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優しさのカタチ
みんな
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雨が降り始めた。
「夕方から、急な雷雨にご注意ください」
きっと、天気予報はそう言っていただろうけど、私は傘なんて持ってない。
仕方なく、駆け足で下校した。
案の定、夏風邪を引いてしまった。
38度3分。
流石に、学校は休んだ。
いつも、こんな時は陰口を言われてる。
私は天恵から全て、暗い反応は聞いている。
体調が悪いから、余計に考えすぎてしまうのもある。
だからだろうか。
私は、凄くイライラしていた。
「大丈夫か、海咲」
ノックもなしに、兄の声が、廊下からした。
なんとなく、返事をしたくなかった。
「おーい。あれ、寝てるのかな」
そのまま、足音がして静かになった。
まるで、普通の家族だ。
そんな思いが湧いて、またしても泣きそうになる。
熱があるから、感傷的なのかもしれなかった。
こん、こん。
今度はノックしてきた。私は「何」と雑な返事をした。
「多分、ココア出来たから」
兄はドア越しに、そう言った。
私たちは、リビングでココアを飲んだ。
説明書きがあるから、誰でも入れられるタイプのココアだ。
ただ、兄は人生で初めて、ココアを入れたのだろう。
溢れんばかりに、なみなみと湯が注がれ、スプーンで飲まないとこぼれてしまうのだった。
兄は、いつも家で刈り上げている坊主頭を撫でながら、嬉しそうにココアを啜っていた。
貧乏性なのだろう。スプーンは使わずに、コップに口を近付けて啜っていた。
もしかしたら、それを敢えてしたかったのだろうか。
だから一杯に湯を注いだのなら、随分と普通の兄になってきたものだ。
私は素直に、しかしひっそりと感心した。
「明日、出版社に行くんだ」
兄は唐突に、そう言った。
出版社。兄は作家を本格的に目指したいらしい。原稿を持ち込めるという話は、センセイから聞いたそうだ。
センセイは、本当に色んな事を知っている。
それ以上に本当に兄にはびっくりしている。
どこで、そこまで出来る勇気を見つけたのだろう。
もう、いじめは怖くないのだろうか。
そこで、ドアホンが鳴った。
「あ、ここで合ってるっぽいよ。樫倉さん家」
ざわざわと、鳥肌が立った。
そこにいたのは、私を悪く言うと天恵が教えてくれた、ほぼ全員。
いつも一緒に行動する事で有名で、ざっと十人はいた。
死んだ、と思った。
「あ、樫倉さん。元気?」
返事が出来ない。
どんなに教えてくれていても、いざとなると、こんなもの。
それが私なんだ。
「あの、元気?って難しい質問かな。早くしてよ。答える側だよ、樫倉さん」
気が付くと、隣に兄がいた。
「夕方から、急な雷雨にご注意ください」
きっと、天気予報はそう言っていただろうけど、私は傘なんて持ってない。
仕方なく、駆け足で下校した。
案の定、夏風邪を引いてしまった。
38度3分。
流石に、学校は休んだ。
いつも、こんな時は陰口を言われてる。
私は天恵から全て、暗い反応は聞いている。
体調が悪いから、余計に考えすぎてしまうのもある。
だからだろうか。
私は、凄くイライラしていた。
「大丈夫か、海咲」
ノックもなしに、兄の声が、廊下からした。
なんとなく、返事をしたくなかった。
「おーい。あれ、寝てるのかな」
そのまま、足音がして静かになった。
まるで、普通の家族だ。
そんな思いが湧いて、またしても泣きそうになる。
熱があるから、感傷的なのかもしれなかった。
こん、こん。
今度はノックしてきた。私は「何」と雑な返事をした。
「多分、ココア出来たから」
兄はドア越しに、そう言った。
私たちは、リビングでココアを飲んだ。
説明書きがあるから、誰でも入れられるタイプのココアだ。
ただ、兄は人生で初めて、ココアを入れたのだろう。
溢れんばかりに、なみなみと湯が注がれ、スプーンで飲まないとこぼれてしまうのだった。
兄は、いつも家で刈り上げている坊主頭を撫でながら、嬉しそうにココアを啜っていた。
貧乏性なのだろう。スプーンは使わずに、コップに口を近付けて啜っていた。
もしかしたら、それを敢えてしたかったのだろうか。
だから一杯に湯を注いだのなら、随分と普通の兄になってきたものだ。
私は素直に、しかしひっそりと感心した。
「明日、出版社に行くんだ」
兄は唐突に、そう言った。
出版社。兄は作家を本格的に目指したいらしい。原稿を持ち込めるという話は、センセイから聞いたそうだ。
センセイは、本当に色んな事を知っている。
それ以上に本当に兄にはびっくりしている。
どこで、そこまで出来る勇気を見つけたのだろう。
もう、いじめは怖くないのだろうか。
そこで、ドアホンが鳴った。
「あ、ここで合ってるっぽいよ。樫倉さん家」
ざわざわと、鳥肌が立った。
そこにいたのは、私を悪く言うと天恵が教えてくれた、ほぼ全員。
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気が付くと、隣に兄がいた。
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