いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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118:クイクイ

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間合いを取っているのだろうか?
こちらから攻撃するのは慣れないので、
マティスがわたしの師だと勘違いしている人が尊敬している人のまねをする。

4本の指でクイクイだ。

これの挑発が効いた。

右左、上下と飛んでくる。
なるほど連携がうまいな。彼女たちの武器は幅の広い剣だ。
少し長い。
間合いがわたしとは合わない。が、向こうからは届く。ふむ。
彼女たちに石の力がどう加わっているのかが分からないが、
あの石より大きなものを使ってこの程度なのか?
わたしが石の力を使って強いとでも思ったのか?

ルグたちとしたときと違って気持ちよさはない。
しかし、廻りの観衆は、長い剣の舞に大歓声だ。
視界の端に、マティスに詰め寄るサバスさんが見える。
あははは、心配してくれているのか。
あの男は攻撃を受けるだけのわたしに満面の笑みだ。

そろそろ、わたしの攻撃ということで。
突き付ける剣先を踏み台にしてるように見せ
ムーンサルト。
下方からかなりおろそかになっている脚を払った。

ん?

素早く距離をとる。彼女たちが笑っている。
わたしの弁慶の泣き所を撫でられた感覚がある。
ちょうど彼女の足を払った位置。

こういうの何っていうんだっけ?反転?
相手に与えた攻撃がこっちに返ってくる?
しかし、石の力が無効になった時、
マティスがわたしの体そのものに強化を掛けている。
石の力は無効だけど愛の力は永遠だね、
というとマティスはご満悦にうなずいていた。

なるほど、一応わたしは強いっていう認識はしていてくれてたのね。
それはうれしい。

では、その認識を確実に植えつけましょう。

仮面ライダーの変身ポーズを決め、
2人に突進。6割の力で、打つ、蹴る、払う。
反転される感覚がこしょばゆい。

圧倒的じゃないか 我が軍は!!


立ち上がってこない彼女たちを尻目に
今度は酔拳の酔ってないバージョンで型を披露する。
三方に礼。
そして、セサミナに礼。


うぉおおおおおお!!
大歓声が上がった。


振り返り笑顔で手を振った。うん、気持ちがよい。


「素晴らしい!!さすが、ね、、我が護衛だ!!
いや、メディング様の護衛の方々も素晴らしかった。
みな、もう一度彼女たちを称えれくれ!!」


またしても歓声が上がる。
彼女たちは抱えられて、いかつい2人に連れていかれた。
この勝負に関することに石は無効、治療もできないだろう。
んー、そもそも石ではできないのか。
石使いと呼ばれる人ならできるのかな?

メディングはカタカタと震えている。
これもいかつい2人に連れていかれた。

わたしが勝った時点で、全財産20年分の予算はセサミナのものになった。
どういう仕組みなのかな?銀行みたいに自動振込?

「さて、わたしとメディング様との賭けの内容だが、
メディング様は私財をなげうってこれから始める事業に協力していただけるのだ。
まずは公衆浴場。これは安い料金で、皆で使う風呂だ。当然男女は別だが、
風呂から外の景色を眺めることができるようなものを考えている。
気持ちも安らぎ、衛生面にもいいだろう。
そして、これはすでに聞きい及んでいると思うが、学校とそこでの食事提供だ。
まずは読み書き。これを子供のときから学んでいってほしい。
子が将来この領土を豊かにするのだ。
もちろん、時間がとれる大人も参加すればよい。
教えることができるものは教師として雇うことも考えている。
食事を作る人もな。」

歓声が上がる。

「そしてこれが此度皆に発表したかったことだ。
此度の変動で砂漠の資源が枯渇した。サボテンの森も
砂漠石も、ここ数年取れなかった海峡石もなくなった。」

しんと静まり、そこから一転怒号が飛ぶ。
安易な民衆だ。


「静かに。そこで、新事業だ。
たおるとごむというものを生産していきたい。これは後で詳しく説明するが、
家業の合間に石集めの仕事をしていた者たちは優先で雇用するので安心してほしい。」

そうか、ここの人たちは、石集めの仕事で収入を得てたのか。


(セサミン、あんな簡単な仕事で報酬をもらっていたものが
タオルづくりやゴムづくりの労働に耐えられないよ?
がんばりに応じて給金を払うってことにして
労働意欲をあげていかないと。)
(はい)

「それに、働き次第で給金を決めようと思う。頑張れば、それだけ給金がもらえるのだ。
皆、頑張ってもらいたい。その時の支払うのはリングだ。
砂漠石が取れなくなっている今、リングと交換していこうと考えている。
リングの価値はこのセサミナ、コットワッツが保証しよう。」

わからず歓声を上げる。

「手合わせも終わり、忙しい身のメディング様は帰られた。最後に挨拶もしていただきたかったが、
皆、感謝の言葉は送ろう、きっと馬車の中で聞いてくださっている。
ありがとう!メディング様!あの資金は有効に使わせていただきます!」

口々に感謝の言葉が上がる。
おいおい、たいがいだな。

「さて、せっかく皆に集まってもらったのだ、もう少し模擬戦を鑑賞したいと思うが、どうだ?」

セサミンもノリノリだ。
民衆も。娯楽が少ないのね。

「では、側近のルグとドーガーが相手だ。よろしいか?なおこれは模擬戦だ。
流れるような演武を見ていただきたい。」

ルグとドーガーが前にで、わたしも中央に出る。
小さい声で2人に言う。
「いくよ?これは演武だ。前回と同様流れに乗ればいい。
息が途切れたらわたしが気合を入れる。
そこで決めの型を披露して、礼をしたら終わり。いい」
「「はい」」


「では、3、2、1、はい、で、下がって、同時に気合を入れて開始ね。」
「「はい」」

『では、ルグ?ドーガー?行きますよ? 3、2、1、はい』

3人が下がる。

『「「はっ」」』


そこからは楽しかった。
槍が舞い、わたしも舞う。空中に飛び出すの本戦では危ないが
模擬戦ならば問題ない。
ルグとドーガーも左右対称で攻撃して来る。

やはり先にドーガーの息が乱れる。

『やあ!!』

それを合図に、ルグが槍を八の字に回し、腰を落とし右の構え。
ドーガーは頭上で回し、左の構え。
その中央をバク転しながら進み。決めポーズ。
そして礼。

うむ、大歓声も心地よい。

マティスが中央に出てきた。

(続けてするの?)
(そうだ。槍は使わない。今度は私の流れに合わせてくれ。)
(了解)

2人が下がり、マティスと向き合う。
鍛錬ではない模擬戦。
ルグが言うことが分かる。どうすればいいか決まっているのだ。
ああ、これはたのしい。

(もう息が上がるな。これで終わりだ。)
(はい)

「『はっ』」

2人で同じように宙返りを決め、いつの間にか覚えた決めポーズを決める。
そして礼。

この日一番の歓声が上がった。
セサミナも拍手している。

セサミナが中央に出る。
わたしたちは左にルグたちは右に。

「みな、楽しめたようでなによりだ。
新事業はすぐに開始というわけではないが、
それまでは、各々の家業で頑張ってもらいたい。
みなで、この変動を乗り切ろう。
最後に、また、近いうちにこのような催しを開催したいと思う。
その時は武の祭りではない。食の祭りだ。
みなも知っていよう、はんばあぐという食べ物を。それは残念ながら王都に行くそうだ。
それに匹敵するものを提供したい。楽しみにしていてくれ!
では、今日はこれで解散だ、皆ご苦労。」


セサミナコールも沸く。
よかった。あとはうまく運ぶだろう。
運営席もどきに戻ると、サバスさんがやってきていた。
「おいおい!嫁さんは何者なんだ?いや、すごかったぜ!
そうだ、これ、もらってくれ。あんたが好きだといった赤い飴と黄色いの。
それに甘いガムも作ってみた。これも。
もらった菓子をかじりながらな、作ってみたんだ。あれはうまかった。
いっぺんに食っちまったよ。
まずはみんなに知ってもらおうと配ったんだ。
紙には俺の店の名が入ってる。雑貨屋サバス、どうだ?」
「素晴らしいです。サバス様。これはよい宣伝になりますね。
一枚一枚描いたのですね。そういうときは、木に逆に掘り込み、
そこにインクを塗って押すのです。ペタペタと。
そして、もう一言、新商品いろいろ取り揃え、とか、どうですか?」
「ああ!なるほど、そいつはいい考えだ。さっそく試してみるよ。」
「ふふふ、サバス様が何もかもしなくていいのですよ。
どなたか、そういうことが得意な方に頼めばいいのです。」
「あ、そうだな、そうか、ああ、マティス!あんたの嫁さんは素晴らしいな!」
「そうだろう。そうだろう。」
「で、なんで、顔隠してるんだ?見えるのか?」
「いろいろとな。」
「そうか、もっと話したいが、することがたくさんある、帰るよ。じゃあな。」

本屋さんと石鹸屋さんも声を掛けてくれた。
やはり、マティスとわかったようだ。
口止めをし、ラスクを渡しておいた。

本屋さんは勉強用の教材を領主が買い上げてくれるから安泰だと言っていた。
石鹸屋さんは公衆浴場の話を敏感にとらえていた。
大きい石鹸だと香りの好みが合わなくなったらもったいないし、
いろいろ試したい人もいるだろう。
数回で使い切る小さなものを作ればいいかも、
それを公衆浴場で置いてもらえれば売れるかも、と
言っておいた。目が光ったのが怖かったです。

ゼムさんも近づいてきた。
「あんたが戦うとは思わなかったよ。声は出せたんだな?」
「ゼム様、申し訳ありまません。試合前のゲン担ぎなようなもので、
ご無礼致しました。」
「いやいやいいんだよ。しかし、強かった。高原の民なんだな。いいもの見れたよ。」
「ふふふふ」

笑うだけに留めておく。

「ゼム、それでな、国を出ることは変わらないんだ。草原を抜けていこうと思う。
だれか紹介してもらえないか?」
「ラーゼムに行くのか?それはいい。村長を訪ねればいいさ。そいつは俺のいとこだ。
これを渡してくれ、よくしてくれるように書いておく。」

紙と羽ペンをだし、サラサラと紹介状を書いてくれた。

「そういえばよ、お前が乳を欲しがっただろ?あんときはたまたま手に入ったからよかったが、
その話を聞いた卵屋が大量に仕入れたんだ。ほしがった相手はもういないのにご苦労なこったと
思っていたら、すべて売れたというじゃねえか。このゼムの専売を取りやがってと思ってなすぐに
俺も仕入れた。運搬は金がかかるわ、氷もいるわでえらい出費だ。
でも売れるんならいいさと思てたんだが、よくよく卵屋に聞くとその御仁はもう街には来ねえっていいやがる。
知ってて言わなかったんだ、あの野郎!で、お前乳はいらないか?」
「ああ、乳はもういいんだ。」
「そ、そうか、、、」
「セサミナ、乳はここで手に入るぞ。」
「え?そうですか?よかった、いま食材を買い直しに皆が動いているのですが、乳はないと。
ゼム、それを売ってもらえるか?」
「え?ええ、ええ、売りますとも。しかし、大量ですよ?飲むまえに腐りますよ?大人数で飲むんですか?」
「ああ、ゼムかまわないんだ。セサミナ、大丈夫だから買ってしまえ。」
「はい、では、明日にでも屋敷に運んでくれ。冷やしながら、揺らさずにな。」
「はい、わかりました。」
「それと、そのとき卵屋を連れてきてくれ、話がしたい。」
「え?あいつをですか?はぁ」

「さ、忙しくなる。」
「セサミナ、私たちはもう行く。いったん屋敷に帰ろう。いっしょにな。」
「え、ええ、わかりました。ルグ?わたしは兄上と先に戻る。あとは頼んだ。」
「はい、わかりました。」
「んじゃあね、ルグ、ドーガー。セサミンの事よろしくね。」
「はい、あ、あの?」
「ん?」
「「赤い塊殿の声でお願いします。」」
と、ルグとドーガー。マティスの冷たい気が漂う。

『ルグ、ドーガー。我らが主、セサミナ様のことくれぐれも頼みましたよ?』

「「はいっ!命に代えましてもお守りいたします。」」

『そうならないように鍛錬を続けなさい、いいですね?』

「「はいっ!承知いたしました」」

「ふふふ、んじゃ行こうか?」
「お前はこの2人に甘すぎるぞ?」
「そうですよ!」

そうして、マティスが5000リングの入った箱を持ち、わたしの腰を抱き寄せ、
わたしはセサミナの肩に手を置き移動した。










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