ココア

永井 彰

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心のカタチ

とげとげ

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 冷めたココア。

 兄はいつも、冷めてもなかなか飲んでくれない。

 兄は、引きこもりだ。
 それがなんでなのか、私は知らない風に演じている。

「引きこもりになってしまった人を、むやみに励ましたり、きつい言葉を言ってはいけません。共に歩むために、言葉を選んでみてください」

 センセイは、いつも決まってそう言う。

 心理カウンセラー、それがセンセイのお仕事だ。そして、兄は月に一度か二度くらいのペースで、センセイと『おはなし』をする。


 センセイは、話すのが上手だ。


 センセイと話していると、今までよりも少し賢くなったような、出来る事が何個か増えたような、不思議な力が湧いてくる。

 私は、高校に通っている。
 兄の事を知っている人もいるから、冷たい視線はいつもどこかに感じている。それは、とてもつらい事だ。

 でも、私の場合は友達が良かった。

 天恵あまえ天恵と言って、とても頼りになる親友だ。相談によく乗ってくれるし、酷く言われたらどう言い返せば良いのかも、的確に教えてくれる。

「あはは、まだホット・ココア飲んでくれないかあ。ドンマイ、ドンマイ」

 兄の話も、良くこうして明るく聞いてくれる。

 センセイも天恵もいたから、私たち家族は壊れなくて済んだ。

 本当に、ありがたいのと情けないのとで、私は時々、こっそりと暗い日記を付けている。

 死にたいとか、怖いとか、そんな暗い言葉。

 言ってはいけないと思うのだけれど、どこかに吐き出さないとバランスが取れないんだ。


 恥ずかしいと、自分でも思う。


 素晴らしい仲間がいながら、そんな残念な自分をまだ捨てきれていない。
 こんなに恥ずかしい事はないと、心から思ってる。

 だけど、将来の事とか、現実とか、気にしないといけない毎日はずっとあって、兄が引きこもりなのは、やっぱりちょっと難しい。

 勉強が手に付かないくらい、息苦しい時がある。

 そんな時はベッドで横になる。

 息苦しいのが収まって、何かを考えられるようになるのを待つ。

 それでやっと、私は私としてまた歩ける。


 私の中には、とげとげがある。


 それは目に見えないけど、私や私でない誰かを傷付けてしまう、危ない私なんだ。

 その事に気付いて、息苦しいのは少しだけ軽くなった。

 何なのかが分かって、不安じゃなくなったからだと思う。


 私は、私の心を知らないといけない。


 そんなキモチが、ぽこりと起きてきた。
 センセイに会いに行こう。そう、決めた。

 こんな時に答えをくれるのは、いつもセンセイなんだ。
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