ココア

永井 彰

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人生のカタチ

のりこえる

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「次の方、どうぞ」

 平日にもかかわらず、持ち込み待ちの作家志望の人たちは山のようにいた。

「樫倉 清太です。こっちは、お母さんで、あ、こちらは、母と言い、じゃなく、母です」

 緊張、という言葉の意味が、やっと分かった。

 どんなに練習しても、本番は練習とは全然違っている。

 はっきり言って、頭が真っ白だ。


 編集長が直々に、挨拶にやって来た。

 これはボクが特別扱いを受けているのではないらしい。

 編集長が社内にいる時は、そうする習慣のようだ。

「えっと、今どきはウチらくらいの出版社には、キミみたいに引きこもりから立ち直ろうって、来てくれる子は、まあ、増えてきてます」

 言いにくそうに編集長は続ける。

「引きこもりだから差別するなんて、そんな軽率な事はしません。ただ、引きこもりだから甘やかすなんて事もしません。やる気を、頑張る気持ちを、諦めない覚悟をしっかりと示して欲しいです」

 口調は事務的だが、目を見ればボクにでも、この人は本当に頑張ってきた人なのだと分かった。


「未成年だから無理、とか言うのは、ないんでしょうか」

 母は心配のあまり、質問を投げ掛けた。

「そちらに関しましても、正直に申し上げます。結論から言うなら、勉強してもらいたい事が多いです。だから我々と共に働いてくれるなら、若くから頑張ってくれるのは、ありがたい」

 編集長は更に続けた。

「むしろ心配なのは、本当に大変な仕事と分かって辞めてしまう事です。まあ、若いから他にも仕事はあるとは思う。学歴をふるいにする所も多いですが、そうじゃない所も探せばたくさんある。人生を学ぶ場。会社はそういうものなんだ、と言うのは、どこで働くにしても忘れないでくださいね」

 本当に、採用する前提ではないんだ、というニュアンスがありありと伝わってきた。


 持ち込んだ原稿は、編集部の担当者さんに目を通してもらった。

 静かに一枚一枚、手書きのノートを読んでいく。

「少し時間が掛かりますから、どうぞ、そちらのドリンクサーバーでご自由に水分補給してください」

 ドリンクサーバーと言うものの、出るのは水かお茶。

 冷たい緑茶を母と二人で飲みながら、報告を待った。


「あの、樫倉くん、だったね。乗り越える、って分かるかい」

 思いのほか、手早く原稿を読み終えてボクに話を始めた。

 人生論も含みながら、会社が目指している未来や、現実の厳しさを丸めた表現など、手短ながらも、しっかりと意味が付いた話を聞けたように思えた。


「もし、キミが作家を目指したい気持ちが消えないなら、一緒に乗り越えたいね。本当に、素晴らしい物語をありがとう」

 そう告げる担当者さんの目は、心なしか潤んでいる気がした。

 でも、もしかしたらボクの目が、緊張で涙ぐんでいたのかもしれない。
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