いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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68:砂漠風

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顔色が悪い。
慌てて上から降り、頬をさすったが起きない。
からだも少し冷たい。砂漠風にやられている。

食事と水分を十分に取らないと、
砂漠の風にあたるだけで、体力が奪われていく。
食事もろくにできてなかったんだ。
あれだけの量を食べていたのに、
ここにあるのは逆さ木の実とサボテンだけだ。

家はどこにがばちょしてるんだ?
扉君のもとに戻って来たんだ、この近くか?


彼女を抱き上げると、扉が開いた。
中は木の幹が見えるわけではなく、
数段の階段、見慣れた土壁だった。
そうか、彼女がいるからか?
「すまない、扉君。はいるぞ?」

どういう理屈かわからないが、
扉をくぐると、地下の家だった。
彼女の部屋もそのままだったが、毛布がない。
鞄から毛布を出し、その上に寝かす。
ドテラは上掛けに戻っていた。

水と食事を取らさないと。
少しやつれたか?

頬に触れようとしたときに彼女が目を覚ます。
良かった。
起き上がろうとするので手を伸ばしたが
払われてしまった。
彼女は、何も言わす、石を一つ取ると、
部屋の隅の便所に入っていった。
吐き出してる。

「おい、開けろ!おい!
水分を取って!吐き気は我慢せずに吐いて!
その分水も飲んで!おい!開けろって!」

扉を叩いて声を上げるが彼女は何も言わない。
吐き戻しの音と、水を飲む音は聞こえる。
水分はとってるようだ。

横で扉を叩かれると落ち着かないだろうと、
少し離れて待つ。

彼女は私を受け入れてくれない。
もう、嫌いになったんだろうか?
好きでも嫌いでもなく、私に対する感情がなくなったのか?




便所から出てくると、さらに顔色が悪くなっていた。

「何か作るから、飯を食おう。
栄養が足りていないんだ。」

「言葉はわかってるんだろう?
何か言ってくれ!」


少し首をかしげると、
口を開けてるだけ、そのあと少し笑った。あきらめたように。

肩をつかんで彼女の目を見る。
「どうしたんだ?声は?
意味が分からなくてもいいから声出して!」

俯いてしまう。その目線が寝床を見ると、身をひるがえし、
部屋の外、扉のほうへ行く。
そんなに動いては倒れる。
あわてて追いかけると、
外に出るなり上に飛び上がった。
少しでも視界からいなくなると追えない。
自身も飛び上がり彼女のすぐ後ろで止まる。


「寝具を作ったのか?」

そう聞くが首を横に振るだけ。
聞こえていない?


白い大きな分厚い布を2枚抱え込んで、
下に降りる。

そのまま扉をくぐろうとするが、彼女がいないと
中に入れないかもしれない。
シャツの裾をつかむ。
彼女は振り返り、つかんだシャツと、私を見上げ
そのまま倒れ込んだ。

「おい!!」
今度は深く眠っているようだ。

台所の入口すぐ横に寝具を広げ
そこに寝かす。


砂漠風は喉と耳も痛める。
砂漠の砂が耳に詰まるのだ。そして炎症を起こす。
噛む食事をすれば自然と顎の動きで外に出るが、
やわらかいものばかり食べていると、耳の中に残る。
喉もだ。あのガムは口に入った砂の炎症も抑える。
顎を動かすので耳の砂もでる。
1日一度は噛むように言ったが
口臭予防だとしか言ってなかったし、ガムは私の鞄に入っていた。
砂漠の民の当たり前を彼女に教えていなかった。
一人で砂漠にいたときはからだの時間を止めていたから大丈夫だったんだ。

私も砂漠に来て、傷が癒えるころ、
タロスの言葉が分からなくなり、すぐに耳が聞こえなくなった。
次に、声が出なくなった。
もうダメなんだと思ったが、タロスは笑って教えてくれた。

流動食ばかり食べていたのと、街の人間はガムをかまないからだと。
そのときガムと貝の象嵌を施した箱をもらった。



起きたらすぐにガムを噛ませる。
声はすぐにでるし、耳も聞こえるようになる。
そうしたら、飯を食べれるように、やわらかいものを作っておこう。
米はある。チーズもあるから、栄養も取れる。
どうか、おいしい匂いで目を覚まして。






在宅で仕事をしていると時間を好きなように使えると思われがちだが、
先方が普通の企業なら朝一番で電話はかかってくる。
夜に資料を送って来て、早急にお願いしますとあるから、
睡眠時間を削って明け方送る。
寝たのが6時でも9時には電話がある。
目覚ましが電話の着信音だ。

「おはようございます。今起きました。
え?うそ?変更?はい、すぐ直します。」

そんな毎日。
向こうも早めに出社してチェックをしたのだろう。
終電で帰って始発で来る。
自分も頑張っているつもりだが、上には上がいる。
からだを壊さなければいいがと、心配もする。

使う人間と使われる人間。
もちろんわたしは後者なのだから、
馬鹿に使われたくなかった。

それが企業勤めをやめた理由。

社会人になって、学生時代の体操服を忘れる夢をよく見た。
目が覚めて夢でよかったと思う。

目が覚める。
夢だった、よかった。リアルすぎる。
あー、お布団気持ちいい。つくって大正解。
いい匂いもする。母さんなにつくってんのかな?

え?

まさに飛び起きた。
記憶が混乱する。

どこここ?え?台所?なんで?
・・・声が出ない。
音も聞こえない。怖い。

マティスが振り返る。
すぐに横に座り、ガムを差し出す。
え?おくちくさーいって?
なんなんだ、その仕打ちは!!
もっと、こう何かないのか!!

はぁーっと自分の息を嗅いでみるが
自分ではわからない。
口に強引に入れようとする。
笑ってる。なんで?

仕方がなく噛む。
耳の中でじゃりじゃり音がする。気持ち悪い。
喉がすっとしてきた。

「もういいよ、ほら、ここに捨てて?」
「あ、聞こえる。」
「声が出たね。でも、何を言ってるかはわからない。
解るようにして?」
「・・・いやだ。理解したくないって願ったのはあんただ。」
「イヤはダメってこと?
お願い、あなたを理解したいんだ。」
「・・・自分で願えばいい。もうわたし以上に力は使える。
わたしの言葉を上書きしたのはあんただ。
わたしの言葉を理解したくないって思ったから理解できないんだ!!」
「ふふ、そうか、わかった。もう、あなたの言葉が分かる。」
「あ!!」

耳も聞こえるし声も出る。
マティスにわたし以上に力を使いこなしていることを証明してしまった。
逃げないと。

「だめだよ、愛しい人。逃げないで。
あなたは私のものではないけれど、私はあなたのものだ。
置いていかないで。」

緑の目で言う。
ああ、それはわたしが言いたかったことだ。






ばさりと音がした。
振り返ると彼女が目を覚ましている。

横に座りガムを差し出した。
痛そうな顔をして、自分の手に息を吹きかけ
においを嗅いでいる。
いや、息が臭いとかそうじゃないから。
笑ってしまう。
ますますいやそうな顔をする彼女の口に
無理矢理押し付ける。

素直に噛んでくれた。
これで大丈夫。


「もういいよ、ほら、ここに捨てて?」

驚いた顔でこちらを見、ガムを小さな紙に包んで捨てた。

「******」

耳も聞こえ声も出るが、やはり言葉の意味が分からない。

「声が出たね。でも、何を言ってるかはわからない。
解るようにして?」

「・・・イヤ****************」

少し黙って イヤ という音だけ聞き取れた。

「イヤはダメってこと?
お願い、あなたを理解したいんだ。」

拒絶されている。理解したい。

「・・・自分で願えばいい。もうわたし以上に力は使える。
わたしの言葉を上書きしたのはあんただ。
わたしの言葉を理解したくないって思ったから理解できないんだ!!」

声を荒げて彼女いう。

「ふふ、そうか、わかった。もう、あなたの言葉が分かる。」
「あ!!」

---逃げないと

彼女の心の中?

逃げるなんて許さない。傲慢でもなんでもそれはもうだめだ。
彼女の為とかは無い。彼女がいれば私が幸せなんだ。
彼女がそうでなくても。彼女が幸せになるように私が努力すればいい。
ああ、そう最初に彼女が言っていたな。

「だめだよ、愛しい人。逃げないで。
あなたは私のものではないけれど、私はあなたのものだ。
置いていかないで。」


---ああ、それはわたしが言いたかったことだ。


彼女は置いて行かれると思ったのか?
どうして?

彼女の心の中はぐちゃぐちゃしてわからない。

---*KDJさいるKでSJHHHJK
---KひSJろKRへはうえF;F
---おなかすいた
---JHでH48HFきTLS@あLRR

・・・腹が減ってることだけはわかった。

「おなかすいてるだろ?米料理を作ってる。
いろいろ話すこともあるが、まずは飯にしよう。ね?」
「・・・」


---おなかすいた





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