取り付くしまもない」
ダランは、うなだれた。
ただスイビーには他の町も少なくはないし、明らかにここよりは友好的だろう。
その事をスフィアはダランに告げた。
「それは、そうなのだが。私の勘が正しければ、ここでなければならんのだ」
冒険者には、勘は必需品だ。
知識や体力ももちろん必要だが、不運では意味がない。
そして、上級冒険者ダランの勘は皮肉にも、壁だらけの町に働いてしまったのだった。
スフィアの素性を、ダランは細かく追及したりはしなかった。ゼロという存在に関わっているという特異性もないとは言えない。ただそれ以上に、生まれ持ったのであろう高貴な雰囲気を、スフィアが隠せないためであった。
「とにかく、疲れたら無理しないで休め。それから、戦いには参加しなくて良いからな」
ダランは手短に、かつ的確に指示を出す。スフィアは必要以上にあれこれ考えず、旅に集中する事が出来た。
食糧は、携帯食を十分にダランが持っていたし、上級冒険者に相当するため、ダランは金銭面もかなりの物だ。
冒険者に明確なランク付けは存在しないが、知名度や解決した依頼の内容などで得た名声により、優れた冒険者は上級と認められる。
初級冒険者や中級冒険者はどちらかと言えば自称であるのに対し、上級冒険者は人々に認められている証なのだ。
ダランはスフィアに、その証たるドラゴン勲章を見せた事がある。
「ダランさんの家族は、どんな人たちなのですか」
自分の生い立ちは話さないが、スフィアはダランの個人情報をどんどん聞き出そうとする傾向があった。
かよわい女子が、信頼出来る仲間かを確かめるという大義名分。ダランはスフィアの帝王学に、時折こうして逆らえないのだ。
「妻は、バルタークに住んでいた」
しかしその不幸な事実が、スフィアの気持ちを沈ませた。
「子どもはいない。二人で慎ましく、暮らしていたんだ。だが、私は夢を追うため、妻を捨てた。ろくでもないジジイさ」
そう言ってから、ダランはドラゴン勲章をスフィアに見せた。そして「ちょっとした有名人なんだ」と、ダランは自嘲気味に笑った。
スフィアは何も言えなかった。守られている手前というのもあるし、気の利いた言葉が思い付かなかったのだ。
「奥様、無事だと良いですね」
「もう、妻ではない。私から離縁したんだ。それに、かれこれ10年も前の話だ。今頃、もっと気楽に暮らせる土地で上手くやっているさ」
考えに考えたスフィアの言葉と、ダランの短い会話。これだけで、その日は終わった。
厳しくも前進していく旅路は続いた。
ゾーンは、突然に現れた。
【王女よ、探したぞ】
声は、脳に直接語りかけてきた。
「あなたは、あの時の」
スフィアははっきりと覚えていた。ゾーン自身、幻覚魔術を解いているので、スフィアが見慣れた恐ろしい魔法人形、本来の姿を露にしていた。
「こいつは何物だ。俺が相手にしてきた人形とは、まるで格が違う」
ダランは語気を強めた。
熟練の戦士は、相手の力量を気配だけで計ることが出来るという。つまりダランは、そうした技術をも身に付けているのだろう。
【グランド・アーク。そこで貴様らを待つ。強くなれ。我輩を楽しませよ】
戦闘の構えを取ったダランを嘲笑うかのように、ゾーンは姿を消した。
たとえではない。消滅したのだ。
「おそらく、転移魔法だろう」
ダランは語る。
魔法は〈世界の秘密〉として禁忌だが、ただ禁忌とするだけでは、使われても魔法と見抜けない。
そのため、魔法の使用法は知られていない代わりに、魔法の分類と効果は教養として誰でも学ぶ事が出来るのである。
スフィアは王族なので、ダランの説明は全て分かっていたが、知らないふりをした。その方が一般の冒険者らしいと考えたのだ。
知ってか知らずか、ダランは転移魔法の特長の説明に入った。
「転移魔法は、使用者の魔力によってどこまで転移、つまりワープ出来るかが定まる。ヤツの強さならば、おそらくどこにでも行けるだろう」
スフィアはそこで、口を挟んだ。
「という事は、グランド・アークなる場所を探すしかないのでしょうか」
「グランド・アークは確か、場所ではない。箱だ。巨大な魔力が封じられた箱。それがどこにあるかまでは、私にも分からないのだ」
悔しそうに、ダランは氷の地面を蹴った。
「だが、あんな禍禍しい気は放っておけない。ヤツが待つと言うなら、たとえ罠でも行かねばならないだろう」
二人は、情報収集から始める事にした。
幸い、近くに町があったため、そこでグランド・アークについて聞き込みを始めた。
壁の町、ヒルミス。
しかしそこは決して、聞き込みに向く地ではない。
無言。行き交う人は、余所者をかぎ分けて絶対に歓迎しない。
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人の心にまで、壁があるのだ。
「うーむ。噂には聞いていたが、ここまでとは。まるで取り付くしまもない」
ダランは、うなだれた。
ただスイビーには他の町も少なくはないし、明らかにここよりは友好的だろう。
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