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117:ノリノリ
しおりを挟む「昨日ぶりですね、メディング様。宿での夕食はいかかがでしたか?」
「ああ、うまかったですよ。あの味は、王都でも通用する。
宿の主人は店をたたんで、王都で店を出す話も進んでいます。」
「そうですか、それは素晴らしいですね。メディング様がそうおっしゃるということは、すでに決まったことなのですね。
ということは、あの宿屋兼食堂は売りに出すと?」
「そうなりますな。」
「そうですか、ルグ、人をやってすぐに買収してこい。
従業員は残りたいものはそのまま雇うと言ってこい。」
「はい、すぐに手配致します。」
「ほう?従業員の誰かがはんばあぐの作り方を知っているとお思いなのですか?
それはないですよ、それに、昨日の感触では、みな王都に行きたがっている。」
「いえ、はんばあぐはいいのですが、あの宿は、この街では一番の格式があったので、
それがなくなるのもったいないと思ったのですよ。
これから、あのお見せした2つの商品について、各地の知恵を集めなければいけません。
その時に来ていただいた方に泊まる場所がないなどと、恥ずかしいですからね。」
「ああ、そういうことですか。あの商品がうまく開発されることを願っていますよ。」
「ありがとうございます。」
「それで、手合わせの件ですが、やけに大事になってますね。まるで田舎の見世物のようだ。」
「とんでもない。王都の生産院のメディング様を守護する方々の腕前を、我らだけ見るのはもったいないと思いましてね。
それに、あの変動以降、民が浮足立ってる。ここで、領主としてなにか見せないと、宿屋の主人のように
この街、この領土から離れていくことでしょう。」
「ははは、さすがにお気づきでしたか?不安がっていましたよ?なので、王都行きを勧めたのです。」
「そうですか、仕方がないですね。それで、この、ああ、だいぶ人が集まってきましたね、
この中での手合わせは問題ないですか?」
「もちろん、こちらは問題ない。そうだろう?」
後ろに控えている女護衛が頷いている。先ほどからマティスに気を飛ばしているのが気にいらない。
「むしろ、問題はそちらなのでは、この領民の前で、負けでもしたら、まさしく離れていきますよ。」
「負ければでしょう?この場を設けたのはわたしだが、手合わせするは赤い塊殿だ。わたしは痛くもかゆくもない」
「それですよ、あなたはまるで傍観者だ。それでは赤い塊殿が勝とうが負けようが、
我関せずのようだ。なのに、楽しんでいる。わたしは、5000リングをここに運ぶために王都に早馬を出し、
先ほどやっと到着したのですよ。ほら、あれがそうです。あなたもこの手合わせに参加すればいい。
赤い塊が勝つか負けるか、わたしと賭けをしませんか?
5000リングとは別に5000リング用意いたしました。わたしは、我が護衛が勝つほうに、あなたは赤い塊が勝つほうに。
どうですか?」
(なんだ、正攻法で来たね。賭けちゃって。)
(ダメなんです、姉さん!いま、ここに5000リングはない、
姉さんに渡す2000リングを集めるのがいっぱいだったんです。)
(うそん!!そんなに用意してくれてたの?)
(そこに驚かないでください!)
(別に同じように物を見せる必要はないだろ?はいと言えばいい)
(・・・兄さん、そんなわけにはいきません。漏れてるんですよ、リングが5000も用意できないことが!!)
「残念です。もちろん、赤い塊殿が勝つほうに掛けたいですが、我が領土は砂漠石の産地
リングはなかなかに使わないのです。なので、5000リングは用意できないのですよ。」
「なるほど、では、”領主の力”とやらをおかけになっては?」
(あの2人ばらしてる!!)
「ははは、それこそ、無理な話、どこから聞いたかは聞きませんし、とぼけても無理でしょう。
なればこそ、逆に、5000リングでは釣り合わない。安すぎるどころか、話にもならない。」
「そうですか?なるほど。ではわたしの全財産を付けましょう。あの2人のように息子たちに譲渡するような
真似はしませんよ?わたし、生産院、副長の資産です。
そうですね、ざっとこの領土の20年分の予算でしょうか?」
(だめだ、貯えの量までばれている。)
(落ち着け、セサミナ。彼女は負けないから何も心配するな。)
(そうだよ?逆によかったじゃん、もうけもうけ)
(違いますよ、それを引き合いに出しても勝つ自信があるということです。
万に一つも負けることがないと宣言してるんですよ。
手合い中にどんな卑怯な手を使うかわからないんですよ!!)
(ああ、そうね。でも、大丈夫!ね?)
(・・・ははは、姉さんの大丈夫は、不思議ですね。)
「20年ですか?さすがは副長のメディング様ですね。
しかし、そのようなことをしてよろしいのですか?メディング様の一族がそれを許可したとは思えませんが?」
「なに、昨日のうちに作っておりました、この書類をご覧ください。赤い塊殿が勝てば、すべてあなたのものです。」
一枚の書類を出してきた。
ただの書類に見えるが、セサミンは硬直している。
「これは真名の宣言に準ずる書類形式ではないですか?
ではこのことは王都にも話はいってるのですか?」
「ええ、もちろん。お判りでしょう?ここで、断っても、王都は黙っていないのです。
あなたは王都に逆らいすぎたのですよ。」
(おお!赤い塊老人バージョンのセリフだねぇ。セサミン?だめだよ?もっとうまくやらなきゃ?)
(・・・姉さん)
(いいから、もっと威厳をもって!それに署名して!そして私との契約書類も出して!ちゃっちゃと済ます!大丈夫だから!!)
(・・・はい。)
「なるほど。ここまでお膳立てしていただいて、みすみす20年の予算を逃すこともできませんね。
ええ、わかりました。赤い塊殿が勝つほうにかけましょう。領主の力を。」
「ええ、そうですよ。」
「では、これは赤い塊殿とあなたとの契約書です。これに署名を」
「ええ、問題はないですね。ではこれで。赤い塊殿もここに。」
(わたし、ここの世界の文字はかけない!)
(なんでもいい、読めなくても署名は署名だ!)
しかたがなく、へのへのもへじと書いた。
「赤い塊殿は独特の文字を書くのですね。今日の装束は高原の民のそれだ。
よく似合っておいでですよ。それで、同じような装飾を身にまとってる横の男は誰なのですか?」
『セサミナ様、返答しても?』
「ああ、かまわない。」
『メディング様、今日の手合わせの件、わたくし本当に楽しみしておりました。
いえ、わたくしが必ず勝つなどと、過信はしておりません。
メディング様の専属配下になるときお出しするもう一つの条件が
彼とかかわりのあることなので、来ていただいたのです。
わたしが勝てば、必要ないのですが、絶対ということ少ないので、
故郷より呼び寄せました。そのときまで、声も出すことを禁じていますが、
それはご容赦ください。なにぶん、我が一族はいろいろと制限がかかっておりますゆえ。』
「そうなのか?ますます興味深い。わが配下になった時にはくわしく教えてもらおう。
その口元の覆いもなしにな。」
(マティス!!わたしを抱く時の気を送って!!すっごい奴!!)
『前にも申し上げましたが、これは伽の時のとき以外は外せないのです。
・・・あ!メ、メディング様はそういう意味で?あ、そんな、恥ずかしいです』
これをゆってることのほうが恥ずかしいが、わたしのアカデミー級の演技を見よ!!
「なんと、これはこれは、そのように恥じらうとは。うむ。その時にな。」
『はい。あ。いえ、勝負は勝負でございます。』
「そうだな。」
メディングはニヤニヤして後ろの2人は今までに一番きつい殺気を放ってる。
それでもマティスがセサミンにあてた1/100もないが。
赤くなったってもじもじしたのは、
マティスがわたしに艶っぽい気を飛ばしたからだ。
それを勘違いしている。ご苦労なこった。
(あとで、これ以上のことはしてやるからな?)
(あいあい♪)
(姉さん!!)
今のやり取りにセサミンは入っていないから顔色が悪い。
(大丈夫よ、演技演技。マティスも殺気飛ばしてないでしょ?)
(あ、そうですね。我が領土の消滅の理由が兄さんにならなくてよかったです。)
(ははは、これから繁栄していくのに衰退はないね。これは数少ない絶対の一つだよ)
わたしとの契約書名は終わり、セサミンとこのとの署名もおわった。
真名の宣言級ってことはこの世界の人にとって絶対なんだ。
廻りを見れば、もう、祭り状態。露店が出て、人々が集まっている。
あ、雑貨屋の親父がさっそくガムを売り歩いてる。さすがだ。
こちら気付いたようで、廻りの人にわたしを指さし来ている。なんだ、知らずに来たのか。
説明をもらったんだろう、王都の護衛とあの赤い服の女が戦うと。
キョロキョロしてマティスを探しているんだろうな。
わたしの後ろに視線が行くと背格好で判断したのか、安心したようだ。
マティスがいるから大丈夫と思たんだろう。安心してまたガムを売り歩いている。
「ではそろそろ始めましょうか」
セサミンが中央に出るとそれまで騒がしかった広場が、静まり返った。
「皆の者、今日はよく集まってくれた。先の大きな揺れで、けが人は出なかったが
皆の心には不安が宿ってしまったと思う。
そこで、今日はその不安を払しょくする催しを急遽行うことになった。
準備など時間のない中よくやってくれたと思う。さすが、我が領民だ。感謝する。」
頭を下げると、皆の歓声が湧いた。
「そして、この催しに協力してくれた、王都生産院の副長メディング様にも感謝申し上げたい。
メディング様の女性護衛2人と我が護衛との手合わせを皆に披露してくれるというのだ。
王都の洗礼された技をまじかに見ることができる。我が護衛もなかなかのものだ。
皆期待してくれ。
しかも買ったほうに賞金5000リングを出すという。さすが、メディング様である。」
5000リングの声を聴き、先ほどとは比べもにならない歓声が上がる。
そこかしこでメディングコールが起こる。これはどの世界でも同じだね。
しかし、メディングの方はそこまで、紹介するとは思っていないらしく、うろたえている。
「さぁ、メディング様、賞金5000リングをここにお持ちください。そして我が領民に一言!」
こうなったら、メディングも引けない。馬車で待機している、いかつい2人に、
箱を持ってこさせ、その横に立った。
「さぁ!」
「わたしがメディングだ。皆の心がすこしでも晴れればいいと思い今日の開催となった。」
人は羨望の喝さいを受けると調子に乗るものだ。その典型がこの男。
メディング様素敵ーと黄色い声援も飛んだいる。
それを手で制し、話を続ける。
「我が護衛は女性だが、腕は王都の上位に入る。2人の連携は見ものだ。
そしてセサミナ殿の護衛も女性で、そうとうな腕前だというのだ。ならば腕比べをするしかあるまい?」
そうだーーーと声が上がる。ノリがいいな。
「しかし、上官の命令で戦うのも味気ないので賞金を出したのだ。それがこれだ!!」
箱を開け5000リングをみなに見せる。
ものすごい歓声だ。わたしだって向こうにいたら上げているだろう。
「しかも、この勝負、わたしとセサミナ殿も賭けをしてある。内容は言えぬが、
勝負がついたときに公表しよう!!」
お、さすが、利用するところは利用するのね。なかなかやるな。
「では、話が長くなっては興覚めだ。さっそく始めよう。中央に」
完全にメディングが仕切り始めている。まずいな。
「さ、どちらかが戦闘不能になったら終わりだ。そして今回は」
いかつい2人に目配せし、また大きな箱をも持ってくる。
その中身は大きな砂漠石だ。わたしが見たことのある持っている石以外で一番大きな石だ。
「これを使って石の力を無効化する。そうすれば、純真に技の力による勝負になるのだ!!」
歓声がすごい。砂漠石の産出地での勝負はやはり砂漠石の力がかかわっているのだろう。
それを無効化して、5000リングを掛けて女同士が戦うのだ、そりゃ興奮するわな。
「メディング様!それは!」
セサミナが制しようとするが、ダメだな。観衆はメディングの味方だ。この2人の勝負は
メディングの勝ちだ。さすがである。
『石よ、この勝負に関してすべての石の力を無効に』
石が砂になっていく。願いがかなったのだろう。
「メディング様、なんてことを。」
「なに、本人の力同士の勝負だ。問題ないだろう。ん?赤い塊殿、今からだが揺れましたね?どうしました?」
『いえ、そこまでこの勝負のことをお考え下さったのかと、驚いただけです。』
「そうですか?ならばよいのです。どうぞ思う存分戦ってください」
(姉さん!)
(あー、びっくりしたね。服の重みが消えたからびっくりしただけ。)
(え?今日も重かったんですか?)
(うん、あの重みに慣れてたから、あー軽いわ)
(兄さん!!)
(ん?問題はないだろ?しかし、気を付けろ。軽いから攻撃も軽い。6割でいけ。)
(あいあい。)
(6割?いつもは?)
(重いからな、3割だ。)
(・・・姉さん、がんばってください。)
(うん、がんばるよー。)
彼女たちはあの石より大きな石を先に使って攻撃と守りを固めたんだろうな。
なかなかに直球で、なかなかの無駄使いだ。
瞬殺はかわいそうかな?
メディングとセサミンが離れ、2人と向き合う。
んー、向こうから来てくれないと力加減が分からんな。
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