ココア

永井 彰

文字の大きさ
8 / 10
人生のカタチ

つよさ

しおりを挟む
 女子たちは、去って行った。

 子ども同士のケンカだ、とか近所では言われるだろう。

 今まではそんなコトか、と軽く見ていた。

 ただ、社会に出ることで、みんなが自然に世間の荒波に揉まれて、丸くなって仲良くなれるかなんて分からない。

 そんな風になれる、という甘い思考の宗教と言われても、仕方ない。


 絶対なんてないんだ。


 今日だって、あれで済んだから良かったもののと言われれば、私に出来る事はきっと山ほどあっただろう。

 その時、私はただただ息苦しくて、何も言えず、何も出来なかった。

 兄は頼もしいとは言えなかった。
 ただ、少なくとも私より、勇気があったから。そして、心を強く持っていたから、今日はあれだけで済んだのだ。
 やっぱり、そう思いたい。


 私はまた、泣いていた。

 今度はただの、悲しみの涙だった。


「私は君たちの、先生。だけど、家族ではない。君たちが強くなるのも、大事なことなんだよ」

 心理カウンセリング。

 兄だけでなく、家族それぞれが受けることになっているから、患者でなくとも私は私で、こまめにセンセイと話す。

 ただ、センセイに励まされても、今度ばかりは私の心は暗かった。

 強くなるって、結局なんなんだろう。

「センセイ。強くなるって、どうすれば良いんですか」

「海咲さん。それはね、長い人生の中であなたが見つけていくの。あなただけが、あなたの答えを知る事が出来る」

 あなたはあなた自身の、人生の主人公なのよ。
 センセイは、カウンセリングをそう締めくくった。


 あの日以来、女子たちは来なくなった。

 安心して良いのかは、分からない。

 彼女たちもまた、人生の主人公だ。
 だから、いや、だからこそ、私を敵だと思うなら、いつかどこかで酷い何かを始めるかもしれない。


 気にしてばかりも、いられない。


 強くなる事の中に、彼女らを考えるのも含まれてはいると思う。

 だけど、今はどちらも、ただの学生。

 まず人生をどうにかしていかないと、目の前の事に立ち向かっていかないと何も始める事さえ出来ないんだ。


 私は、手付かずになりそうだった宿題を済ませた。

 兄が立ち直ろうとしていて、私が引きこもってしまっては本末転倒。

 自分で自分を励まし、やるべき事を片付けて行った。


 兄は、母と共に出版社へ向かった。

 いかに自立する気が起きても、兄はまだ世間知らずだ。

 切符を買おうとしても、都会まで行けないかもしれない。

 保護者同伴なんて、と笑われたくはないという兄に、家族みんなで配慮した。

 そして選ばれたのは、下世話な人もいそうな大手ではなく、中規模くらいの地味だが堅実な出版社だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

Zinnia‘s Miracle 〜25年目の奇跡

弘生
現代文学
なんだか優しいお話が書きたくなって、連載始めました。 保護猫「ジン」が、時間と空間を超えて見守り語り続けた「柊家」の人々。 「ジン」が天に昇ってから何度も季節は巡り、やがて25年目に奇跡が起こる。けれど、これは奇跡というよりも、「ジン」へのご褒美かもしれない。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...