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869:水琴鈴
しおりを挟む大きさが私が認識しているものと、トックスが言う大きさとが違う。
「テルマ!それらをここに!」
テルマが連れてくるが、オーロラがかなり警戒している。
「オーロラ?お前は寝てていいぞ?」
「いや、起きてる。」
「寝ないと大きくなれないぞ?」
「!でも!」
「では、向こうにいってろ。ルンバの相手をしておけ。」
「・・・わかった。」
テルマが新しく作った寝床に”2人”を置く。
「マティス?」
「なんだ?」
「モウができることは、お前もできるんだな?」
「例えば?」
「移動だ。」
「そうだな。だが、移動は、コットワッツの領主の力だ。
セサミナもできるぞ?」
「あの小屋を作ったのは?どこから出した?
呼び寄せか?」
「呼び寄せではないな。」
「言えないのか?」
「説明ができない。」
「モウがいるからできるんだな?」
「そうだな。」
「みながお前の立ち位置を欲しがっているぞ?」
「そうか?」
「お互いが緑目らしいが、そんなものは何の役にも立たないぞ?」
「そうだろうな。実際にいま愛しい人はこれからのことを相談しにいっている。」
「!これからの事?なんだ?」
「それもうまく説明はできない。」
「・・・・・。」
テルマは一人考え込んでしまった。
静かになる分は別に構わない。
「旦那?いや、マティス?
前にも言ったが、あんたは説明が下手だ。
無用な勘違いを生むぞ?」
「そうか?しかし、それらをこちらが心配する必要もないだろ?
こちらに面倒が来ないかぎりはな。」
「ま、そりゃそうだ。が、できるだけ、領主さんには報告を。
弟領主に負担はかけたくないだろ?
はなしがいってりゃ、向こうも有利に動ける。」
「それはそうだな!そうしよう。」
まずは、これらの服だな。
かなり小さくなっていた。
トックスが言うには、雨の日を1回迎えたぐらいだという。
そんな小さなものは見たことがない。
セサミナも2回目が終わってから初めて見たくらいだ。
以前愛しい人が話していた耳付きの服も作ってもらった。
「それ、奥さん、ああ、モウな。
モウが話してたな。
子供、赤子の服に対する情報量はすごいな。」
「・・・・赤子が欲しいのだろうか?」
「あ?ああ。違うだろ?あれは単にかわいいものが好きなんだよ。
俺も聞いたよ?違うんだってよ。
故郷にいた時、若い時からそうなんだとよ。若いってなんだとおもったけどな。」
若い?故郷の話をトックスは聞いたのか?
私には話さない。
聞かないからか?
「おいおい。目、濃い緑になったぞ?モウもだろ?
旦那、はいはい、名前で呼ぶよ。
そうだろうなっていうのは俺がティータイで落ち着いたころには耳に入ったよ?
領主さんが話してたっていううわさ話な。
そりゃそうだろ?それは領主さんがわざと流してる話さ。はは!わかるよ!
で、モウはな。そうだな。話せばわかるよ?」
「どのような話で?」
「はははは!あんたの話だよ!」
「私?」
「そう!そりゃ本人には話さないだろうな。
いかにあんたが愛おしくてかわいいかって話さ!
母親に見せたいとよ!
これだけ自分が何かに固執するところを。
心配させていたらしい。友人の結婚も、子供ができたという話も。
自分に置き換えることはないのかといわれていたと。
いつも何かが違うと思ってた。
そうわかるようになったのは、あんた、マティスに会えたかららしい。」
「どういうことだ?」
「わからないのか?あんたに比べたら、ほかのなにもかもどうでもいいことなんだよ。
かわいいものが好きとかそういうのは別で。
な?緑の目そのものだろ?」
顔が赤くなるのがわかる。
「はいはい。惚気話はほかでやってくれ。
じゃ、作ろうか?」
「・・・・。
この後、戻らないといけないか?」
「ん?いたほうがいいのならいるし、帰ったほうがいいのなら帰るが?」
「もうすぐ愛しい人が戻るはずだ。オーロラの、リリクの名の守りの話を、
テルマに聞くことになるんだが、さっきの話も含めて、
こちらは知らないことばかりだ。なので、一緒に聞いてもらいたい。
おかしいとおもったのなら、あとで教えてもらえればいい。」
「だったら、後で旦那から聞くが?」
「人を介せばそれだけ、話が薄らぐ。
こちらは説明も下手らしいからな。」
「なら、ちょっと厄介になろうか?領主さんには連絡しといてくれ。」
「わかった。」
愛しい人がもどったらすぐ食べれるように飯の用意と、
トックスの寝床。
オーロラとテルマの分もだな。
ここに別宅を建てるか。
すでに半分は過ぎている。
村の者が寝ている間のほうがいいか。
コットワッツの商品を売る店として建てようか。
といっても、収納している家を出すだけだが。
2階に寝床を作ればいいな。
店はどうすればいい?
トックスに相談だ!
・・・・・。
なぜ、愛しい人に相談しない?
セサミナの話だとまだ、おかみさんのところにもどったという。
それからだいぶたっている。
いま、愛しい人は何をしている?
─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
久しぶりの単独行動中なので、
コットワッツ領内で用事を済ませることに。
厩に顔を出し、皆ともおしゃべり。
領外に出るとマティスが追ってくるからね。
別に隠し事をするわけではないが、一人の時のほうが、
いかにマティスを喜ばすことができるかを考えることができる。
一緒にいると甘えてしまうから。
ザバスさんとゼムさんのところでいろいろ仕入れ。
石鹸屋さん、本屋さんにも。
店はすでに閉まっていたが、先にゼムさん開けてもらうように
連絡をしてもらった。大量購入しますので許してください。
トックスさんは留守だった。
湿地に向かう頃には、月が沈んで半分は過ぎていたが、
2人も相談したいことがあったようで、歓迎してくれた。
マティスも話していた軽石の再生不可材がたまってきたとのこと。
保存用の小屋を作り、樽3個分を持ち帰ることにした。
湿地の柵に労いと砂漠際のプニカの成長具合の確認。
砂漠中央の家にも戻り、サボテンの森も見回った。
キトロスがたわわだ。逆さの木の実も。
テオブロマの種もダメもとで植える。
渓谷の大きな葉ができる木もだ。
それから、なんとなくだが、
舞を舞いたい。いつか見た舞のように。
その人は男の人だったが、
小さな舞台に一人だけ、カスタネットのような楽器で、
鈴の音と拍子木の音だけで
舞っていた。
小さな神社の秋祭り。
同じような短いリズムで、おそらくはずっと。
見ているのはわたしだけだったような気がする。
その場で足ふみするような、手はお手玉をするように上下に。
大きく、小さく。
会社勤め時代に、その神社の近くの会社に用事で行っただけ。
由来も名前も知らない。
屋台が出ていると教えられ、抜けていこうとしただけだった。
どうやってそこから戻ったかは思い出せないな。
記憶があいまいだ。
だけど、舞は覚えている。
カスタネットはすぐにできるだろうが、鈴はどうなんだ?
水琴鈴のようなものがいいな。
こういうときこそ、砂漠石大先生にお願いだ。
衣装は?
羽衣っぽいの?マッパで?
撮影する?
だけど、もうそろそろ月が沈む。
一瞬の闇。
月無し石君たちの舞台美術を頼む?
花火の演出は素晴らしかったし!
・・・・・。
よおし!いってみよぉ!!!
これは、マティスがすねた時の飴、第2弾だ。
遅くなったが、マティスのもとに帰ろう。
おかみさんと話せて、もう心の迷いもない。
マティスが悲しむことはない。
それはわたしが悲しむことがないということだ。
はやく、マティスの顔が見たい。
ご飯が食べたい。
ん?
一度もマティスからの連絡がなかったな。
問題があったら連絡はくるし、こっちの様子も常に聞いてくる。
たとえ、わかっていてもだ。
なにかあったのかな?
集中したら何をしているかわかるのかな?
マティス?今何してる?
─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
マティスに呼ばれ、2つの塊を抱えてテルマが向こうへ行った。
よくもまあ、あんなものを抱えられるものだ。
しかし、衰えたな。あれらが原因か?
ともかく、月入り前の無風時にもう一度手合わせだ。
マティスを立ち会わせればいい。
?
モウがいたときは止んでいたな。
またなにかやったのか?
結局あの周りに動いていたのは何だったんだろうか?
モウがなにかをやったと思えば疑問に思わない。
それが、疑問だな。
テルマと入れ違いに小僧がこっちに来る。
黙って、こちらを探っているな。
なかなかのものだ。
しかし、まだまだ甘い。
「おい!」
「・・・・なんだ?」
「いま、いくつだ?」
「なんで答えないといけないんだ?」
「持主は誰だ?モウか?」
「モチヌシ?なんだそれ?」
「お前に何も答えるなといった奴だ。」
「?」
「持主の名さえ言わなければ返答してもいいといわれてるんだろ?
かなり自由にさせてもらっているんだな。」
「?」
「・・・・。名は?オーロラだったな?」
「そう名乗っただろ?」
「誰がつけた?モウか?」
「?」
「親ではないだろう?」
「・・・・答える必要はない。」
「親でもない、モウでもないと。持主はいないってことだな?
リリク、そこの出だな?」
「そうらしいが?
なんでそんなことを聞くんだ?」
「お前がリリクナだからだ。
モウは知っているのか?」
「リリクナ?」
「お前のことをだ。やはり儀式はまだか。
いいか?モウは戻るんだよな?
戻ったらすぐに名の持ち主になってもらえ。
そうでないと、コープルになるぞ?」
「何のことだ?コープルになる?俺が?あれに?え?」
黙ってしまう。
話していてもあった俺への警戒がなくなった。
そこが甘い。
しかし、コープルは知っているんだな?
中途半端だな。
で、モウは知らないと。
俺のものにできるか?
早い者勝ちだ。
面白い!できれば上等!
「オーロラ?」
「え?なに?」
「
わたしのオーロラ!
宿りし肉体を支配せよ!
その血潮一滴までもが我のもの!!
我が生涯の糧となれ!!
」
伝え聞くリリクナをタパナガにする言葉をいう。
ん?やはり違うのか?
しかし、小僧がにやりと笑う。
「ジャカマシワ!!」
「「あれ?」」
2人で首を傾げた。
「なにも起こらないか。」
「なんで、飛んでいかないんだ?あ!クソジジぃ!まで言わないとだめなのか?」
「誰がクソジジだ!!!!」
「爺だろ?」
「・・・・俺は20歳だ。」
「え?だったらクソガキ?」
「お前に言われたくないな。
しかし、お前、リリクナではないのか。そうだな、違うといえば違うか。
リリクの名の守りの話は知っているのか?」
「それをあっちの爺に聞きに来たんだよ。」
「そうか。まだ聞いてないんだな?
じゃ、ここにはなにしに?」
「しらん。モウに爺が病気だって言ったらどこかに行こうって。
で、マティスがルンバのところに行けばいいってさ。」
「なんだそれ?」
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